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所狭しと並べられていた品物は一つ残らず消え、真っ黒な布を被せただけの台が残る。
「ようこそ何でも屋へ。お望みのものを何でもご用意しよう」
「何でも屋……?いやいや、雑貨屋さんでしょ」
「店の名前なんて何でもいいさ。お客が変われば店も変わる。店が変われば名前も変わる。それだけの事だよ」
「はぁ……」
なんだかよくわからないけれど、手助けしてくれるって事なんだろうか。
「お兄さんは此岸に戻りたいんだろう?それなら今持っている切符ともう一つ、この鈴が必要になる」
差し出された手のひらには赤い紐が付いた小さな鈴。促されるまま手に取ってみたものの、これは……。
「これ、音が鳴りませんよ?壊れてるんじゃないですか」
「いいや、壊れてなんかいないよ。それは特別な場所でしか鳴らないのさ」
「特別な場所?」
「こっちへ来る時、電車に乗ってきただろう。
そう言われて降りた時の事を思い出した。
何となく、色やデザインが少し違っているような気がしたのは、昔使われていた電車だったからなのか。
あの時覚えた違和感は気のせいじゃなかったんだ。
「お兄さんがいたホームは降車専用。帰りたいなら乗車専用のホームに立って、その鈴で電車を呼ばなけりゃならない」
「あれ?さっき、今夜は切符なんかなくても此岸に行けるとか言ってませんでしたか。だったらこの鈴も別にいらないんじゃ」
「おや、よく覚えていたね。境界が曖昧になるハロウィンの夜は切符がなくても電車に乗れる。ただしそれは、こちら側の住人限定。生きてる人間が電車に乗りたいのなら、切符と鈴が必要になるのさ」
「そうなんですか。じゃあ乗車専用のホームってのはどこにあるんですか」
「あそこだ」
店主が指差したのは、暗がりに浮かび上がる山のシルエット。
「まさか……」
「あの山の上だよ」
「うわぁ……」
今から山に登るのかと考えただけでも億劫なのに、この暗い中で進まなきゃいけないのかと思うとさらに気が進まない。
「別にこのまま残ってもいいんだよ。どうせいずれは来る事になるんだから。初めは戸惑う事もあるだろうが、慣れてしまえば案外気楽で楽しいかもしれないよ。まぁ、何も未練がないならね」
未練、思い残した事、やり残した事……。
そんなのいっぱいあるに決まってる!
「俺、帰ります。いろいろ教えてくれてありがとうございました!」
「ちょいとお待ち」
お礼を言って立ち去ろうとしたところ、店主に呼び止められる。
「お兄さん、お代がまだだよ」
「お代……。あっ、
「うちの支払いはお金じゃないんだ」
「え、じゃあどうすれば」
「そうさね、お兄さんの場合はそれを頂こうかね」
それ、と示されたのは
「時計、ですか……」
思い出も、思い入れもある腕時計だった。
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