第23話(後輩の恋)

リュウとアツシは世間話に花を咲かせる。


「最近、解決したそうっすね」

「何が?」

「福島第1原発の処理水ですよ。急に貯蔵量が減ってるとか。海に流してるんすかね?」

「異世界に棄ててるのかもな」

「アナザーシープっすか」

「はぁ!?」

「え? 俺、なんかマズイ事言いました?」

「何でアナザーシープを知ってる?」

「パン屋のちゃんねーが言ってたんすよ。新商品〝異世界アナザーシープ〟ってパンを販売するとか」

「藤原パン店か?」

「そうそう、そこのパン屋です。可愛い子だったな~。ああいう子と付き合いたいな~」

「やめておけ」

「何でですか。稲葉先輩には彼女居るじゃないすか。しかも、キャバ嬢」

「知り合いなんだ、アキとは」

「アキっていうんすか、あの子。付き合いたいっす」

「じゃあ、まずはドリフトのトレーニングだな。アキはインプレッサWRXSTIでドリフトする」

「あんな華奢な子が4ドリすか」

「いや。インプレッサをFR化した魔改造マシンで滑るガチ勢だ。アツシがもっと腕を上げれば釣り合うかもな」

「そんな。稲葉先輩、俺に稽古つけて下さい」

「まず、クラッチ蹴りをマスターする事とマシンのパワーアップだ。スーパーチャージャーかポン付けタービンだな」

「やる事が多すぎるぅ」

「先に改造しな。話はそれからだ」

「分かりました。改造屋に持ち込みます」

「すぐに行け」

「今からすか?」

「善は急げだ」


ーーアツシはリュウのアドバイスを聞いて、ハチロクを街の改造屋に運び込んだ。


リュウも峠を下る。そして、藤原パン店に行く。アキの真意を問い詰めないとと考えてる。どういうつもりでアナザーシープの名を軽々しく出すのか。リュウはそれを聞きたかった。


リュウは藤原パン店の駐車場にGTRを停めて降りる。店内に入ると、アキが居た。目立つ売り場のポップには〝異世界アナザーシープ〟と出ていた。


「アキ」

「リュウ君、また来てくれたん。ありがと。あ、オーナーやったね」

「アナザーシープの名を軽々しく出さないでくれないかな」

「ごめん。まずかったと?」

「まずいと言うか何と言うか」

「うち、アナザーシープに行って閃いたと。キラキラした和菓子みたいなパンがあればいいと」

「青いドレスか?」

「そうたい。リュウ君の夢の中なら、うちはお姫様やけん。今夜も行くんでしょ?」

「そのつもりだけど。ヤコも来ると思うよ」

「関係ないとよ」

「話は変わるが、朝にヤンキーみたいな奴が来なかった?」

「来た来た。沢山買っていってくれたとよ」

「そうか。アキの事が気になるみたいだけど」

「うちはリュウ君一筋たい」

「参ったな」


すると、奥から藤原のおばちゃんが来た。


「リュウちゃん、この店のオーナーを買って出てくれたんだって?」

「ええ、まあ。この店を潰したくないですから」

「ありがとうね。リュウちゃんも新商品に忌憚のない意見を言ってね」

「はい、任せて下さい」

「アキが一日で考えた異世界アナザーシープってパン、結構売れ行きが良くてね。リュウちゃんも何か考えてきてくれないかしら」

「宿題ですか。出来るだけ頑張ります」

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