第10話 恋バナと告白。



「メル様、これが以前お話をした茶葉ですわ! 香りがよくてフルーティーなんですよ」

「ありがとうございます、リー様」

 あの日から月日が流れひと月ほどアイリーン様ことリー様とは、いい話し相手でいいお友達になっていた。今日は、王宮内のバラ園でお茶会をしている。

「そうだわ、聞いてください〜ウィリアム様がね来る予定だったのに来れなくなってしまったの」

「……ウィリアム様ってあの隣国の王太子様ですか?」

「ええ! この度、婚約致しまして……婚約して初めて会う予定でしたのに、御公務があるんですって」

 ウィリアム様は、リー様の婚約者候補だった隣国王子・ウィリアム=エレットロニカ様だ。リー様と同い年で頻繁に彼女に会いにきていた。

「次はいつ会うのですか?」

「私の誕生パーティーにご出席されるのでその時です。同時に婚約発表をすることになっていますわ」

 すごい……本当に違う世界の人だな。私より年下なのに……

「私のこともいいですけど、メル様は?」

「え、私?」

「ギルバード様とはどうなんですの?」

「えっと……朝も昼も夕方も毎日、会いにきて下さってます」

 ギルバード様は本当に毎日私の住む離宮にやってくる。しかも、花束や焼き菓子を持ってくるから部屋の中は花に囲まれている。

「まあ! 羨ましいですわ〜ギルバード様って本当は情熱的な殿方ですのね」

「……っ……」

「ふふっ、メル様もお慕いされているのではなくて?」

「それは……」

 ギルバード様のことは、確かに私は好意を持っている。

「何か心配事でもおありですか?」

「噂で聞いて……ギルバード様には縁談が持ち上がっていて、お相手の令嬢がギルバード様のことぞっこんだと詰所にも通われているとお聞きしました。それにとても麗しい方だと」

「まあ……! どなたからそんなことを? わたくしから見たら、ギルバード様はメル様に超が付くほどにぞっこんだと思いますわ」

「そんなことは……」

 たくさんのご令嬢がいる中で私なんかにぞっこんだなんてそんなわけない……

「メル様が見るギルバード様の印象聞かせてくださいます?」

「え? 印象ですか……とても優しくて表情豊かで、私のことを心配して休みの日には公爵家まで会いにきてくださいました」

「私の知っているギルバード様って、無表情で仕事人間。何を考えているのか全く読めない。ご実家にも中々帰ることはなかったのです」

「別人ではないですか……?」

 彼が無表情だったことは一度もないし、たまに照れて耳を赤くされる姿は本当に可愛らしい。

「そうなの! 私も別人ではないかって思ったほどよ、お兄様から聞いてとても驚いたわ! お兄様も『ギルがおかしい』って言っていらしたし」

「ノア様が……?」

「ええ。ふふっ……お兄様とギルバード様は5歳の時からの親交があり、気の知れた仲ですの。そんなお兄様が、『おかしい』と思うくらいですよ」

 ええ……

「きっとギルバード様はメル様のこと好――」 

 リー様の言葉を遮るように男性の声が聞こえた。

「アイリーン王女、そんなこと勝手に言わないでくださいますか?」

「あら? ギルバード様ではないですか、ご機嫌よう」

「はぁ……私はあなたのそういうところが嫌いです」

「私は、はっきりしないあなたが嫌いですわ。ヘタレ副団長様」

 ヘタレ……? ギルバード様が?

「――メルと話をしたいんですが」

「あら、私が邪魔だって言いたいの?」

「そんなことは言っておりません」

 なんか仲良しだな……ギルバード様もなんだか生き生きしているし、私と一緒にいる時とは違って見える。

 私といる時の彼は、なんだか遠慮がちで楽しそうには見えない。心の中でズキン、と音を立てる。

「……痛い」

「メル? どこか痛むのか?」

 どこかって言われたらどこが痛いのかわからない。

「ギルバード様、私といて楽しいですか?」

「……え?」

「ギルバード様、私といるよりリー様といる時の方が生き生きしてますよね」

 なんか嫌な女みたいだ。

 婚約者様がいるリー様にやきもちを妬いてしまっている。嫉妬するなら、ちゃんと気持ちを伝えるべきだと思うのにそれができないのはなんでだろう。

「それはメルには緊張してしまって……それに大切な女性だから、です」

「……っ」

「メルとは違ってアイリーン王女は、幼い頃から知っている幼馴染のような関係でしたので言い合いができるからだと思います」

 幼馴染……か。この二人は意識したことなかったんだろうか。ギルバード様はイケメンだし、リー様は美人で性格もいいんだし。

「そうなんですね……」

「もう少し余裕を持って、あなたのペースで伝えようと思っていたのに」

「……?」

 私が頭を傾げると「メル」と私の名前を呼び、跪く。

「俺はメルのことが……好きだ」

「……!?」

 私の手を取り、ギルバード様は手の甲へ口づけを落とした。

「ギルバード様!?」

「俺の恋人になってはくれないだろうか」

「こい、びと……私が?」

「ああ。君以外考えられない」

 いつも以上にキラキラしている彼に眩しさを感じる。

「縁談が来ていると聞きましたが……」

「縁談?」

「はい、噂でギルバード様に縁談が来ていて相手がぞっこんで……詰所にやってくると聞いてしまって」

「縁談が来ているのは本当だ。だが、全て断っている。それにその詰所にくるご令嬢は部下の妹だ」

 そうなんだ……よかった。

「改めて言う、メル嬢。俺の恋人になってくれ」

 そう言ったギルバード様に私は「はい」と答えた。

「本当か!?」

「はい。私もギルバード様のことお慕いしています」

 そう彼の目を見て言うと、ギルバード様は立ち上がり私を抱き上げた。そういえば、リー様がいたわよね……と横を見るともういなかった。だけど、なんだか恥ずかしくて顔が熱かった。

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