02 Endmarker.

 彼がいなくなった。

 ふしぎなひとだった。それでも、いなくなると、さみしい。

 彼がいないベッド。ひとりぶんのぬくもりしかない。

 彼のいないキッチン。

 あ。

 そっか。ごはん作らないと。

 彼の使っていたお醤油。ふたつ。何が違うのか、わからない。わからないけど、彼が使うと味が違った。わたしが作ったよくわからないものには、もう違いも見出だせなかった。ただの肉。お昼ごはん用のやつ。朝ごはんになっちゃった。

 彼が。いない。


「はい」


 それだけが、事実。

 そして、たぶん、もう戻ってこない。


「いいえ」


 いくらいいえと言っても、この状況は変化しない。彼の名前さえ、知らないのに。

 さみしい。

 いなくなってはじめて、彼のことが、彼がほしいと思った。彼が隣にいるふしぎな感じを、また感じたかった。

 無理なのに。

 わたしには、はいといいえしかない。彼を引き留める言葉も、わたしは持っていなかった。朝ごはん。しょっぱい。

 わたしの涙だった。

 ごはんを食べるのをやめて、机に落ちる涙を、眺めていた。わたしは今、泣いている。でも、それだけ。涙が止まったら、またごはんを食べて、そして、後片付けをして。彼のいない日常に戻らないといけない。

 だから、いま。今だけは。

 彼のことをおもって、泣いていたい。

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