第8話 お友達

 アレクシアが声のした方を見ると、同い年くらいの金髪にアイスブルーの瞳をしたあっさりめのフツメン少年が怒りをにじませた表情でこちらに向かって来た。

 少年はアレクシアと目が合うとヒュッと息を飲み、すぐに気を取り直してアレクシアとレティシアの間に割り込んだ。



「可愛いからって何しても許されると思うなよ! よくもレティを泣かせたな!」



 顔を真っ赤にしながら怒鳴る少年に困り、アレクシアは助けを求めるようにソフィーを見上げた。

 ソフィーは微笑んでコクリと頷くと少年に声を掛ける。



「クロード、控えなさい。レティは褒められた事が嬉しくて泣いているのだから」



「「えっ!?」ソフィー姉様!?」



 アレクシアとクロードと呼ばれた少年が同時に声を上げた。

 クロードはソフィーを見て数秒固まり、キョトンとするアレクシア、俯いて泣いているレティシア、そして少し怒った顔のソフィーを順番に見てサッと顔色を変えた。



「う……、ぐすっ、そうよクロード……、こんなきれいな髪飾りを似合うって……初めて言われたからうれしくて」



 レティシアは常日頃、自分と似ていない姉から「あなたみたいなブスに使われるなんてアクセサリーが可哀想」などと言われ続けているせいで、アレクシアの言葉が嬉しくて泣いてしまったのだ。

 レティシアが鼻をグスグス言わせながらクロードを見ると、クロードの青い顔が見る見る真っ赤に染まった。



「ごっ、ごめんなさい! 僕の勘違いでした!!」



 自分の勘違いだとわかってクロードは謝罪した、オロオロしながら成り行きを見守っていた店員もホッとしている。



「クロード、いきなりどうしたの!?」



 先程までクロードと一緒に居た両親が何事かと様子を見に来た。

 気まずげに視線を彷徨わせるクロードを見てソフィーは小さくため息を吐くと、クロードの両親にカーテシーをした。



「お久しぶりです、タレーラン伯爵、夫人。先程ラビュタン家のお嬢様に褒められ、嬉しくて泣いてしまったレティを見たクロードが勘違いして向かって来ただけです」



「ラビュタン侯爵家の……!」



 クロードの両親はアレクシアの家名を聞いて顔色を変える。



「あ、お気になさらず。きちんと勘違いしたと謝罪して頂きましたので。改めましてアレクシア・ド・ラビュタンです、お見知り置き下さいませ」



 アレクシアがニコリと微笑んでカーテシーで挨拶すると、店内の人達がうっとりとため息を吐いた。



「アレクシアお嬢様、こちらはタレーラン伯爵ご夫妻と嫡男クロードです。そしてクロードとレティは幼馴染みで私とも面識がございます」



 ソフィーが間に入ってくれたので挨拶を交わし、そして現在レティシアの母親が病気で伏せっている為、母親の親友であるクロードの母親がお茶会のアクセサリーを買いに店に連れて来たと教えてくれた。



「じゃあ今度の公爵家のお茶会で会える? 良かったら髪飾りをお揃いにして行きましょう! そうすればひと目で私達がお友達だってわかるもの」



「え……、お友達……?」



 アレクシアの提案にポカンとするレティシア、まさかこんな美少女が自分の事をお友達だと言ってくれるなんて考えてもいなかったせいだ。

 それを否定されてしまったと思ったアレクシアはシュンとしてしまう。



「あ、ごめんなさい、勝手にお友達だなんて言ってしまって……。仲良くなりたくて気持ちが先走ってしまったわ」



「ちっ、違います、驚いただけで……凄く嬉しいです! 良かったら私とお友達になって下さい!」



 シュンとしたアレクシアに焦ったレティシアは、アレクシアの両手を手に取りそう言った。



「本当!? 嬉しい……!」



 一度落ちた気持ちが急上昇して、極上の笑顔を浮かべたアレクシアに周りは見惚れた。



「良かったらクロード様もお友達になって下さい、すぐにレティシア様を守ろうと行動したクロード様なら意地悪な事はしないでしょうし」



「ああ、わかった……」


 見惚れていた事を気付かれないようにそっぽ向きながらぶっきらぼうに答えたが、その顔は真っ赤に染まっていた。

 レティシアとはお互い愛称で呼び合う約束をし、商品は後日侯爵家に届けてもらう事になった。

 店を出るとフランソワがゆったりとした動作で近づいてきて、エスコートの為に手を差し出す。



「気に入った物は見つかりましたか? 出来れば私がお見立てして差し上げたかったのですが……、残念です」



 護衛とわかる者を連れて店内に入るのはその店を信用していないと言っているも同然なので、王族以外は普通護衛を連れて店内には入らないのだ。



「ふふっ、フランソワは女性にアクセサリーを贈る事に慣れていそうですものね」



 モテると褒めていると見せかけて暗に軽い奴だと仄めかすが、フランソワは自分がモテるのは当たり前だと思っているせいで気付かない。



「ははは。よくセンスが良いと褒められますので、いつかお嬢様にもプレゼントを差し上げますよ」



 そんな会話をしながらさり気なく馬車に乗る手助けをしてくれる辺りは、本当にモテるんだろうなと思わされた。

 お昼はフランソワが予約しておいたというレストランで済ませ、午後も数件の店を回ってから帰った。



 明日はどちらを護衛にするか決めなくてはいけないが、アレクシアの心は既に決まってる。

 断る方に何と言えばいいか、それを考えながらその日は眠りについた。

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