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バイトの休憩中に賄いを食べたので、特別お腹が空いてるわけじゃないけれど、こういう屋台の食べ物ってなぜか美味しそうに見えるんだよな。
それに、せっかくだから何か食べたいという気持ちもあって、ずらりと並んだ屋台を物色していく。
焼きそば、綿あめ、たこ焼きと一般的なものから、血液ジュース、カエルの丸焼き、何の肉かよくわからない串焼きなんて怪しすぎるものまである。
パンプキンパイとお菓子の入ったミニバケツはいかにもハロウィンらしい。
一通り見て回ってから、バームブラックというドライフルーツのたっぷり入ったケーキを買ってみた。
中に小物が入っていて、出てきた小物で運勢が占えるらしい。フォーチュンクッキーと似たようなものだろうか。
早速食べてみようとしたところで
「お兄さん、人間のお兄さん」
と呼び掛けられた。
周りは仮装した人ばかりだから、人間の、というのは俺の事だろう。
見ると雑貨を並べた屋台の店主が手招きしている。
「お兄さん、それ食べるのかい?」
「まぁ、そのつもりですけど」
「悪い事は言わない、止めた方がいいよ」
「え、なんでですか。まさか変なものでも入ってるとか……」
これを売っていたのは小綺麗な普通の店だったけれど、他の屋台のラインナップを考えると、変なものが入っている可能性もなくはない。というより充分考えられる。
「黄泉戸喫。お兄さん、生者だろう?」
「よもつ……。えっと、何ですか?」
「
一瞬、何を言われているのかわからなかった。
あの世とこの世?戻れなくなる?
「ここは彼岸、死者の世界さ」
「え、は、何を……」
「今宵はハロウィン。
急にそんな事を言われても、思い当たるものなんて……
「あっ」
慌ててパーカーのポケットを探る。
あった。あの時拾ったパスケース。
駅に届けようと思っていたのを忘れて、ポケットに入れっぱなしになっていた。
「おやおやそれは此岸行き列車の切符じゃないか。まぁ今夜はそんなものがなくとも向こう側に行けるんだけどね」
俺の手元を覗き込んだ店主が言う。
「あの、それじゃあここは本当に、あの世ってやつなんですか……?」
「お兄さんの感覚からしたらそうなるね。ただ今日に限って言えば、死者以外にもいろいろ混ざっているけどね」
にひひっ、と笑う店主を見ながら、頭の中はパニックになりそうだった。
俺はまだ夢を見ているんじゃないのか?
どうかそうであってほしい。
でも、もしも店主の言う通り、これが現実だとするのなら、ここにいる人たちも仮装なんかじゃなく……。
ゾクッと背筋に冷たいものが走る。
「もしかして俺、死んだんですか……?」
「え?あぁいやいや死んではいないよ。まだこちらのものを食べてはいないだろう?お兄さんが来てしまったのは、その切符を持っていたからだよ」
「じゃあっ、戻れるって事ですか。どうやったら帰れますか!」
「まぁそう慌てなさんな」
店主がパチンと指を鳴らす。
すると、雑貨屋だった店の装いが一瞬にして様変わりした。
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