第7話 シスター・セリカの歓声

 今日のクリスマスミサは、随分前から楽しみにしてきました。祝福に満ちた素晴らしい一日になることでしょう。


 勢いよく開けたカーテンから、黄金の輝きが射し込みます。空気は喜びに震え、ぽわぽわと生き物のように揺らぎました。たんぽぽの綿毛みたいで癒されます。私の頬はほころびました。しかし、すぐに間違いに気付きます。起きたばかりの目を凝らして見れば、暖房によって発生した埃でした。

 昨夜、遅く帰ってから掃除をしたというのに。自分の家ですら埃を制御できないのですから、広い教会は管理が難しそうです。飾りつけをチェックした後で、私の髪の毛が落ちてしまっているかもしれません。早急に回収しなくては。


 ミサは数回行うので、早いものは十時から始まります。幼稚園児や小学生による讃美歌の合唱は、遅い時間に行えませんからね。幼子の目線は低いですから、塵を残さぬよう徹底的に掃除する必要があります。床も美しく磨き上げましょう。


 今すぐにでも教会へ行きたかったのですが、食パンを咥えるのはお行儀が悪いので、落ち着いて食べました。「シスター、悪い子だとサンタさんが来ないよ」と、つぶらな瞳で見つめられたら返答に困りますもの。


 聖アンデレの日に最も近い日曜日から、四週間もの時間が経ちました。子ども達は、アドベント・カレンダーのお菓子を一日一つずつ食べることができたでしょうか。

 ちなみに、幼稚園のときの私は我慢できませんでした。初日に二十五個のポケットを全て開け、ビー玉を入れた袋とすり替えました。悪行はすぐに露見してしまい、なぜだか紙粘土で作られたカップケーキの上の飾りとして使われてしまいました。手先の器用な母は、一緒にお菓子を食べたかったようでした。こんもりと乗ったホイップクリームの粘土は、私の食欲と罪悪感を掻き立てました。一人で先に食べるものではないことを、齢四歳にして悟りましたね。甘くて苦い思い出です。


 私はコートを羽織り、教会へ向かいました。いつも以上に足取りは軽やかです。

 あわてんぼうのサンタクロースが、私のために現金のプレゼントを残しているかもしれません。いただいたものを売ることは後ろめたさがありますが、最初から現金をもらえば幸せが倍になります。


 サンタさん、サンタさん。冬場の洗濯板は堪えるので、洗濯機代をください。

 祈りを込めて鍵を開けます。


「私のプレゼントはどこでしょうか? 椅子の下? 十字架の後ろ?」

「ふぉっふぉふぉ」


 空耳ではありません。確かにサンタさんの声が聞こえました。

 私がツリーの下を覗くと、縦縞の紙袋がありました。この厚みは札束で間違いないはず!


「来い! 洗濯機代!」


 封を開けると商品券が出てきました。商店街加盟店のみ使用できる、扱いに困る紙切れです。一万円分がひい、ふう、みい……とお。


「じゅっ、じゅう~~~~~?」


 もしかして。もしかするとですよ。最新型にこだわらなければ念願の洗濯機が買えるのでは。


「やった! いい子にしていたプレゼントです!」


 年甲斐もなく飛び跳ねてしまいましたが、いくつになっても全身で喜びを表現したいものです。ミサの合間に、三田尻さんの電気屋へ行く予定ができました。わあい。


「おはようございます。シスター・セリカ」

「神父様、おはようございます。見てください! サンタさんが私にプレゼントをくれたんですよ。やっぱり早起きは三文の徳ですね。今年は初めてもらえました!」


 神父様は目を細めると、鈴を転がしたように笑いました。


「素敵な笑顔をしていますね、シスター。その笑顔を今から来られる方々にも見せてください」

「もちろんです!」


 私は心から願います。自分の幸せが他の人に連鎖することを。

 貴方も、どうか心に残るクリスマスを。今日の良き日が、明日もその先も続きますように。

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