第7話 貴族街
「おはようございます、アレクシアお嬢様。昨日は下町なんぞに出向かれたそうですね? そんな所より今日は私と貴族街へ赴きませんか?」
「おはようございます、フランソワ。そうね、貴族街も見てみたいわ」
先日お茶会へ行く為のアクセサリーを買おうと商人を呼んだがあまり気に入る物が無かったので、アレクシアはフランソワの提案に乗った。
フランソワは事前にセバスチャンに相談したらしく、昨日と違いすんなりと許可が貰えたのでソフィーが一緒に行く事が決まり出掛ける準備をする。
「お待たせ、フランソワ」
「いえいえ、淑女を待つ事も喜びですので」
フランソワはまるで舞台俳優の様に騎士の礼をし、エスコートの為に手を差し出した。
「ふふ、ありがとう」
(護衛やのにエスコートしたら片手塞がるけどええんやろか? まだ屋敷の中やでよしなんかな?)
パスカルと違って貴族だからこそ、当たり前のようにエスコートするフランソワに対して護衛としての資質に不安を感じたアレクシアだったが、まだ屋敷内だった事もあり素直に差し出された手に手を重ねた。
今日は昨日と違いお忍びではない為、侯爵家の紋章の入った馬車で貴族街にある商店街に向かった。
下町と言われるエリアと貴族街は広場と大通りで区切られており、衛兵の詰所が点在している。
今日の供であるソフィーは今でこそ没落しているものの、由緒ある伯爵家の令嬢で、貴族街の事には詳しい為選ばれた。
しかし見た目に難あり(アレクシアから見たら美人)な為、使用人の中では身分は高いが周りから見下される事が多い。
実際アレクシアも前世を思い出すまでは、周りが言う通りソフィーの事を不器量だと思っていた。
現にフランソワはソフィーがついて来るとわかった途端に顔を
アレクシアはその事にモヤっとしたものを感じながらも、下町とは違った煌びやかな風景に目を奪われた。
「まずは宝飾店に向かいますね。髪飾りとブローチの評判の良いところですので、お気に入りが見つかると思います」
ソフィーは少し口の端を持ち上げて微笑んだ。ソフィーは普段あまり笑顔を見せない、他の使用人が時々陰口で笑顔が気持ち悪いと言っているのを聞いてしまったせいだ。
「誕生日にお母様がくれたドレスに合う髪飾りを探したいの、今までの物だと何だか合わないのよね」
「きっとお嬢様が大きくなってドレスの雰囲気が少し変わったせいでしょう。あ、お店が見えて来ました」
貴族街なだけあって店ごとに馬車置き場がある為、お店の前まで馬車のまま向かう。
セキュリティのしっかりした店なので、フランソワは店の出入り口を見張れる位置で待機すると言って中にはついて来なかった。
店に入ると愛想の良い店員が出迎えてくれ、店内のショーケースには美しいアクセサリーが並んでいる。
「気になる商品がごさいましたら手に取って頂けるようにショーケースからお出し致しますので、どうぞお申し付け下さい」
貴族街なだけあって店員の言葉遣いも丁寧だ。ショーケースには盗難防止に魔道具で結界が張ってあり、店員だけがそれと連動して無効化するアクセサリーを着けているとソフィーがこっそり教えてくれた。
「あ、このシリーズ凄く可愛い」
ドレスに合いそうな髪飾りを見つけて店員に声を掛ける。
「「この髪飾りを出してくださる?」」
私と同時に店内に居た同じくらいの女の子、それもふわふわの栗色の髪にエメラルドの様に美しい緑の眼をした美少女(アレクシア基準)だった。
同じ物を指差し、同時に声を発した事でお互い顔を見合わせる。
「あら、レティ? ……ぁ、申し訳ありません」
女の子と顔を見合わせているとソフィーが女の子の名前を呼んだが、メイドとして付き添っている事を思い出してアレクシアに謝罪した。
「いいのよ、ソフィーの知り合い?」
「はい、母親同士の仲が良く
「そうなのね。私はアレクシア・ド・ラビュタンよ、初めまして」
「わ、私はクーベルタン伯爵が娘、レティシア・ド・クーベルタンと申します」
にっこり微笑み掛けると女の子は恐縮しなからも、拙いながらカーテシーで挨拶してくれた。
(そぉか~、ソフィーの親戚やからこんなに可愛いんやな。そういや目元とか似とるかも)
「レティはお嬢様と同い年ですから、今後お茶会でも会う事があると思います」
「まぁ! 同い年なのね、ここで会ったのも何かの縁だわ、良かったら仲良くしてちょうだい?」
「え……、あの、私なんかが……」「お待たせ致しました」
モゴモゴとレティシアが言い淀んでいると、店員は2人が指差した髪飾りの色違い5種をトレイに並べてショーケースの上に乗せた。
「レティシア様にはこの色が良いんじゃないかしら。この
プラチナの台座にいくつかのエメラルドが散りばめられている髪飾りをレティシアの髪に添えて、アレクシアは満足気に頷いた。
「あ、ありがとう……ございます……っ」
アレクシアの行動にポカンとしていたレティシアだったが、見る見るその瞳が潤み始めるとハンカチで目元を押さえて俯いてしまった。
「え……? 何!? どうなさったの!?」
いきなり肩を震わせながら泣き始めてしまったレティシアに、アレクシアはただオロオロするしか無く、ソフィーを見上げると慈しむ様な目でレティシアを見ているだけだった。
「おいっ、レティに何したんだ!」
その時、離れた場所のショーケースを大人と一緒に見ていた少年が怒りながらズカズカと歩いて来た。
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