第4話

「姫野,どうやって帰る?」


出っ張った喉仏を震わせて,

低く深い声で話す男の人.

角ばった骨格で,ごつごつした指.

何となく京ちゃんの笑顔が浮かんだ.

京ちゃんとは全く違う.

お父さんとも全く違う.


「いつもバス通っす.」


「何で突然体育会系…?

大丈夫?

途中で寝ちゃわない?

送ろうか?」


「それ,多分駄目ですよね.」


「俺,既婚者よ.」

いや,指輪キランって見せられても…


「それは,安全な理由になりません.」


私もスマホをキランと見せる.

「位置情報アプリ使ってます.

学校内でも電源落とさなくて良い許可貰っています.

有難うございます.


そして,お時間も有難うございました.

気をつけて帰ります.」

にっこり笑って頭を下げた.


「おぉ.

気をつけろよ.」


本当に.

全くそうですね.


さぁ,

稼働時間が短い.

だから,気合を入れないと.

密度の濃い人生を生きる.


あぁ,連絡しとかないと.

門出たら電話.


『もしもし?

お母さん?

ちょっと電気屋さん寄ってく.

うんうん.

お友達と一緒に.

だから,大丈夫.

少し先生と話したから遅くなったけど.

明るいうちに帰るから.

うんうん,また後で.』


はい.

裏工作成功.

お母さん

お友達なんていませんよ.


本当は,ジャングルや苦獄みたいな

オンラインで揃えたかったけど.

ちょっと物凄く速攻で使いたいから.


お友達と一緒って言っておけば,

だいたい安心する.

親が.

あんまり安心材料でもない気がするんだけど.

一緒に赤信号渡ってるかもしれないし.

いや,しませんけど.


「おせぇ!

おせぇよ.」



「京ちゃん.

待って欲しいとか言ってない.

帰っててよ.」


「何で,そんな言い方しか出来ねぇの ?」


「だって,待ってて欲しいって言ってない!

勝手に待ってて,文句言われるとか違う!


いつも,京ちゃんは肝心な所で

よく分からない.」


そう,私とずれる.

学校で唯一話す人なのに.


「可愛くなさ過ぎー.

してあげてんだから,ありがとでしょ.

ちょっとは言う事聞いとけよ.」


してあげたって言い方…

あんまり好きじゃないな…

有難うって言えって上から言われるのも,

やっぱり嫌だ.

でも…

ここで,

揉めてる時間が勿体ない.


「私…

ごめん,急ぐの.


思い通りに動いて欲しいんだったら,

他を当たって欲しい.」

背を向けて歩き出したら,

右肩がグンッて逆に,つんのめった.


「ごめん.

なんか,ずっと待ってたら,

もう帰ったのかもとか,

何で俺待ちぼうけなんだろうとか,

グジャッてなってて.

それ,お前にぶつけた.

悪い.」

京ちゃんの手に力が入ってた.

想いも入ってた.










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