第26話

 話を聞いた時約は破竹の勢いで行動を起こした。沖縄の知人に連絡を取って捜索してもらうそうだ。

「私はSNSを調べてみるわ。六破は自己顕示欲の塊だから、絶対にSNSに手を出している」

 信二は椅子に座って伸びをしながらぼやいた。

「本土にいる保証はないんだよなぁ」

「パパは何もしないつもり?」

「するよ、するするいましてる。俺も沖縄の知人に連絡を取ってるんだ」

「虚勢を張らなくてもいいんだよ」

「いやいるから。沖縄には結構きっかけを届けているんだよ」

「それ知人って言わないじゃん」

「新花、慎重にいけよ。六破に感づかれたら終わりだぞ」

「む、わかってるって」

 沖縄が騒がしくなった。時約と信二から情報を送られた人々が、一斉に近所の捜索を開始したのだ。サラリーマンから漁師、中には某有名人の姿まで。本土から離れた島々に探索にいってくれる人もいて、二人の予想以上に彼らは動いてくれた。裏事情は話していない。この男を探してくれという依頼をだけをしたのにも関わらずこれだけの人が動くのは、二人の蓄積された誠実さの賜物と言える。

 ある人はハブの巣窟と言われる地帯に死を覚悟して突入し、その先に住んでいると噂されている人の顔を確かめにまでいってくれたそうだ。

 時約の人脈がどうなっているのか不明だが、彼の要望でのべ四人の市長が動き出したことも衝撃的だ。市という巨大な単位が、全速力で六破の情報を探る姿はさながらドラマのようである。

 信二のスマホがひっきりなしに震える。疑いのある人物たちの情報が次々に送られてくるのだ。もちろん、そう簡単に六破は見つからず、信二のスマホは髪が長い男の人の画像で埋め尽くされていく。

 新花のSNS作戦も一筋縄ではいかない。ネットの世界は嘘の世界だ。経歴も性別も現実とは真逆だったりすることも珍しくはない。沖縄在住を名乗る人々は五万といるし、その中でチャラそうな人も五万といる。

 そもそも沖縄に本当にいるのか、という根本的な不安もある。これだけの人数を動かしておいてからぶりでもしたら悲しすぎるではないか。

 一日、二日。

 一週間。

 三人は諦めなかった。沖縄の人々も、信二たちの気持ちが乗り移ったかのように働き続けてくれた。彼らは時約の刑事人生と性格に敬意を払っていたし、信二の運んだきっかけに感謝の念を抱いていた。

 二週間。ついにそれらしき人物の写真が送られてきた。髪は短く、色も銀色になっているが、その醜悪たる顔は信二の脳裏に焼きついていた。

 間違いなくこの男だ。

 震える手を押さえながら時約に連絡を取る。

「よし、すぐいこう!」

 電話越しからも唾が飛んできそうな大声が返ってきた。

「え、今から?」

「当り前だ!」

「でも平日ですよ」

「関係ない。いくぞ!」

 信二は散々迷った挙句、学校にいこうとしていた新花を呼び止めた。

「新花、六破が見つかった」

 新花はガッツポーズを繰り出す。

「やった! いやちょっと待って。もしかして今からすぐに沖縄?」

「うん」

「私は?」

 信二は顔を色々な形に歪めた。

「学校……休め!」

「よっしゃぁ!」

 新花はカバンを放り出して飛び跳ねた。


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