3-4

食堂。


俺は小薬と二人、俺はいつも通りにうどん、小薬はチキン南蛮を盆に乗せて、テーブルに向かう。手近なテーブルに着くと、俺はおもむろに口を開いた。


「多分、飯島は無くなったと思う」

「え?何でそう思うんだよ?」

「あいつ、今日の授業に来なかった。あいつが休む事なんてことは今まで無かったから」

「……」

「それと……」

「何だよ」


俺がもったいぶったからだろう、小薬は苛立ちを隠しつつも少しトゲがある声をだす。


「さっき、ネットのニュースを見ていると、あのM山で二人の死体が見つかったらしい」

「そんなの…」


この後に続く言葉は、あの2人かどうか分からないだろと判断し、先回りして説明してやる。


「いや、記事を見ればわかるが、被害者の身元は割れていて、飯島と同じ名前だった。また、2体とも首と胴体が離れていたらしい」

「そりゃ…」


小薬は、言葉を失いつつも割り箸を割った。これは、俺が言った内容によるショックというより、ただ単に割り箸を割るのに集中したかっただけだな。そのままチキン南蛮にかぶりつくと、やはりもぐもぐと美味そうに食べ始めた。


「順当に行けば次で最後だ」

「長谷川ちゃんね…」


あのメガネの女子の顔が浮かぶ。特に思い入れもないが助けられるなら助けてやりたい。しかし、あの女は俺達が、情報収集したり行動をするよりずっと機敏だ。とにかく時間が無い。


「そういや、一日経っちまったけど掲示板には書き込みあったのか?」

「ああ。いくつか書き込みがあった。夜通し議論されてたよ」


スマホを取り出して、サイトの掲示板を画面に表示させ、手渡した。長いので自分でみてもらったほうが手っ取り早いと感じたからだ。行儀の悪いことだが、小薬は割り箸を口に挟み、スマホを操作する。その間、俺はうどんをすすることにした。4口ほどすすった時、スマホが帰ってきた。


「何か怖い話で盛り上がってるだけって印象だな」

「そうだろ、中にはちゃんと祓う方法を書いてくれてる人もいるが少しばかり難しい気がする」

「ふーん」


そう言って、チキンにかぶりつく。


「それに最後の方の書き込みに、祓い屋が死んだとかなんとか書いてあったんだ」

「あ、あったな。あんなのどうやって知ったんだろう?」

「あの書き込みは管理人の書き込みだった。あの人がどうやってその事を知ったのか分からないが、あの書き込みで、さっき言ったネットニュースを知ったんだ。リンクが貼ってあった」

「ふーん」

「祓い屋も殺す女…か」

「塩も駄目、祓い屋も駄目、じゃあ、どうするのが一番いいんだろうな」


俺は、この小薬の言葉に少し逡巡して言った。


「『出会わないのが最善の方法』だろうな」

「身も蓋もない」

「そうだな」


俺は自分の言葉を反芻する。この身も蓋も無い方法が最善の方法ならば、『既に出会っておきながら生きながらえている人間』はどうすればいいのだろうか?自身の無力感に苛まれながら、静かにうどんをすすった。

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