第21話

 広島県内のアパートを、六破はものの二か月で解約していた。その後の行き先は全くわからない。時約の予想を裏切って、広島内での六破はさながらニートであった。   

 食事を買う以外は家の外に出ず、働いてもいなかったようだった。ゴミ出しすら行わなかったため、異臭で近所の顰蹙を買った点は変わらないが、騒音被害は特になく、ましてや夜の街に出向くことなど論外。

 時約は自らの仕事を後輩に押しつけ、ひたすらに六破の情報を探したが、これら以外の情報は手に入らない。死んだという情報でもいいから手に入れたかったがそれすらもなく、姿を消したという結論を出さざるをえない。

 季節は冬から春へと移り変わり始め、時約の公的な力が消える期間も迫っている。

 信二は日々積もっていく怒りの感情を知った。それは、六破の完璧な逃避行に対する自分たちの無力さからきているものでもあり、また、その運命に対してでもあった。というのも、六破がアパートを解約したのは、愛歌が自殺する一日前だったのだ。愛歌の自殺を予期、あるいは促していたのかはわからないが、もし後一日その決断が遅ければ、彼は間違いなく捕まっていた。たった一日。その一日が腹立たしい。

 膠着。

 信二は突発的な怒りの波に任せて、落ちていた缶を蹴った。

 時約は繰り返す行動が全て徒労で終わる虚しさに負け、思わずため息をついてしまった。

 新花は現状を変えられる興奮が日に日にしぼみ、耐えてきた日々がより一層重く感じられ、無意識的に床ばかりを見るようになっていた。


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