第36話(昇り龍)

リュウの提案で3台でロングコースを滑る事になった。先頭からリュウ、アキ、アツシの順番だ。プレッシャーの掛かる上級者が前を走る。3台は峠を下っていく。5連コーナーを過ぎて橋を渡る。飛距離のあるS字を越え、初心者向けヘアピンコーナーも越えて後は長い右コーナーを抜ければ、橋のあるS字コーナーになる。ここが最初のコーナーとなり、その先に直線があってそこでスピンターンをする。先客が居た。S15シルビアが1台、走りに来たばかりだ。


リュウ達がスピンターンすると、シルビアはパッシングする。一緒に走る気だ。アツシのハチロクの後ろ。リュウが3回クラクションを鳴らす。〝いいよ〟の合図だ。


リュウからハザードを消して、4台はスタートする。シルビアのドライバーはいつかリュウと対戦してみたかった。


「南木曽峠のドラゴン、稲葉リュウ。勝負!」


4台は橋のS字をクラッチ蹴りで滑って行く。アツシも1発目にしては形になった。しかし、ハチロクとインプレッサの差が開く。


「何やってんだよ、このハチロク。邪魔だな」


次の長いコーナーはリュウとアキ、シルビアはリアタイヤを流してドリフトする。アツシはグリップで走り、アキとの距離をやや詰めた。初心者向けヘアピンコーナーに入ると、リュウとアキは難なく滑って行くが、アツシはスピンしてしまう。シルビアはハチロクをオーバーテイクして、GTR、インプレッサ、シルビアの闘いになる。


「このインプ、四駆のスピードじゃないな。FR化か?」


マシンが二駆か四駆か、それなりの者には後ろから見ていれば分かる事だ。


次のS字は3台とも綺麗に滑って行く。


「重いGTRでよくやるじゃん。流石、南木曽峠のドラゴン」


5連コーナーに差し掛かると、シルビアのドライバーは昇り龍を見た。リュウのGTRがまるで昇り龍かの様な滑りでコーナーを駆け上がって行く。


「これが…………南木曽峠のドラゴンの所以…………負けたぜ。インプのドライバーもなかなかだ。格が違う」


4台は駐車スペースにマシンを停めて休憩をする。シルビアのドライバーがリュウに話し掛けてきた。


「南木曽峠のドラゴン、良い走りだった。感動したよ」

「ありがと。君もなかなかの手練れだね」

「俺はシルビアのアドバンテージしか強みがない。GTRでやるなんて凄いよ」

「慣れちゃえば楽だよ」

「マジか。まだまだトレーニングが必要だな。じゃ」


シルビアのドライバーはマシンに乗って南木曽峠を下っていった。

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