第14話 久しぶりのおコメとご対面
。
それから数日が経ち、私のところにウィリアム様と一人見覚えがないフードを被った男性がやってきた。
「メル様、すみません。急に来てしまい……」
「いえ。大丈夫ですよ……ウィリアム様、今日国へお帰りなんですよね?」
「はい、そうなんですが……折り入って相談が」
相談……?
「私でできることなら」
「ありがとうございます。その前に紹介させていただきます。こちら、我が国の商人であるニコラ・サチコ・スズキだ」
この人がもしかしてこの前言っていた人?
「初めまして、ニコラです。私の祖先はスズキサチコという名前で、ミドルネームとラストネームには彼女の名になっています」
ニコラさんはフードを取ると、私と同じ黒髪に目は黒に近い紺色をした日本人に近い顔をしていた。
「私はメル・フタバ・セダールントです」
「メル様、今日はお願いがあって参りました。これに見覚えはありますか?」
ニコラさんはカバンから一つの麻袋を取り出してテーブルに置いた。
「拝見してもよろしいですか?」
「ええ。もちろんです……きっと馴染みのあるものです」
私は麻袋の紐を解くと中を見た。え、これ……
「これ、お米ですよね?」
中には、玄米がぎっしりと入っている。
「はい。やっぱりご存知だったんですね」
「もちろんです。あっちの世界にいた時には毎日一回は食べていたので」
「そうなんですね! じゃあ調理法も知ってるんですか?」
調理法って白米を炊くってことかな。
「はい、一応は」
「本当ですか!? 実は、調理法がわからないので全く売れないんです……なんか美味しくないですし、ドロドロだし」
ドロドロ?
「どうにか方法を探していて……そしたらウィリアム王子があなたのことを教えてくださって!」
「そうなんですね、じゃあ炊いてみましょうか?」
「今からできるんですか!?」
「そうですね。あ、でもこれ玄米なので六時間ほどお水につける必要があります」
私が習った炊き方は、玄米なら鍋に玄米と共に水を入れて一晩寝かせてから鍋で炊くと言ったやり方だ。きっとあってるはず。
「でも、ウィリアム王子は今日お帰りなんですよね?」
「そうですね……お昼には出発予定です」
「うーん、じゃあ白米にしましょう。空の瓶ってありますでしょうか?」
瓶と棒があれば白米ができる。そうすれば六時間も寝かせる必要はない。
「これでいいですか」
「あっ、ありがとうございます」
私は玄米を瓶の中に全て入れ、クッキーを作るときに使った綿棒を持ってきて瓶の中へさした。
「えっ、これは何を……」
「いいから見ててください」
玄米を潰さないように優しく
「お水ありますか?」
「お水でございますか? ございますよ……こちらです」
「ありがとう」
侍女から水を受け取ると三回ほどお米を研ぎ鍋の中に戻した。お米が入った鍋にお米よりも多く水を入れ蓋をする。
そしたら蓋をして台所に行く。強火用のコンロで沸騰させて沸騰したら弱火のコンロに置き十五分火にかける……っと。
「もう少しですから、お待ちください」
「はい! ありがとうございます」
二人がワクワクしている中、私のワクワクも高まっていてすごく興奮している。
だって、もう食べられないと思っていたあの“お米”が食べられるってこれは興奮せずにはいられないでしょ!
そうして十五分経つと、火から下ろして十五分蒸せば完成。
「じゃーん! うわ、お米だ……なんか懐かしい匂いする」
「えっ、これがお米ですか? 今までのと全く違います。なんかツヤツヤしていて綺麗ですね」
本当にツヤツヤだよね、私も混ぜながら思ったよ。お米の香りでお腹が空いちゃいそう。
「あの、食べてもいいですか?」
「そうですね! お皿に入れます」
私はお皿を持ってきてそこに熱々の白いご飯を盛る。
「じゃあ、どうぞ。召し上がってください」
彼らはスプーンを持ち掬うと、口に入れた。
「……! うまい、なんかすごい美味しいです」
「本当ですか?」
「はい、とっても! 初めておコメを美味しいって思いましたよ〜」
「良かったです。そうだお塩かけるのもオススメです」
見てるだけで幸せだ。
「メル様も一緒に食べましょう! メル様が作ってくださったんだし……僕たちだけで食べるのはなんか申し訳ない」
「じゃあ、いただきます……」
この国に来て初めてお米を食べた。それはすごく美味しくて懐かしい味だった。
その後、ウィリアム様とニコラ様はエレットロニカへと帰っていった。私はご飯の炊き方を書いた紙を手渡すと、ニコラさんは持ってきたというお米をくれた。
***
「――へぇ〜これがメルちゃんの世界の食べ物?」
「はい。ニコルさんがウィリアム王子経由で送って来られて」
お米と再会して早一ヶ月。私専用の厨房に木の箱が大量に届き、そこにはお米がたくさん入っていて、しかもエミベザではない梅干しもついて来たから驚きだ。
【これは、この前のお礼です。メル様に教えてもらったメモの通り作ったら大層喜ばれました。本当にありがとうございました。梅干しは、代々伝わる方法で作っているものです。もし良かったら。 ニコラ】
「ふふっ……梅干しもこの世界にあるなんてびっくりだわ」
「それ何? なんか不思議な色」
「食べてみます? とても酸っぱいですよ」
さっき味見したけど、とても酸っぱかった。
「うん! ……って、すっぱ!」
「さっき言ったじゃないですか。すっぱいって。お米と食べると美味しいですよ」
「じゃあ、お米食べたい」
「今、炊いてます。後十分ほどお待ちください」
炊き上がると私はノア様によそってから渡すと、すごい勢いで食べてしまった。ペロリ、じゃん。
「うまかったー確かにさっきのと相性いいかもしれない」
「ですよね〜」
「うん。また食べに来ていい?」
私が頷くと嬉しそうな表情をして帰っていった。ニコラさんのおかげで、朝はパン夜は白米を食べることができるようになった。なんだか日本にいるような感覚になる。
すると次にギルバード様がやって来た。
「メル、俺の分もある?」
「うん! もちろんです……どうぞ!」
「ありがとう。いただきます」
私はギルバード様にご飯を盛り渡すと、私も食べる。
「おいし……」
なんか寂しいくなる。落ち着いて食べると、なんか感極まって。
「……メル? どうした?」
「ううん。何も」
「じゃあ、なんで泣いているんだ……」
私、泣いてる……? なんで今更、泣けてくるんだろう。目を擦ると、手が濡れているのがわかる。
「ごめんなさい。ちょっと、なんていうか、感極まっちゃって……あはは」
「無理して笑うな、メルはどんな顔していても可愛いが無理して笑うのは似合わない」
「……!? な、何言ってるんですか! もう……ギルバード様って本当に」
「顔赤いな、頬がピンクだ。そうだいつになったら俺のことをギルと呼んでくれるんだ」
今それ言う……? 確かに親しい人には呼ぶと聞いたけど……婚約者でもないし、確かにセダールントの養女だけど。でもなぁ恥ずかしいのもあるし。
「一度しか呼んでくれない。何故だ」
「……恥ずかしいし、」
日本で言えば「名前で呼んで」みたいなものじゃない? そんなの無理です。
「恥ずかしがることはない。俺しかいないんだから」
「そうですけど……っま、食べませんか? まだお皿に残ってますし!」
私は逃げるようにご飯を最後まで食べてお皿を洗った。すると、ギルバード様はソファに座っていた。いかにも、「さぁ、おいで」とでも言うかのように……。私は気付かないフリをしようとソファのギルバート様の一人分開けて座る。
「……なぜ、そこに座るんだ?」
「いや、意味はないんですけど……って、わぁっ!」
ギルバード様は、私の腰を抱き寄せ自分の膝へと座らせた。
「ギルバード様っ……お、下ろしてください!」
「ギルって呼んでくれるまで離さないから」
「……っ……」
「わっ、わかりました。呼びますから……」
私は一度深呼吸をすると、心の中でイメトレをする。そしてもう一度息を吐くと「……ぎ、ギル」と呟いた。
「もう言ったので離してください」
「……聞こえなかった、もう一度」
「え!? む、無理ですっ」
「なら離さない。ずっとこのままだ」
そ、そんな……! 理不尽だよ!
「……っギル、様」
「やはり可愛いな、俺の姫君は」
……なっ! 何を言っているの!
「口付けをさせてくれ」
そう言ったと同時に彼は、私が反論する時間も与えずに唇にキスを落とした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます