第167話 合流
※今回は新川恭一目線の話になります。
「よう、新川、元気でやってたか?」
ユーレフェルトの連中が撤退し、セゴビア大橋まで戦線を押し上げたことで、銃撃部隊の別動隊も本隊と合流した。
久しぶりに本隊に残った三森拓真と再会したのだが、拍子抜けするぐらいいつも通りだった。
まぁ、俺の方も特に危険な目には遭わなかったし、三森も後方で上手いことやっていたのだろう。
「まぁ元気でやってたぜ。最後は弾が底を突いて、どうなることかと思ったけどな」
「マジで? あぁ、そういえば連発式も投入したんだったな。調子こいてバンバン撃っちまったのか」
「そういうこと。ただ、ユーレフェルトの連中が苦し紛れに騎馬部隊を突っ込ませてきたから、こっちとしても応戦せざるを得なかったんだけどな」
「あぁ、そういう状況じゃ撃つしかねぇか」
騎馬部隊に対して銃撃は大いに効果を発揮したが、それは弾幕が張れていればの話だ。
相手が物量でぶつかって来るなら、こちらもある程度の物量を投入するしかない。
「そう言えば、こっちで何かやったのか? 急にユーレフェルトの連中が退却し始めたみたいなんだけど」
「あぁ……それな」
と言うと、三森は顔を顰めて言葉を探しているようだった。
「お前、何かやらかしたのか?」
「やらかしたと言えば、やらかしたのかなぁ……」
「おい、何やらかしたんだよ」
「いや、マフェオさんが何か良い策は無いかって聞いてくるからさ、余ってる大砲で橋を砲撃してみたらどうですって言ったんだよ」
「やったのか?」
「俺が撃った訳じゃねぇぞ。砲撃部隊の人達に距離の調整とかを適当に教えただけなんだよ」
「そしたら橋に命中したのか?」
「いいや、全然見当違いの所に飛んでった」
「なんだそれ……いや待てよ、見当違いの所に飛んだのに、何でユーレフェルトの連中が退却するんだよ」
砲撃が橋に命中したのなら、補給線となる橋が壊される恐れがあると、ユーレフェルトの連中がパニックに陥って退却するかもしれない。
でも、全然当たらなかったら退却する理由は無いはずだ。
「それがさ……対岸の街に着弾したみたいなんだよ」
「はぁ? それじゃあ、奴らの頭越しに後ろの街を攻撃したのか?」
「まぁ、結果的にはそうなるな。砲撃部隊も橋を壊すと面倒だからって、更に対岸寄りに狙いを変えて、余っていた大砲をバカバカ撃ち込んだんだよ」
「なるほど、それでユーレフェルトの連中は補給が絶たれるかもしれないと思って退却を始めたって訳か」
「まぁ、たぶんそうなんだろうな」
「それじゃあ、お手柄じゃないかよ」
そう褒めてやったら、三森は顔を顰めて頭を抱えた。
「確かに大きな手柄なのかもしれないけど、あんなのただの思い付きだし、偶然砲弾が風に流された結果なんだよ。それなのに……」
「それなのに、どうした?」
「銃撃、砲撃部隊の軍師として残ってくれって言われちまってよ」
「はぁ? お前、この戦争が終わったら王都に富井のストーカーしに行くんじゃなかったのか?」
「ストーカーじゃねぇよ! 王都には行くつもりだったけど、ストーカー目的じゃねぇからな」
「その様子だと、王都行きはおじゃんか?」
「いや、王都には恩賞の授与のために行ってもらうって言われてる」
「おぉ、凄ぇじゃん」
「いやいや、新川も一緒だからな」
「はぁ? 聞いてねぇよ」
「これだけの大勝利の原因は、銃や火薬を抜きには語れないだろう。その情報をもたらしたのは誰だよ」
「うっ、それは……そうだな」
確かに三森の言う通り、今回の戦争では銃や火薬が果たした役割は大きい。
自画自賛するつもりは無いが、俺が情報をもたらさなかったら、こんなに簡単に勝てなかったはずだ。
コルド川までの地域を手に入れて、フルメリンタはユーレフェルトの倍ぐらいの国土を持つ国になった。
まだ切り取っただけで安定して統治した訳ではないが、国力強化という観点から見れば、計り知れないほどの功績だ。
「まぁ、恩賞をくれるって言うなら貰うけど、軍に取り込まれるのはなぁ……」
「だろう? しかるべき地位を与えるし、今後しばらくは大きな戦も無いから、嫁をもらいたければ屋敷も斡旋してやる……とか言ってるけどさぁ」
「まぁ、富井はうんとは言わないだろうな」
「だろう? 俺は王都で平民として暮らせれば、それで十分なんだけどなぁ……」
「まぁ、俺達の軍事機密としての重要性を考えると、簡単には手放してくれやしないだろうし、どこかで折り合いをつけるしかねぇんじゃね?」
「だよなぁ……はぁ、どうしたもんかなぁ」
こうして考えてみると、召喚されて以来、俺達の人生は波乱万丈に翻弄されっぱなしだ。
王位継承争いを優位に進めるための手駒として呼び出され、領地奪取のための先兵として使い捨てにされ、奴隷落ちして、情報チートで助かって、今度は英雄扱いだ。
「まぁ、ひとまずは生き残ったことを喜ぼうぜ」
「そうだな、これも新川が火薬の知識を持っていてくれたおかげだ、マジで感謝してる」
「いやいや、火薬の話を持ち出した霧風のおかげでもあるからな」
「だな、王都に行った時には、霧風と会えるように取り計らってもらおうぜ」
「そうだな、それと富井も……王都にいるんだよな?」
「さぁ? あの時に会ったきりだし、連絡のしようも無いんだけど」
「無事……なんだよな?」
「止めろよ、不安になるじゃんかよ」
「でも、山賊を壊滅させたとか言ってなかったか?」
「魔法の腕前で護衛をやってるとか言ってたな」
「あの運び屋の男と一緒にいるのか?」
「止めろよ、そういう不安になる話は止めてくれ」
「まぁ、大丈夫だろう、そういう関係には全然見えなかったし」
「だよな、そうだよな。あんなのただの依頼主と護衛の関係だよ」
「でも、一緒に旅を続けているうちに……」
「だから止めろって、せっかく生き残ったんだから、そういう不安な話は止めてくれ!」
「悪い、悪い、つい面白くってな」
「ったく、覚えてろよ。新川に好きな女が出来たら、思いっきり揶揄ってやるからな」
「いや、俺は付き合う前に結婚を申し込むような真似はしないから大丈夫だ」
「くそぉ、絶対に尻尾を掴んでやるから覚えてろ」
これまで何度も繰り返したような馬鹿話だが、生き残ったという時間が俺達の口を軽くしていた。
戦争前の話では、フルメリンタの進行はここまでで、この後は占領した土地の安定化に力を注ぐことになるはずだ。
銃撃、砲撃部隊がどういう扱いになるのか分からないが、俺の勘では防衛のための部隊として再編成されるような気がする。
これからは、このコルド川が国境線となり、北から海までの護岸が国境線となる。
長大な国境線を守るには、銃の存在は更に重要視されるだろう。
銃とか大砲の運用を考える研究部門の設営を進言して、そこに三森も放り込めば戦争に駆り出される心配も無くなるのではないか。
とりあえず、王都で恩賞を貰えるという話だから、それまでに話が進むようにマフェオさんに話をしてみるか。
「新川、弾薬が届いたってよ。どうする、仕分けするのか?」
「今頃かよ、でもやっておいた方が良いよな?」
「そりゃ、弾薬が底を突いてる状態じゃマズいだろう」
届いた弾薬を上品、中品、下品に仕分けするのは、試射での不発の経験に基づいている。
銃に問題が無いのに不発が出るので、弾を観察してみて気付いたのだ。
まぁ、有名な豚が飛行機に乗って戦うアニメの真似をしたのだが、仕分けのおかげで不発率は大幅に下がった。
「あれっ、新川、弾の質が上がってねぇか?」
「だよな、今俺もそう思っていたところだ」
「今頃かよって思うけど、銃や火薬の情報を伝えてから、実戦配備されるまでの期間を考えたら、十分に驚異的だけどな」
「それは言えるが、これが出来るなら、もっと早くやってほしかったぜ」
新たに送られてきた弾丸は、殆どが中品以上で、上品の割合も大幅に上がっている。
このレベルだったら、そのまま使用しても稀に不発が出る程度で済むだろう。
「なんかさぁ、ユーレフェルトの連中の場当たり的な行動も酷いと思ったけど、フルメリンタも結構いい加減だよな」
「でも、銃が無かったら無かったで、押し込むだけの準備はしてたんじゃないのか」
「そうかなぁ……前回の戦いでは戦線を維持できなくなって、霧風と引き換えに撤収したんだろう? そんなに簡単に状況を変えられてたかな?」
「そう言われると、確かにそうとも言えるな。流石は軍師三森、良く見てるじゃんか」
「止めろよ。俺は軍師なんかやらねぇからな」
「だよな、三森の本職はストーカーだからな」
「ちげぇよ、何だよ本職がストーカーって、どうやって稼ぐんだよ」
「そこは富井への愛があれば、飲まず食わずでも生きていけるんじゃね?」
「いけるか! 食わなきゃ死ぬわ! てか、ひもじいのはマジ勘弁だ」
たぶん、三森は戦争奴隷時代の生活を思い出しているのだろう。
あの頃は、まともな食事を与えられずに過酷な労働の毎日で、今思い返してみても、よく生き残ったと自分を褒めたくなるほどだ。
「なぁ、三森。いつか墓参りに行かないか?」
「墓参りって……あの収容所か?」
三森は、ギョっとしたような表情を浮かべてみせた後で考え込んだ。
たぶん、あの頃の生活は思い出したくもないし、何も出来ずに見殺しにするしかなかった仲間への複雑な思いがあるのだろう。
「今は、まだ……」
「そうか……そうだな……でも、俺はいつか報告に行きたいと思ってる。俺達が生き残ったのは、運が良かっただけでは片付けられないし、何ていうか……」
「気持ちを整理したい?」
「そうだ。言い訳というか……謝罪というか……感謝というか……そういうのを吐き出したいのかもしれない」
「それさ……霧風も誘うってのはどう?」
「あいつ、行きたいと思うかな?」
「さぁ、それは分からないけど、王都に行けるなら話だけでもしてみたら?」
「そうだな……そうすっか。まぁ、まずは王都に行ってだな」
「あぁ、どんな街なのかな」
「三森の場合は、街並みよりも……」
「いいから、もう、そういうのはいいから」
「でも、会いたいだろう?」
「そ、そりゃあ会いたいさ。ちゃんと生き残ったって報告したいし、今の富井を見てみたいよ」
「楽しみだな、王都行き」
「あぁ、楽しみだ」
俺達の戦いも一旦は終了、この先どうなるか分からないが、今ぐらいは気を抜いてもいいだろう。
弾丸の仕分けを続けながら、三森と下らない話を続けた。
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