第5話 王都の食べ歩き
「メルちゃん、ギルが迎えにきたわよ」
「えっ、本当ですか? エミリーさん、本当に似合ってますか……」
翌日、エミリーさんが選んだ服を着てライラに髪の毛をセットしてもらった。
「とても似合ってるわよ、ね? ライラもそう思うでしょう?」
「はい、とてもお似合いです」
昨日選んでもらったのは、現実の世界でのスイスの民族衣装トラハトに似ているワンピース。それに紙にはワンピースに合うリボンをつけてもらった。
こんな可愛い格好は、生まれて初めてかもしれない。
「メル」
「あっ、ギルバート様! おはようございます」
私が部屋から下に降りると昨日の騎士団の制服ではなく、私服の格好のギルバート様がいた。
「……綺麗だな、メル」
「へっ!? あ、あ、ありがとうございますっぎ、ギルバート様もとてもかっこいいですよ!」
「……っ……」
私、めちゃくちゃ恥ずかしいこと今言っちゃったよね!? 本人に格好いいなんて……!
「……ありがとう」
ギルバート様はそう言っていたが、耳が真っ赤になっていて居た堪れなくなった。
私とギルバート様は、エミリーさんとライラに見送られ屋敷を出発した。
「…………」
「…………」
お互い馬車の中では何も話さなかった。というか話すことがなくて一時間ほど無言のまま過ぎていき――……王都に着いたときにはもうお昼時になっていた。
ギルバート様は先に降りると手を差し伸べられる。
「ありがとうございます」
私が降りるとギルバート様はぎゅっと私の手を握ると「行こう」と言い、街へと入った。
「ギルバート様っ……手を」
「あぁ、すまない。だが迷子になったら大変だ」
えっ……!?
離すどころか、先ほどよりも強く繋がれてしまった。そのまま街の中を巡る。
「お腹は空いてないか?」
「少しだけ……」
「少し食べようか、ここで待っていてくれ」
私を石段に座らせると、ギルバート様は屋台の方に走っていき焼き鳥のような串と飲み物を二つずつ持って来てくれた。
「どうぞ」
「いただきます……ん」
美味しい。これ、鶏肉かしら……味付けは梅のような少し酸っぱい感じだ。
「美味いか?」
「はいっ、とても」
なんだか、懐かしく感じてお父さんを思い出す。小さい頃、夏祭りに行って焼き鳥を一緒に食べた。あの頃、お母さんが亡くなってすぐだったから焼き鳥食べながら2人で泣いたんだよなぁ。
「……どうした?」
「あ、いや……少し故郷を思い出して」
「メルの世界のか?」
「はい、私の故郷でもこんな感じの食べ物があって父とよく食べたなぁって思いまして」
こんなとこにもお父さんの面影があるなんて……違う世界なのに。
「そうか……メル」
「はい?」
「いや、なんでもない……くはないんだが、次はスイーツでも食べに行かないか?」
真剣な顔でスイーツと言うものだからなんだか面白い。
「ふふっ……行きたいです」
「……なんで、笑う」
「ギルバート様が真剣な顔で言うから、なんか面白くて」
そう言うと「……そうだったか」と言い、目を逸らした。
「片付けてこよう。かしなさい」
私は、飲み物を飲むとコップと串をギルバート様に渡した。
「あっ、はい……ありがとうございます」
「いや、いいんだ」
ギルバート様は立ち上がると屋台に返しに行ってくれた。
「そういえばお金、いくらでした?」
「お金はいい」
食べ終わった後は、市場や通りにあるお店を巡った。通りの店は、高そうな雰囲気が漂っている。
「少し寄っていこう」
「えっ、はい」
ギルバート様が立ち止まったのは高級そうな仕立て屋さんだった。こんな場所大丈夫なのか……と思ったが、この人公爵家の嫡男だったことを思い出す。
「いらっしゃいませ」
お店に入ると、可愛らしいものから綺麗なものまでたくさんのドレスが並べている。それに可愛らしい女性の店員さんが迎えてくれて、なんだかそわそわする。
「彼女のを仕立てたい。四着ほど、全て違うデザインがいい」
「かしこまりました」
え……っ!?
「よろしく頼む」
「ぎ、ギルバート様っ! 私そんな……」
「遠慮はいい。君にプレゼントしたいんだ」
ギルバート様がとても甘い声で言うから頷くしかなく、針子さんにあれよあれよと採寸されてしまった。
「ありがとうございました、一週間後にお届けに参ります」
「あぁ、頼む」
仕立て屋を出てからも小物屋や手芸店などをめぐり、ゆっくりしていると空は茜色に染まり出した。
ギルバート様は、待っていた馬車へ乗り込むと中から手を差し出してエスコートしてくれた。その後はギルバート様に公爵邸に送られた。
それから一週間後、四着ではなく十着ほどのドレスや宝石や帽子などもたくさん公爵邸に届いたのである。
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