第244話 合流
その日、約半年ぶりにセゴビア大橋の通行が再開された。
北から進軍を続けてきたフルメリンタの軍勢が、橋の西側を治めているパウレール侯爵を投降させたのだ。
セゴビア大橋の通行再開は半年ぶりだが、秋の収穫が終わってフルメリンタが本格的な侵攻を始めてから一ヶ月も経っていない。
それというのも、まともな戦闘が行われたのはガロドワ侯爵領ぐらいで、他の領地はフルメリンタの軍勢が来たと聞いただけで戦闘を諦めて、自ら交渉を持ちかけたのだ。
フルメリンタの軍勢を率いているブリアック・ハイドラン子爵は、降伏した貴族の兵を最前線に立たせ、次なる領地の侵略に向かわせた。
当然、隣り合わせの領地を持つ者ならば、互いに顔を見知っているだろうし、戦力もある程度は推測が可能なはずだ。
そして、新しい領地を攻略する度に、兵の数が増えていくのだから、一地方の領主だけでは対抗するのは不可能だ。
セゴビア大橋の西側を治めているパウレール侯爵も、北からフルメリンタの軍勢が現れると、戦わずして降伏した。
パウレール侯爵家の当主オレアンにとっては、コルド川の対岸から現れると思っていたフルメリンタが北から攻め込んで来たのは予想外だったが、降伏は織り込み済みだ。
北から幾つもの領地を攻め落として来たフルメリンタにパウレール家だけで対抗できるはずもない。
それに、北側で戦っている時にセゴビア大橋を通って別動隊が攻めて来たら、対応するだけの兵力も無い。
後は、どれだけ有利な条件で降伏が認められるかだ。
オレアンはフルメリンタの使者に対して、パウレール侯爵家は代々この地を治め、東西を繋ぐ街道の要衝の運営方法を熟知しているとアピールした。
大きな利権が絡む土地は、清廉潔白であるだけでは治められない。
清濁併せ呑むぐらいの広い度量と経験が必要なのだ。
フルメリンタとしても、経験豊富な人材を無駄にする訳にもいかず、パウレール侯爵家は所領を安堵された上で降伏が認められた。
パウレール侯爵家がフルメリンタに組み込まれた事で、晴れてセゴビア大橋の通行が再開されると、東から大量の物資と人員が送り込まれてきた。
当面の間、セゴビア大橋の通行は東から西への一方通行とされ、特別な許可が無いと西から東へは渡れない。
これは物資の輸送を優先するためであるのと同時に、春先の戦いで難民となった者達が橋を越えて元の土地に戻って混乱を引き起こすのを止めるためだ。
その難民となった者の一部は、暴徒となって旧ラコルデール公爵領で暴れていた。
パウレール侯爵家から武器が与えられ、奪った土地は自分の物にして構わないというお墨付きが与えられたはずが、梯子を外された形だ。
事情を知ったフルメリンタ軍の司令官ブリアックは、パウレール侯爵家に対してラコルデール領での暴徒鎮圧を命じた。
多くの難民を抱え、ユーレフェルト王家に支援を求めた時、満足な援助をしなかった恨みからオレアンは嬉々として暴徒を扇動したが、自分が降伏した時のことまで頭が回らなかった。
フルメリンタに降伏した現在、ラコルデール領は敵国ではなく同じ国の領地だ。
そこへ暴徒を送り込んだとなれば、当然責任問題になる。
命令を下した時はユーレフェルトの一員だったから仕方なかったのだと開き直る選択肢もあったが、オレアンは暴徒の鎮圧を選んだ。
開き直ればブリアックの印象はマイナスになり、下手をすれば戦が終結した後で転封を申し付けられる可能性もある。
セゴビア大橋の通行が元通りになれば、パウレール領は間違いなく栄えて大きな利益を得られる領地となる。
それが分かっているのに、みすみす手放すような真似をするほどオレアンは愚かではなかった。
それに、自分が直接手を下す訳ではなく、騎士や兵士に命じてやらせるだけだ。
オレアンは、パウレール侯爵家の騎士団長に鎮圧ではなく討伐するように命じた。
囚人として生き残れば、将来に禍根を残すことになると考えたからだ。
それにユーレフェルトからフルメリンタに寝返ったとはいえ、囚人を養えるほどの援助が与えられるとは限らない。
むしろ、元ユーレフェルト貴族の力を削ぐために、一切の援助が行われない可能性もある。
オレアンはフルメリンタが攻めてきたら、降伏して寝返れば良いと高をくくっていたが、実際には薄氷を踏む思いだ。
セゴビア大橋を渡って、連日フルメリンタからは多くの物資と兵が送られて来る。
その物量を見せつけられて、オレアンはフルメリンタに恭順する思いを新たにした。
フルメリンタは、元々セゴビア大橋からも攻め入るつもりで、何時でも物資の搬入ができるように準備を整えていた。
物資や兵の数にもオレアンは驚かされたが、ろくな支援もせず、場当たり的な悪足掻きしかできないユーレフェルト王家とは天と地ほどの差を感じざるを得ない。
オレアンだけでなく、パウレール領の住民達もユーレフェルトとフルメリンタの差を思い知らされた。
一方、ラコルデール領から王家直轄地へと入ったフルメリンタの部隊は、街道に架かる橋を落されたり、暴徒の影響で行軍速度が遅くなっていた。
北からの部隊は東からの部隊と合流して速度を上げ、南からの部隊と同日に王都エスクローデへと到着した。
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