無能貴族に転生したらいきなり追放されたんだが~後悔してももう遅い、無能貴族が冒険者で成り上がり~

久佐郎

第1話 こんなはずじゃなかったんだが

俺は伊藤和樹、今は夜の一人格闘技第十六ラウンド目に挑んでいる。


今まで数多の猛者たちをK.O勝ちでなぎ倒してきた。


横に積み上げられた紙屑たちが撃墜マークだ。


しかしそんな天下無双の俺でも流石に体が苦しい。


心臓が締め付けられるような感覚に陥り呼吸もかなり困難な状態だ。


しかしこんな所で倒れるわけにはいかない。


俺にはやるべきことがある。


俺は死なない、俺はこんな所で死ぬわけにはいかない。


すべての人類が一日三階俺に向かって祈りをささげる世界になるまで俺は死ねない。


そう、俺には野望がある。


夢、目標、野望に願望。


そう言った欲望が人を生かすんだ、多分。


というよりもマズイ、本当に体が苦しい。


「あ、あああ」


目の前に広がっていた光景が段々と薄くなっていく。


その後、体が地面に倒れたような感覚があった。


「俺は、死ぬのか?」


それだけは嫌だ、まだ死にたくない。


というよりもこんな死に方は絶対に嫌だ。


テクノブレイクで死んだなんて絶対バカにされる。


あの世で行っても天使とか悪魔とか閻魔とかに指差されて笑われるんだ。


何週間か経ったら下半身むき出し状態の俺の死体が床に転がってんだろ?


セクハラじゃねえか。


だから絶対死にたくない、死にたくないけど多分俺は半分というか九割死んでる。


ああ、ついに体が軽くなった、俺は死んだんだ。


父ちゃん母ちゃんごめんよ、大金駆けて育てた息子が息子むき出して死んじまって。




ー...



「おい、おいそこの君。起きるんだ」


誰だ、俺を呼ぶのは。


「やっと目が覚めたか」


目を開けて周囲を見つめると俺は何故か雲の上にいた。


興味本位で下を向いたら地面が見えない。


そんなに高い場所にいるのか?というか目の前にいる髭の長い老人は誰なんだ。


「さて、目が覚めたところで本題なんだが。君は死んだ」


「知ってる」


「理解が早くて助かるよ。死因は聞きたいかい?」


「テクノブレイクでしょ?」


俺はそう言って立ち上がり雲の端まで歩き出した。


「何してるんだい?」


「何って決まってんだろ。こっから飛び降りて死因をテクノブレイクから転落死に変えるんだよ」


テクノブレイクなんて死因は絶対に認めない、認めたくない。


「まあそう言わず座ってくれんか?これから君には生き返ってもらわないとならない」


は?俺が生き返る?何言ってんだこの爺さんは。


「君は自分の想定とはかけ離れた死に方をしてしまいそれを悔いている、そうだね?」


「そうそうその通り。だからこっから飛び降りてだな」


「そう言う事だから、君には別の世界で貴族として第二の人生を送ってもらいたい」


「マジで?」


「マジで」


別の世界で第二の人生?しかも貴族として?悪くなねえなあおい。


歴史に詳しくはないが貴族と言えば豪華な暮らしに贅沢三昧のイメージ、最高じゃんか。


「乗った!」


「そう言ってもらえて嬉しいよ。じゃあ早速」


老人は俺の方に両掌を向けると何やらブツブツと唱え始めた。


やがて老人の両掌か目を塞ぎたくなる程眩しい白い光が広がる。


その光は俺を包み込むようにして広がっていき俺の視界は完全に真っ白な状態になってしまった。


「さあ、行くのだ!異世界へ!」


「ああ俺行くよ!異世界に!」


俺は光の中で体が軽くなったように感じた。


すうっと魂が移動していくのが分かる、こんな感覚は初めてだ。


程なくしたところでずっしりとした重みの負荷がかかった。


魂と体が融合したのだろう、目も見えるようになった。


そこは想像通りの貴族の部屋と言ったような所で高そうな置物やら何やらがたくさん置かれている。


そして目の前には何やら青年が椅子に座ってこちらを見ていた。


しかしその顔は穏やかとはとど遠い険しいものだった。


こちらを見ている男性はゆっくり口を開いた。


「なんで呼ばれたか、分かるよな?」


「いいや」


だってさっきこの世界に来たばかりだしなんなら手取り足取り教えてほしいぐらいなんだが。


「前々から無能だとは思っていたがまさかここまでとはな」


なんだこいつ、いきなり俺のことディスりやがって。


俺はこの世界誕生わずか一分、ピッカピカの新生児なんだぞもっとチヤホヤせんかい。


「貴様はセラフィン家の看板に泥を塗る存在。代々続く伝統ある一家のセラフィン家に、貴様の様な無能はいらん」


さっきからすごい言いようだな。


俺何やったの?さっき来たばっかりだよ?今のところまだ突っ立てるだけだよ?


「ほう。それで?」


俺が無能でだからなんだって話だ。


「つくづく察しの悪い奴だ。セラフィン家はニコラ=ドゥ=セラフィン、貴様を追放処分とする。今後、セラフィンの苗字を名乗ることは許さん」


追放?今追放って言ったか?追放ってことはあれだろ、俺ここにいたらダメなんだろ?


何回も言うけど俺この世界に来たばっかりなんだよな?神様送る先間違えた?


「じゃ、じゃあ俺どうしたらいいんだよ」


この世界が日本と同じな訳ないし、住所不定無職にろくな職が用意されているかも分からない。


全く未知の世界に識も持たず丸腰で放り出されたら俺はどうなるんだ?


「そんなことは知ったことか。今この瞬間から貴様はセラフィン家の人間ではない。貴様がどうなろうがどうでもいい」


はい俺の人生終了、今までご愛読ありがとうございました。


「早く部屋に行って用意をして出ていけ。貴様の顔など見たくもない」


相手の名前が何なのか結局分からないまま俺は部屋を追い出された。


廊下に出ると美術の教科書で見たような絵画や彫刻の数々が並んでおりやっぱり貴族の家なんだなと改めて実感する。


まあ俺は追い出されたんですけどね。


てか部屋どこだよ、この家広すぎだろ。


「あのー俺の部屋ってどこか分かる?」


仕方ない近くにいたメイドさんに聞いてみる。


メイドさんって喫茶店以外にもいたんだな。


「そんなことも分からないんですか?二階の突き当りじゃないですか」


どこか馬鹿にしたような呆れたような口調でメイドさんは答えた。


「ありがとございます」


二階の突き当り二階突き当り、ああここか。


部屋の扉を開けるとニ〇リでしか見たことない様な大きなベッドが置いてあり、その上には荷物がまとめられたカバンがあった。


用意しておいたのか俺は。


ていうか本当にこれであってるの?実は間違いでしたって神様が舌出しながら言ってくる展開じゃなく?


なんにしてもひとまず俺はこの世界で生きていかなければならない。


「ん?これは」


俺はカバンからはみ出た何か模様のようなものが描かれた紙を手に取る。


「地図か、これ」


それには見たことのない国や町の名前が記されていた。


てかなんだこのアラビア文字とハングル文字を組み合わせてドラム式洗濯機でかき回したみたいな文字は。


そしてなんで俺はこの文字が読めるんだ。


「取り敢えずどこに向かおうか」


比較的に治安が良くて職が充実してる所に行きたいけど、どこにあるのか分からないし。


取り敢えず街に行くか。


街に出て、手当たり次第人に聞いてみよう。


もしかしたらこの家みたく馬鹿にされるかもしれないけどそれは俺ではなくこの体の持ち主だから。


ていうかこの体の持ち主どこ行った?ニコラ=ドゥ=セラフィンって誰?え、怖くね?


鳥肌ものだよやっぱりあの神様ロクな奴じゃなかったんだ。


きっと悪魔だよ悪魔、サタンとかその辺の。


てことは俺ってその使い?知らず知らずのうちに悪魔の片棒を掴んじまったってこと?


ひゅーこーっわ。


「まあ今更気にしてもしょうがないよな」


過ぎてしまったことはもう仕方ない。


今は取り敢えず目先のことについて考えないと。


ここで死んじまったら何のために生まれ変わってこの世界に来たのか分からないし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る