2-2
気が付くと朝になっていた。雀がチュンチュンいってるのがうるさくて目を覚ました。
体を起こして、リビングへ行って、テレビの電源を入れて朝のニュースを眺める。ソファに置いていたスマホの画面の上のランプが点いているのに気づいたから、何だろう?と思って手にとった。メッセージが来てる。
今日は朝一で、自分が出る授業は無いからのんびりしてたけど、そのスマホのメッセージのせいで全て台無しになった。
「死んだの!?小林!?」
慌てて私は服を着替えて授業に必要なものを全部いつものバッグに入れて、部屋を出た。こんな時でも部屋の鍵をかけ忘れない私は偉い。直線上の奥にあるエレベーターの元に走り寄り、下行きのボタンを押してエレベーターを呼んだ。ちょっとするとチンと音がして、扉が開いたから急いで乗った。
セージは朝は絶対に送ってくれないし、昨日喧嘩別れしたままだったから、電車に乗って大学へ来た。校門に入ると、人がたくさん集まってる場所がある。その真ん中では警察の人がいるみたい。
まさか、あそこが?
朝のメッセージはユキからで、大学の中で小林が死んでた事を伝える内容だった。それでピンときた。
集まってる人々の中に背の高い、イケメンがいた。だけど、あれは
「オカルトオタクじゃん」
昨日初めて会ったオカルトオタクだった。
あいつ背が高いし、顔もいいからすぐに目についちゃう。
でも、私にはセージがいるから。
そう言い聞かせて、集まってるグループの中に入り込もうとした。その時、オタクがグループから抜けて、何処かに行っちゃった。私には関係ないから、そのまま何があったのかなって警察の方を眺めてた。ユキでもいれば話ができるのに。そんな事を考えてた。警察の人をボーッと見てると、端っこに赤いものが見えた。
「えっ?」
目をそちらに向けると、いる。
あの女だ。
どうして?あの女が?
なぜ、この大学にいるの?
あの女は体の右半分を校舎に隠すように立っていた。だから、左手に持った頭は見えてる。見えてる頭は私を見てる。見てる顔は私を笑う。ホラー映画を見てるみたいに。動けない。怖くて動けない。
「ねぇ」
ビクッとしてしまう。左肩を叩かれたから。誰!?と思って後ろを振り返ると、ユキがいた。
「な、何だぁ。ユキかぁ」
体から力が抜けた。ユキのメガネの奥の目がね、ビックリしてた。
「大丈夫?」
「うん。だ、大丈夫だよ。ビックリした」
「私に?」
ユキが自分自身を指さしながら聞いてきたので、私は顔を横に振って否定した。
「ううん。さっきね、あそこにあの女がいた気がしたの」
女がいた所を指差す。やっぱりあの女はもういなかった。ただの怖がりが見せたマボロシだね。でも、ユキの反応はそうじゃなかった。
「え?それって……」
何かに気付いて、私には言えないって顔した。私は勘がいいから分かる。ユキは何かに気づいた。いや、私も気付いてる。勘がいいから。気付かないふりをしてるだけ。気づきたくないもん。私の不安がユキにも伝わったのか、こう言ってくれた。
「あの、箕輪くんに相談してみようよ」
あのオカルトオタクに?何も知らないって突っぱねたじゃん?何も役にたたないよ。あんなの。
でも、昼休み。
ユキと一緒に食堂へ走り込み、中を見回す。するとあの男がすぐに目についたから、そいつがいるテーブルに駆け寄り、机をバンと叩いてやった。オカルトオタクは、うどん食べてる最中だったけどそんなの関係無し。オタクは馬鹿みたいな顔して私を見上げて一言。
「どうした?」
呑気な男。どうした?じゃない。
「わ、私の所にも来たの!れ、例の女が!」
そう話をするとオタクは興味を持ったみたいで、私達に馬鹿みたいにカレーを食べてる……小薬とかいったっけ?そいつの隣に座るように言ってきた。カレーの匂いのせいでお腹が空いてきた。私もユキもまだ、お昼ごはん食べてないのに、こいつらときたら。オタクは、ちょっと私達を見て、
「それで?あの女を見たって?」
「あんた!何でそんなに冷静なのよ!」
こちらの状況なんてお構いなしに呑気なのに腹が立ってきて、ついつい大きな声を出しちゃった。そのせいで、食堂中の皆に見られてる。けど、そんな事言ってる場合じゃない。オタクは、少し考える仕草をして、
「当事者ではないから、かな?」
とぬかした。それを聞いて、私は滅茶苦茶にムカついた!
「あんたが!飯島に変な怪談、吹き込んだからでしょうが!」
元はといえば、こいつが飯島に変なことを教えるからいけないのに!こいつときたら!
「それは…」
私がハァハァ言ってるのを見て、オタクは、何かを言いかけようとしたけど、やっぱり止めてこちらの目をじっと見てくる。やっぱりイケメンなのは間違いない。
「話は聞こう。いつ、何処で、あの女が出た?」
「今日!朝!ここで!」
早口で言ってやった。オタクは、何も言わずにうどんを一口。
バカにしてるの!?
オタクはもぐもぐとした後、
「そうか」
とだけ言った。バカにしすぎだろ!
「箕輪、もう少し親身になって聞いてやったらどうなんだよ?」
カレー野郎がフォローしてくれた。オタクが憎ければ、つるんでるこいつも憎くなる。こういうのなんて言うだっけ?坊さん憎けりゃ朝まで憎いだっけ?カレー野郎の一言で、オタクは、んーと言って何か困った顔し始めた。
「そうは言われてもな。俺もどうにかしてやりたいところだけどどうにも出来ないんだよ」
「本当に何も無いんですか?」
私の隣座ったユキが珍しく、喋った。私がいると、いつも聞いてくれる側だから、ホント珍しい。私が喋りすぎてるだけだね。オタクの表情は全然変わらないから、全然気持ちが読めない。
「ああ。俺は祓い屋とか陰陽師とかじゃないから幽霊が出てもどうしようもない。知り合いにそういう人もいない」
ユキは、しゅんとしちゃった。可哀想。いや、一番可哀想なのは私!
「お前、知ってるか?」
オタクが、カレー野郎に聞いてる。
「いるわけ無いだろ!お前じゃないんだから!」
カレー野郎は、まだカレーを食べてる。こいつ食べるのどんだけ遅いんだよ。
「じゃあ、管理人にも聞いてみるか」
管理人?なんの?マンション?んなわけないか。オタクはそう言うとスマホをポケットから取り出して操作した後、テーブルの上にそれを置いた。そして、うどんを一口。こいつもまだうどん食べてた。こいつらホントに呑気!
「あんたたち、真剣にやってんの!?」
やっぱり声が大きくなっちゃう。言いたくないけど言っちゃう。
「昨日!女見たって騒いでたやつが今日!死んでるんだよ!?わ、私も……」
何?私も『死んじゃう』の?小林みたいに?
「だ、大丈夫だよ。一ノ瀬さん」
ユキが慰めてくれてる。それに比べて!
「分かってる。分かっているけど、手は打てないだろう」
オタクは、無神経にそんな事言ってきた。丁度そのときにスマホがなったの。オタクの。
「やっぱりダメか」
オタクは、そういうとスマホの画面を私達に見せてきた。3人で覗き込んだ。画面にはメールが出てた。
『すみません。
私の所に来た怪談には、道路で幽霊に会った事だけが寄せられており、それ以後の展開や、その幽霊をどうやったら祓えるのか等はわかりません。
お役に立てず、すみません』
「これって、やっぱり何もわからないって事ですか?」
ユキの質問にオタクは大きく頷いて、
「そういうこと」
と、無茶苦茶ムカつくことを言ってくれた。
このムカつくことと同じタイミングで昼休みが終わり、こいつらにはたくさん言いたいことがあったけど、授業に出るからって言われて食堂を出ていった。もう少し、人のこと考えたら!?
ユキも授業があるからって、行っちゃったけど、ユキは、大丈夫だよって励ましてくれた。私は何もする事が無くなって、家に帰るのもいやだったから、セージに連絡した。
あ!セージはここら辺にたくさん友達がいる!何か知ってるかも!セージに電話しづらかったけど、思い切って電話した。たくさん謝れば大丈夫だよね?
何度かプルルってなったら、セージが出てくれた。
「何?」
不機嫌なのがよく分かる。でも、聞かなきゃ。
「ごめんね。昨日」
とりあえず昨日のことを謝る。セージは前のことをずーっと気にしてるから先に謝っておかないと。
「いいけどよ」
短い返事。いつもの俺、イライラしてますってアピールだ。慣れちゃったから構わず質問をしてみた。
「セージさ、M山に幽霊出るの知ってる?」
「はぁ?」
私の質問が急すぎて、セージのイライラが増してる。でも……
「あー?あぁ、そういやタイガのやつが、んなこと言ってたな」
「えっ?」
タイガは私もあったことがある、耳がピアスだらけの男の子だ。
「あのM山だろ?タイガのダチがあそこ走った後、すぐに死んじまったらしいんだよ」
「あそこ走った後?走った時じゃなくて?」
セージは完全に機嫌をなおしてくれてる。さっきの怒ってますって感じの声から、ハキハキとした元気な声になったから。
「おう。夜中、一人でバイクであの山を走ったらしいだよ。その時、女に会ったって言ってらしい。んで、それから少したったある日、事故って死んじまった」
「何か、様子が変だとか言ってなかった?」
知りたい。
それが、知りたい!
「え?何で知ってんだよ?タイガが会った時には何かビビってたらしいんだよ。どうしたんだよって聞いたらしいけど、『女が来る』ようなことを言ってたらしい」
やっぱり、やっぱり、私は死ぬのだろう。誰もが死んでいる。生きている人がいない。
「トモコ。どうしたんだよ?変だぜ?さっきから」
私が黙ってたのを変に思ったから聞いてきたんだと思う。セージが心配してくれるのがうれしかった。だから、強がる。
「ううん!なんでもないよ!あっ、セージはこれから空いてる?」
声が震えてるのがバレなければいいけど。
「空いてるけど?」
家に帰るのは不安しかない。家に帰るぐらいなら、カラオケとかマン喫で時間をつぶした方がいい。
「カラオケ行かない?」
「あー。いいけど?」
その後、セージが大学に迎えに来てくれることになって電話を切った。スマホの横のボタンを押して画面を暗くする。また、いつものように大学の駐車場に移動する。変な所に立っておくとセージを怒らせるからね。広い駐車場の入り口付近に立っておくと、セージが来た時気づきやすいからいつもここに立っている。
スマホをまた明るくして、
いじる。
いじる。
いじる。
そのうち、赤いものが視野の中に入ってくることに気づいた。何かな?と思って顔を上げると、私は心臓が止まりそうになる。赤いものは傘だ。雨も降っていないのに、傘をさしている者がいる。『あの女』だ。直感で分かった。わかりたくなくても、わかってしまう。
「う、そ…」
スマホを落としそうになり、ぎゅっと握りしめて胸にあてた。駐車場の奥に立っている女。目を離すことができないし、あいつも消えることはない。確実に私を狙ってる。遠くてはっきりとは見えないけど、しっかりと左手に何かを握っているのが分かる。私はあれが何かを知っている。
「え?」
どうしてだろう、あの女がはっきり見えてきている気がする。気がするんじゃない。近づいてきているんだ!ゆっくり、ゆっくりと近づいてきている!昔あったアハ体験とかいうやつに似てる!
ヤバい!
ヤバい!
ヤバい!
逃げなきゃ!
逃げなきゃ!と思うけど、足が動かない。どうして!?どうして逃げられないんだろう!?この間にもあの女が段々と近づいてきている。あの赤い傘から目を離すことができない。
ヤバい!
ヤバいよ!
そう思った時、近くでプー!っとなったから、ハッとして気が付き、身体が動くようになった。プー!プー!プー!とさっきから音が鳴り続けていて何だろう?と、あたりを見回したら、見慣れた黄色い車が止まっている。
セージだ!窓からセージのいつもの見慣れた顔が出てきて、安心して全身の力が抜けて、その場に座り込んでしまった。
「おい!大丈夫か?」
そんな私を見て、セージは慌てて車から降りてきてくれて、やっぱりセージは私を大事にしてくれてるんだって思った。
「ねぇ、セージ?駐車場のあっちの方に誰かいる?」
私は女がいた方を指さして、セージに問いかけた。セージは言われたとおりに、あっち側に顔を向けて確認してくれた。
「いや?誰もいないけど?」
よかったと思って、私は立ち上がった。おしりをパンパンと叩いて埃とか砂とかを払って、ホッとため息をついた。
「よかったぁ~」
何故安心してあるのか分からないセージが不思議そうな顔して私の顔を覗き込んでくる。
「何がよかったんだ?」
「え?あぁ!大丈夫!こっちの話!」
「何だよ?隠すなよ。俺とお前の中だろ?」
セージの真剣な眼差しにドキッとして、やっぱり私にはセージしかいない!と思って全部喋ることにした。セージの車に乗って近くのカラオケに向かった。
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