第2話
「京ちゃん.
この油性ペンの脱け殻どうしたらいい?」
「んー.
持っといたら?
お守り代わりに.」
「これ,お守りになる?」
「お守りにするかしねぇかは,
自分次第なんじゃないの?
いいから聞いとけ.」
京ちゃんは笑った.
すぐには分からなかった.
「私もう行かないと.」
「姫~.
俺,いつまでもここにいないよ~.
もれなく期間限定品の中学生だから.
また,同じような奴探すんだろ…」
京ちゃんの言葉だけが,
私を追いかけてくる.
何で,突き放して,
煽るような事するんだろう…
京ちゃんは難しい.
クラスに行くと,
『あっ来たよ.』
『何あの上靴.』
『いねむり姫.』
こそこそヒソヒソという言葉が,
教室の空中に漂った.
普通に学校来ていいでしょ.
上靴は誰かの仕業よ.
眠たいのは病気なの.
声にならない想いを,
上手く表せないまま,
席に着いた.
私は,この狭い箱の中で,
同じ服を着て中身が獣も混じった人たちと
長い時間を過ごす.
同じ方向を向いて走っている乗り物に乗り込んだ所で,
私は多分切符を持ち合わせていないのではないか.
いつだって置いてけぼりだ.
急に眠気が襲ってくる.
診断がついたからといって,
何も変わらない.
ノリが悪い奴は,
降りる事も出来ない乗り物の中で
はじき出される.
あぁ私また寝てたんだ.
顔を上げたら,先生と目が合った.
この人…
何の教科の先生だっけ.
あぁ担任だ.
私のせいで一緒に居残り.
可哀そうに.
さて,この先生…
私に,どう出る?
「姫野 柚子.
上靴何で真っ黒?」
あぁ,先生の位置から反対側の上靴は死角なのか.
見えてはいるけれど,意識的に見た方しか理解しないのか.
先生から見える位置に両足を出して,
「こっちが真っ黒な上靴のつがいです.」
真面目に言った.
京ちゃんから貰った油性ペンを,
スカートの上から握りしめた.
京ちゃんは,ずるい.さかしい.
先生は少し衝撃を受けたような顔をして,
すぐに落ち着いたふりをした.
だいたい同じ.
大人の,そんな様子を気が付かないようなふりをする
子どもの図は昔から一緒.
私は観察するしかない.
この人は,どんな人で,
信用できるか.
出来ないか.
繰り返した結果,
だいたい当たり障りのない
同じ方向に進んでいるように見えて,
当たると跳ね返るピンボールみたいな人たちだ.
「そのまま待機.
自習して,ちょっと待ってて.」
先生が出て行った.
帰っていいかな.
ここにいても多分良い事ない.
でも…
先生の言葉聞かないような,
私そんな悪い奴でもない.
もう授業も終わって,
何にも書いていない黒板を眺める.
明日の日直では無いなぁと思った.
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