第6話
起きる時間となり、ローサが遮光布を開け放って、タッセルで纏める作業で目が覚めた。室内に朝の陽光が満ちる。
「おはようございます奥様、ゆっくりお休みになられましたか?」
「ええ、とっても」
(とても爆睡でございました)
シルヴィアは寝台を確認すると安堵した。
「公爵様はいらっしゃらないのね、昨日はお帰りになられていないの?」
「いえ、とても遅くにお帰りになられて早朝に王宮へと向かわれました」
「そうですか」
(爆睡しすぎて気付かなかった訳ではなく、夫婦の寝室にはきっと入って来てないわね。という事は私とは閨を共にしたくなくて、更に会いたくもないという事かしら?)
結婚する前に聞く勇気はなかったが、もしかしたら特定の気に入った愛人などがおり、跡取りはその人に産ませて養子にする可能性もある。
という事は自分はお飾りの妻なのか。
シルヴィアは貴族女性として生きるのを捨て、魔導の道のみを歩む選択をしようとしていた程である。
むしろ後継を求められないのは好都合と思ってしまう辺り、世間からすると自分は変わり者なのだろう。
だがそれに悲観する事なく、一人での気楽で快適な朝食を楽しもうと、すぐに頭を食欲の方へと切り替えた。
一人で使うには明らかに広すぎるダイニングの席に着くと、卵、ベーコン、彩サラダ、スープに何種類ものフルーツと、バランスの良い食事が用意されていた。
一人でご飯を食べるのは慣れているけど、執事の給仕に対し自分一人での食事というのは初めての経験であり、妙な緊張感がある。
何せ養子先の実家はいつも両親に兄、弟と妹と共に食事を取っていたから。
食事を終えるとローサに着替えを手伝って貰う。宮廷魔術師となってからは、一人で着替えるのが当たり前だったので、元の貴族の感覚に戻すのは中々難しい。むしろ申し訳なく思ってしまうが、お飾り公爵夫人としての役割を果たすには必須の過程。
(公爵邸にいる時くらいはちゃんとしておかないと……完全にタダ飯ぐいだわ)
「奥様、お屋敷内と御庭をご案内致しますわ」
「ありがとう。楽しみだわ」
広い屋敷内を大方案内して貰うと、最後に庭園へと足を運んだ。
広大な庭園には白い四阿や、噴水もあり季節の花々が咲き誇っている。庭師によって手入れされた庭園は芸術そのものであり、薔薇のアーチをくぐった先には見事な薔薇園もあった。
「奥様、そろそろ休憩に致しましょう。そこの四阿に用意致しますわね」
屋敷と庭園を一通り歩いた事により、丁度喉が渇いていたので、ローサの提案にシルヴィアはとても喜んだ。
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