第2話 なるしかないんだが
取り敢えず街に出てきてみたが、周囲の目線が何か痛い。
滅茶苦茶白い目で見られる。
恐らく追放された無能貴族が我が物顔で街歩いてるぞダッセーみたいな感じなのだろう。
その件に関しては俺悪くないし、悪いのこの本当の体の持ち主だし。
ていうか俺この世界に来た瞬間に絶縁アンド追放処分って運なさすぎじゃね。
「おほほほほ!聞いたわよニコラ、あなたセラフィン家を追放されたんですってねえ!」
漫画でしか聞いたことのないような笑い声が俺の背後から聞こえてきた。
振り向くとこれまた漫画でしか見たことのないような縦ロール髪の女が立っている。
口調からして俺の知り合いだろうけど俺こいつのこと知らねえんだよな。
でも無視するってわけにもいかないし。
「えーっとその、どちら様ですか?」
知らないものは仕方ないから聞くしかあるまい。
バイト先の店長に分からないことはなんでも聞けって言われたからな。
その後聞いたら怒られたけど。
「はあ!?あなた私のことを忘れたの!?セラフィン家の親戚であるクロモン家の一人娘、ロアナ=ド=クレモンよ!」
「いや実は記憶喪失でして」
噓は言っていない。
「ふん、まあいいわ。それで、あなたこれからどうするつもりなのよ」
「全然決まってないけど取り敢えずこの街から出ていこうとは思ってる」
「ふーん。まあこの街にいてもまともに生活できそうにないしね。いっそのこと冒険者にでもなったらいいじゃない。丁度近くに冒険者の都があるんだし」
冒険者、なんだ冒険者って。
モンスタ〇ハンターみたいな感じの奴か。
「冒険者ってどうやったらなれんの?」
「知らないわよ。でも誰でもなれるのは確かよ。」
今のところ生きていく上で贅沢も言ってられないしその冒険者ってのになってみるのも手だな。
「でもあなたが冒険者になってもすぐに死んじゃうのがおちよ。あなた死ぬほど何もできないものねえ」
そう言えば冒険者ってモンスター倒したりとかするんだったな。
滅茶苦茶危険じゃん、俺死ぬぞ。
「うーんそう言われてみればな。俺みたいなもんが行っても対して活躍できないだろうし」
中学の時に見た映画の影響で自衛隊に入ることを志したけどその後の持久走ですぐに諦めるくらいには根性なしだしな、俺。
「なら装備を揃えて行ったらいいじゃない。どうせいくらか持ってるんでしょ?先行投資だと思って使いえば?」
先行投資ねえ、ていうかこいつもしかして遠まわしに俺助けようとしてる?
「もしかして俺のこと助けようとしてくれてる?」
気になったことはすぐに聞こう、それで怒られたら謝ろう。
「は、はあ!?そんな訳ないじゃない!ただ親戚としてちょっと手を差し伸べただけで」
それ助けてるって言うんじゃないんですかね。
「ていうか俺絶縁されてるんだけどこんなことして大丈夫なの?」
「知らないわよ。いいから早く行きなさい」
「分かった分かった。それよりか冒険者の都ってどうやって行くの?ていうかどこ?」
「プレノアって街よ。馬車で二時間ぐらいかしら」
それって近いのかどうなんだ。
「ありがとよ。生きてたらまたどっかで会おうぜ」
「生きてたらね」
俺はロアナの下を後にし馬車の発車所へと向かう。
道中笑い声がやたらと聞こえてきたがここはきっと皆が笑ってられるいい街なのだろう。
俺が笑われているというのは恐らく被害妄想だし、もし仮にそうだとしても何回も言うが俺じゃなくてこの体の持ち主が笑われてるんだ。
「お、ここか」
そこには大きめのバス停が如くそこには馬車が何台も止まっており多くの人が行き来していた。
そしてここまで来た時点で、俺はある重大なことを思い出した。
俺はスマホがなければ電車に乗れない人間だったということを。
俺には小学生の時、調子に乗って電車を使って遊びに行った結果帰ってこれなくなり大泣きした過去がある。
それ以来電車に乗ることがトラウマになりもし乗る場合は前日からネットでしっかり調べた後に乗るのが普通だ。
「まあ聞けばいいか」
どんな心配事もこれから最悪ホームレスという不安に比べれば大したことではない。
人間追い詰められたら大抵のことはできるようになるもんだ。
「あのーすいません。プレノア行きの馬車ってどれですか?」
俺は取り敢えず馬車の側にいた人に声を掛けた。
「プレノア行きならこの馬車だ。もうすぐ出るから乗るなら今だぜ。ひとり銅貨四枚だ」
銅貨ってなんだよ銅貨って。
そういやなんかジャラジャラうるさい袋があったけどもしかしてあれ財布か?
俺はカバンからその袋を取り出し開けてみるとそこには金銀銅のコインが何枚か入っていた。
銅貨ってことは銅の奴だよな、それを四枚か。
「これでいいですか?」
「ああ、早く乗れ。出発するぞ」
俺は馬車の荷台に乗り込むとそこには先客達が何人か座っていた。
どの人も腕だけで俺の足腰より広いボディービルダーみたいな人達だらけで顔つきも任侠映画で主演を務めてそうだ。
この状況で俺は明らかに場違いである。
場違いであるがもう仕方ない。
俺が荷台にある椅子に腰を下ろすと馬の鳴き声と共に馬車は走り出す。
「なあ兄ちゃん。あんたも冒険者になりにプレノアに行くたちか?」
走り出して間もないころ、横に座っていた屈強な男性が俺に声をかけてきた
「え、ええまあそんなところですかね」
「ほー実は俺もなんだよ。しっかし細い腕だな、そんなんで剣が握れるのか?」
俺の腕が細いというよりあんたの腕が太すぎるんじゃないかと言いたいが冒険者のような危険な職に就くならこれぐらいは必要なのかもしれない。
「知ってるか?プレノアにいる女冒険者。まだ新人らしいんだがすっげえ強くて将来を期待されてんだってよ。このままいけば史上最年少で金ランク到達、おまけに超美人らしいぜ」
女のことになると話すテンションがが変わるのは男に生まれた性と言うものだろう。
しかしそんなすごい人がいるのか、アメリカに行った野球選手みたいだな。
「そういやまだ名前言ってなかったな。俺はクレマンだ、よろしくな」
「俺は二コラ、よろしく」
苗字は名乗るなって言われたから名乗らないのでおいた。
正確に言うと覚えてないのだがまあどうだっていいだろう。
「二コラか。もしかしたら今後命を預けるかもしれんしな、俺の名前も頭のどこかに留めといてくれよ」
命を預けるとかそんな状況にならないことを祈るばかりだが冒険者をやっていれば避けては通れないんだろうな。
いやー選択肢ミスったかもしんねえわ、絶対もっと安全かつ安定した職あっただろ。
もう仕方ないわ、なるようになるしかない。
老衰で死ねますようにと神様にお祈りしとこう。
あの爺さん以外の神に。
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