第6話 魔王と竜人
「お主、こちらへ」
ひじ掛けに置いた左腕、その拳を顔に押し付けるようにして頬杖を付き、白い足を組みながら魔王と思われる少女は告げた。
その恰好は刺繍の入った白いワンピースにサンダルと随分ラフで、おおよそ魔王とは思えない。それどころか、その銀髪も相まってむしろ人間界のお姫様と言われても通じるほどだ。
むしろ、髪と目だけではなく服装も真っ黒な俺の方が魔王らしい格好であると言える。
だが、真っ白い彼女はれっきとした魔王である。その姿を目の前にして増した威圧感、そして頭に載っている白銀の冠がそう告げている。
王座の前までゆっくりと歩き、彼女と5mほどの距離を開けて立ち止まる。それと同時に背後で扉の閉まる音がした。跪いていた悪魔が退室したのだろう。
「我の名はレリフ・ダウィーネ。13代目魔王である。お主、名を申せ」
「カテラ。カテラ・フェンドルだ」
と名前だけ告げる。すると、彼女は眉をひそめ、その赤い瞳でこちらを刺すような鋭い視線を送る。
「ほーう?魔王に対してそのような態度とは中々に自信があるようじゃのう。なかなかに大きな魔力をしているが、いつまでその自信が持つか見物じゃのう?」
どうやら俺の態度が気に食わなかったらしい。
――名前を言えと言われたから言っただけなのだが……
「これは失礼しました」
とりあえず謝罪の言葉を口にし、頭を下げる。すると、魔王レリフは気を良くしたのか、満足そうな顔をしていた。
「さて、まずは魔力測定と行こうではないか。正確に測るには互いに触れるのが一番じゃ。手を出せ」
ぴょん、と彼女は王座から降りこちらに近づくと彼女はそう言い右手をこちらに差し伸べた。握手しろという事だろう。お望み通り握手に応える。
「魔界というのは魔力至上主義でな、弱肉…強食……」
右手にすべすべとした触感が伝わったその瞬間、彼女は黙ってしまった。その表情からは笑みが失せ、代わりに動揺の色が浮かぶ。それもそのはず。彼女からは俺の1/10程の魔力しか感じられなかったからだ。
「な、なかなかやるな……じゃが我の本気には敵うまい!!」
その言葉と同時に場の雰囲気が一変する。高まった魔力がピリピリと肌を刺し、彼女の魔力は俺の3倍に膨れ上がっていた。一気に30倍以上になるとはさすがは魔王というべきか。
彼女はというと、これ以上ないほどに勝ち誇った顔をしていた。紅い瞳には自信が満ち溢れており、ドヤァ…という心の声さえも聞こえてきそうである。
俺も負けてはいられない。深呼吸を一つし、腹部に力を込める。急激に膨張した魔力は衝撃波となり彼女の長い銀髪を揺らす。彼女の視線は握手した互いの右手に向けられた。
「う、嘘……」
そう言って彼女の視線は右手から俺の顔へと移る。その瞳には驚愕と畏怖の色が浮かんでいた。
ドヤァ……
意趣返しとして、俺も彼女に勝ち誇った顔をして見せた。
――――
「先ほどは非礼な物言いをし、誠に申し訳ありませんでした……」
握手から1分、魔王は跪いていた。
「どのような罰も甘んじて受け入れます。ですからどうか命だけは……」
「命は取らんわ!!とりあえずその口調はやめてくれ。調子が狂って仕方がない」
個人的に、敬語を使うような奴にいい感情を抱いていないから止めさせる。
そういう奴らは俺を利用して甘い汁を啜ろうと近付く輩だけだったからだ。
「わかりま……分かった。先ほどの非礼は許して欲しいのじゃ」
「別に構わない。あまり気にもしていないしな。ところで一つ聞きたいことがあるんだが―――」
俺が魔法を使えない原因に心当たりは無いか?そう続けようとした瞬間だった。大広間の扉が勢いよく開け放たれる。
「魔王様!どうかなさ――どういう状況ですか!?」
入り口で驚き突っ立っていたのは、人間の年齢で言えば二十代前半程度に見える
そのうねった長髪は燃えるような赤も相まってさながら炎の様であり、爬虫類の如く縦に割けた目は夕焼けをそのまま閉じ込めたようなオレンジ色。背中には竜の黒い翼が広がっており、こめかみから生えた同色の角が天を衝く。
格好としては戦士の様、つまりは金属製の鎧に身を包み、腰には細身の長剣を携えていた。にも関わらず手足には防具らしい防具は見当たらずややちぐはぐな印象を受ける。
鎧と剣の双方に赤の意匠が所々見られる為、彼女自身、イメージカラーは赤だという事を自覚しているのだろう。
恐らく魔王軍の一員だと思われる彼女は、目の前の光景に見開いていた目を細め、一転して俺を疑惑の目で見つめる。
「貴方……何者ですか?返答によっては斬りますよ……?」
左手を長剣にかけ、剣呑な雰囲気を醸しながらつかつかと俺へ歩み寄る彼女。それに気づいたのか、レリフは慌てて立ち上がり俺たちの間に割って入る。
「待つのじゃイグニス!!こやつは我の後継として呼んだ者、決して怪しい者ではない!」
「そうなのですか?これは失礼しました。お名前を伺っても?」
「カテラ。カテラ・フェンドルだ」
「カテラ殿、ですね。申し遅れましたが私は魔王軍城塞守護隊長のイグニス・ドラゴネアと申します。以後お見知りおきを」
「あ、ああ。ご丁寧にどうも」
非を認め、恭しく頭を下げる彼女。切替えの速さに若干戸惑ったものの、恐らく城内で一番落ち着いて話が出来る相手だと認定しようとした時だった。
「一つお願いがありまして、私と殺し合い、していただけませんか?」
「断る!!俺は魔法が使えないんだぞ!?」
落ち着いた顔でなんつー事言い出すんだこの人。
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