2

――ガクンッ。


大きく舟を漕いだ勢いで目が覚めた。

いつの間にか電車が止まっている。

あんなに混んでいたはずの車内は今はガラガラ、誰一人いない。

それどころか電気は消え、窓の外まで暗くなっている。

いつもだったら多少うとうとしていても、降りたい駅に着くとちゃんと起きられていたのに、今日は大分寝過ごしてしまったらしい。


「ここはどこだ……?」


まさか寝ている事に気付かれないまま、車両基地にでも連れられてきちゃったんだろうか。

時計を確認すると、針は十時手前を指している。

なんだ、乗ってから一時間も経ってないじゃないか。

緊急事態か何かで乗客が降ろされたのなら、誰か一人くらい俺の事を起こしてくれてもいいのに。

いずれにせよ、このままここにいても仕方がないので、出口を探す事にした。


乗っていた車両は後方だったため、最後尾からドアを確認していく。

先頭まで一通り見てみたけれど、どこのドアも固く閉まっていて開きそうにない。

仕方がないので窓から出る事にした。

窓の縁に足を掛けて飛び降りる。

着地した際に少しよろけて、乗ってきた電車が目に入った。


「あれ?乗ってた電車ってこんなんだったっけ」


なんとなく違和感を覚えたものの、普段もまじまじと観察しているわけではないし、暗い中で見ているから違って見えるだけかもしれない。

もし違ったとしてもきっと些末な事だ。

そもそも俺の気のせいかもしれないし。


降りた場所はどこかのホームのようだった。

駅名の書かれたプレートも何もないけれど、少し歩いた先に改札らしきものが見える。

近付くと、俺がよく知る自動改札機ではなく、昔あったような有人改札になっているらしい。

だが今は誰もいない。


「通りますよー……」


ICカードをタッチする場所もないので、そのまま通り抜ける。

どことなく無賃乗車している気分だ。

いや、後から説明すれば大丈夫だろ、たぶん。

もしかしてここは、もう使われなくなった駅だったりするんだろうか。

そうだとしても取りあえずどこか外には通じているはずだ。

そこから先はスマホで場所を確認すればいい。


改札を抜けると真っ暗な道が広がっていた。

見える範囲に街灯の一つもない。

すぐにスマホを見てみるも、そこには虚しい“圏外”の二文字。

まさかめちゃくちゃ辺鄙な田舎だったりするのか?でもあの短時間でそこまで移動したとは考えにくい。

頼みのスマホが圏外じゃ、場所も帰り方も調べようがないし、最終手段のタクシーも呼べない。

どうしようかと困り果てていたら、どこからか賑やかな声が風に乗って聞こえてきた。


耳を澄ませて音を辿り、声のする方に歩いていく。

少し行くと、この一帯の光を全部集めたかのように明るい空間が目の前に現れた。

明暗の差で目がチカチカする。

空には提灯が無数に並び、様々な屋台から客引きの声が飛び交う。


「祭りだ……!」


魔女に幽霊、ミイラに妖怪。

ここでも気合いの入った仮装に身を包んだ人たちが大勢集まり、祭りを楽しんでいた。

賑やかな雰囲気に釣られるように、その場所に足を踏み入れる。

今年の夏休みは課題とバイトに明け暮れて夏祭りに行けなかったから、祭りは久しぶりだった。


屋台はハロウィン仕様なのか、見た事のないものばかり並んでいる。

すっごくリアルな、瓶詰めのカエルやイモリの丸焼きなんて不気味なものまであった。

さすがにそれは近付いてよく見る気にはなれないけれど、他にもいろいろ置いてあって面白い。

胃を刺激する美味しそうな匂いも漂ってきて、現金なお腹がぐぅと鳴って主張する。


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