第15話

 愛歌はスマホを買い替え、六破の情報を全て消した。これでラインやメールはこなくなったわけだが、住所がばれているので荷物は届く。そして、届いた荷物はついつい開けてしまう。自分たちが開けなくても、娘が開けてしまうのでどのみち見てしまう。荷物の中身は相変わらずの写真や、手紙が添えられていることが多かった。ときにはサケ、イクラ、メロン、牛の高級北海道名物が届いたり、ブランドものの宝石、指輪、衣服、アクセサリーの品々が入っていたりもした。

 この異常なアプローチは半年以上続いた。それでも警察に相談しなかったのは、当の愛歌自身がいっこうに動こうとしなかったからだ。荷物が届くたびに狼狽えるのは信二の方で、何度も警察への相談を持ち掛けてみたが、愛歌は首を振る。

「このくらい全然大丈夫よ。いたずら、いたずら」

 言葉や表情も普通の愛歌そのものに感じられた。とても、別の気持ちを隠しているとは思えなかったのだ。……実際そうだったとわかって尚も。

 信二は毎回なだめられて警察への依頼を断念せざるをえなかった。

 ある日荷物が届いた。

 二人が気づくより先に娘が荷物を発見して開けてしまった。楽しそうな声を上げながら乱暴にガムテープを剥がす。

「あぁ、こらこらダメだよ勝手に開けたら……」

「私がいる」

 信二は中身を見るまで娘の言葉を聞き流していた。小さい子どもの言うことは支離滅裂だったりする。しかし、そこには本当に娘がいた。箱に入っていた何百枚もの写真は全て、幼稚園で遊ぶ娘の盗撮写真だったのだ。

 全身に悪寒が駆け巡り、憎悪がたぎった。すぐさま荷物を娘から取り上げ、リビングにいた愛歌にそれを渡す。

「何? そんなに慌てて」

 顔面蒼白の信二を彼女は笑ったが、娘の写真は強心臓の愛歌ですら果てしない恐怖に陥れた。さらに、手紙が一枚添付されていた。

「きたよ」

 大きく汚いたった三文字。無機的でありながら、奇怪な意思も宿っている。

 信二と愛歌は親だ。六破が娘に指一本触れるだけで嫌悪感を抱き、もしそれよりも酷い行いをされようものならおかしくなってしまうだろう。娘の存在を隠していた中で、娘の写真が送られてきた。それは二人に人質の縛りを与え、強気な態度を打ち崩すには十分すぎた。

 信二は警察に相談することを半ば一方的に愛歌に押しつけ、しばらくは娘を保育園にいかせることをやめた。だが。

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