3-1

「い、一ノ瀬が死んだ!?」


昼休みの前に、メッセージアプリのグループメッセージで衝撃の内容が来た。小林に続いて、一ノ瀬まで。どうなってやがる!?心なかで悪態をつく。つかなくてはやってられない。どう考えても『あの女』の仕業だ!どうすりゃ、死なずに済む!?

どうすりゃいい!?


授業が始まるチャイムがなる。同じ学部の奴が廊下から教室へと続々と入っていく。俺にはそこがただ無為に時間を浪費するだけの死の入り口に見えた。どうすればいい?祓い屋とかか!?


廊下の先から呑気な足取りで俺らの教授がやってきた。俺を一目見て、


「どうした?具合悪いのか?」

「いえ。大丈夫です」

「じゃあ、入れ」


そんなやり取りをする位だから、俺の顔色は相当に悪かったろう。嫌な汗をかいてきた。そんな季節ではないのに。覚束ない足取りで、死の入り口に入る。俺が一番最後の生徒だったらしく、教室中の視線を受ける。その視線の中には、箕輪がいた。


俺には怪談を語るくせに起きた事態には何にも対処できない無能。それが今の箕輪に対する評価だ。あいつが余計な話を聞かせてくるから、俺がこんな目に合うんだ。箕輪、お前が代わりに死んでくれよ!


そんな怒りを携えながら、教室の上の机を目指す。それは上の方に座っている箕輪の席に行くためだった。よろよろと歩く。階段を一歩一歩と踏みしめ、箕輪の横の机に座った。こいつの周りはいつも空いている。机に座るなり箕輪が心配そうに聞いてきた。


「大丈夫か?」


何が大丈夫か?だ!?


ムカつくんだよ!元はお前のせいだろ!心の中は煮えくり返っているが、ここでケンカをするわけにはいかないので、至って冷静を装う。


「今日、さっき一ノ瀬が死んだってメッセージが来たよ」


それを聞いた箕輪の元々大きな目が更に大きく見開かれた。


「本当か?」


黒板の前で教授が授業を開始し始めたので、他の生徒の邪魔にならないよう、小声で話す。


「ああ。何処で死んでたかは知らねーが」


箕輪に対する怒りで言葉が乱暴になる。箕輪はそれを聞いて少ししゅんとしたように見えた。


「そうか。お前はどうだ?見てるか?例の生首女」

「まだ」


それだけを伝えた。こいつとは必要最低限の事しかもう喋りたくない。


「なら良かった」


何が良かったのか。そう言ってやりたかったが、黙って授業を受ける事にした。


授業の内容は全く頭に入ってこなかった。それも当然だろう。これから死ぬかもしれない人間が喜々として知識を溜め込んでどうするのか。こんな危機的状況を打破する時にこそ必要なのは蓄えた知識を使う事だ。今はインプットの時間じゃない。アウトプットの時間だ。


ここにいる俺以外の人間はこれからも生きていくのだからしっかりとインプットするといい。俺の今後はどうなるか分からないのだから、如何なる時間をも自身が生きるための方策を生み出すためのアウトプットの時間にあてることにする。

しかし、授業の時間いっぱいを使っても生き延びる為の方法は思いつかなかった。


昼休みになると、箕輪はそそくさと何処かへ行ってしまった。大方、食堂だろうが。俺は丁度いいので、授業で使った席をそのまま使わせてもらうことにした。パンをかじりながら、授業中にノートに書いたアウトプットを整理する。


これら整理したものは生首女が霊であることを前提にしているし、小林だけなら事故って事にもできたが、一ノ瀬まで死んじまったら、生首女の影響も少なからずあると考えるべきとしている。


まず死者の類なら祓えるはずだ。伝承や言い伝えに出てくる妖怪や幽霊でも対処方がきっちりある方が多い。世間一般的なのは『塩』だ。塩をかけて追い払う方法。効くか効かないかということもあるが、そもそも対象に塩をかけられるだろうか?


あの女、小林を見ていて思ったが、あの女は何処にでも出てきてるようだった。1つのところに縛られず小林を的確に追っているようだった。あっちにもこっちにも出てこれる瞬間移動のようなことが出来るやつに果たして塩なぞかけられるものだろうか?難しい気がする。


もう1つ考えられるのは、生首女を供養する事だ。しかし、あの女の素性が全く分からない。あいつはそもそもあの横断歩道で死んだの地縛霊なのか?とか、浮遊霊なのかとか供養するのに必要な情報がからっきしなのだ。今から情報を集める時間も残されているかどうかも分からない。いつ死ぬかサッパリ分からないのだから。


であれば、これら案を却下し、相手を消すことを主とせず、自分を守ることに焦点を当ててみるのはどうか?こちらは代表的なものは数珠だ。なんとも、きな臭い感じがするが無いよりはマシ、といったところか。


後は、祓い屋にでもお願いするしか無いのか?自称祓い屋の知り合いが居るには居るが、数珠並みにきな臭い奴だ。本当に死者の魂が見えるタイプなのかも分からん。口からでまかせを言って金を稼いでいる詐欺師のように見えるのだ。そいつが本物だったらいいが、偽物だったら終わり、俺は助からない気がする。どうする?新しく祓い屋を探すか?そんな時間はあるのか?


だいたい、死ぬ迄の時間に随分とムラがある。ノートに、あの女に会ってから小林が死んだ日と一ノ瀬が死んだ日、つまり今日の日付を書く。こうしてみると小林は3日間、一ノ瀬は小林が死んでその翌日に死んでいる。こういう法則性もよく分からない。


ホラー映画や小説なんかのセオリーでいけば、1週間とか、何日間とか死ぬ迄の猶予が与えられるが、こいつの場合はどうなのだ?


ノートにシャープペンを一定のリズムで打つ。考えは纏まらない。いつ死ぬかわからないなら、なりふり構わず行動しろと言うことにも感じられる。


そうだ。次の瞬間にも死ぬかもしれないのだ。何が何でも生き残るために行動しなくてはいけない!俺はノートや筆記具をまとめてバッグに入れて、教室をでた。パンの袋を廊下のゴミ箱に突っ込み、スマホをつけてあの祓い屋に電話をかける。何度かのコールの後、相手が出た。


「今、大丈夫か?」

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