寝る子は育つ姫

食連星

第1話

昔から、ずっと眠い。

何だか、本当に眠る事だけして生きるように、

眠るように生きていたい。


お腹痛い…


「大丈夫?

無理して行かなくても…」


「うん。

中学生になったし、

何か変わるかも。


私…

行くわ。」


お腹を押さえながら立ち上がる。

背中に、お母さんを感じた。




見事に…

そう見事に、

真白だった上靴は、


『バカ』

『アホ』

『いねむり』

でパンダのように彩られてた。


せめて、

いっそ、

隠してくれた方が良かったのに。


職員室でスリッパ借りられるのに。


これ、履くしかなくなるじゃん。


昔は、都合良く考えてた。

きっと、こういう事への反発心や怒りで、

起きていられるなって。

変換して頑張れって言われてるんだと。

だけど、やっぱり色々と別で。

神経がすり減って、

只の事象。


全部、爆破したい。


そんな衝動もある。


眠たい。


眠ってたい。





「京ちゃん。」


「ん~姫。

はよ~。



お前、トリッキーなの履いてんね!」


「朝、こうなってた。」


「馬鹿しかいねぇな。」


「誰が?」


「お前じゃねぇよ確実に。」


「うん。

それ私も吸いたい。」


「駄目だよ。

体壊す。」


「京ちゃんもだめじゃん。」


「俺は良いんだよ。

男だから。

姫は女の子でしょ。」


「そんなのずる過ぎる。

皆一緒だよ。」


「一緒って言ってんけど、

一緒じゃねぇよ。

一緒って思い込みたい奴らが溢れてるだけさ。」


京ちゃんがニヤッと笑った。


「何するの?」


「これさ、

かぼちゃ先生のようにドット模様にしちゃえば?」


「マジック持ってない。」


「俺持ってる。」


「何で持ってるの?」


「あぁ?

俺じゃねぇよ?」


「疑ってないよー。

ただ聞いただけじゃん。

おっかなすぎ。」


「んーならいいけど。」


黒丸じゃ隠れないね。

はみ出す悪意。


「ねぇ京ちゃん。

もう私に書いてくれたらいいのに。

多分、私に書きたい人たちばっかりでしょ。」


「えー何?

お前、バカとかアホとか書いて欲しい訳?

性癖?」


「書きたい?」


「書きたくはないよ。

だって、今これ俺が必死に消してる。」


「そっか。」




「あっ。」


京ちゃんが私の胸スナップを外す。


「リボン持ってて。

ぐっと開いて。

ついちゃうから。」


「分かった。」


真ん中鎖骨の下、

マジックで星マークを描いた。

右と左、弧に線を入れた。


「ネックレス。」

京ちゃんが得意気に笑う。


「やだぁー。

何てもん描いたのよっ。」


「何か描いて欲しそうだったじゃん。」


「だからって!

薬指に指輪くらいでいいじゃん…」


「そんなの本当に好きなやつにしてもらえよ。」


上靴…

もう真っ黒で塗りつぶしちゃおう。


「ねぇ、マジック頂戴。」


「いいよーやるよ。」


「有難う。」


真っ黒にした上靴は、

片方でインク切れになった。


京ちゃんの黒丸は、

私に塗り潰されて分からなくなった。












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