第4話(準備体操)

ーーリュウとアキは携帯電話のアドレス交換をしてから南木曽峠に向かい、到着するとドリフトしに来たドライバーでいっぱいだ。団体客が来ていた。リュウとアキは左側の駐車場の端に停めると、担当の警備員が、二人の元へ来た。リュウとアキは車を降りる。


「ドライバーさん、整理券を取って」

「何分待ち?」

「そうだなー。5分くらいだよ」


リュウとアキは整理券を受け取り、しばらく待つことにした。警備員は新たに来たドライバーを誘導する。


アキは慣れた手つきで整理券の二次元コードを携帯電話で読み取る。これで南木曽峠の新規登録ができて、順番が回ってくればいつでも走れる。勿論、税金の徴収も同時に。アキは他の峠も登録していたから勝手が分かってた。


「分かってるとは思うけど、まずはグリップでコースの特徴を掴んでね」

「はい。タイヤも温めますよ」

「やっぱガチ勢だわ」

「私、そんなに上手くないとよ」

「博多弁?」

「いけないいけない。方言て恥ずかしいですよね」

「そんなことはない。博多弁、可愛いよ」


アキは頬を赤らめて照れている。そんなアキにリュウは可愛いと思った。ヤコのことはすっかり忘れている。


「無理に標準語を話す必要ないと思うよ。下伊那だって方言まみれだし。しかも博多弁と違って全く可愛くない」

「フフフ。リュウ君、いくつ?」

「21歳だよ」

「同い年やねぇ」

「敬語で話さなくていいね。そろそろ出番だ。行こう」

「うん」


リュウとアキは車に乗り、リュウのGTRを先頭にスタート位置に付ける。それぞれ警備員に整理券を見せて、峠を下っていく。


峠道の各所に赤と青の信号機が設置されており、一般車が通る時は赤信号となる。モータースポーツが認められているとは言え、公道でもある。一般車優先が常識だ。


リュウは5連コーナーを下った所でスピンターンをする。アキもスピンターンして、リュウの後ろに着ける。5連コーナーはショートコースだ。リュウはアキの実力を試す。


信号機が赤に変わる。岐阜県側から来た団体客が滑りきって帰っていくところだった。青信号になるとリュウはGTRを発進させて加速していく。アキも着いていく。アキのインプレッサは速かった。1480キログラムもあるGTRに比べ、軽量なインプレッサのが分がある。5連コーナーの4つ目でリュウはやや減速して通る。ここは南木曽峠で一番事故が起きる魔のコーナーだからだ。


スタート地点の直線に戻ると、リュウはスピンターンをして、それにアキも続く。いよいよ、ドリフト開始だ。

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