第147話 対タクト・レンドー戦況報告会①
「──ライデンちゃんはボンヘイ国からドノカ村までの道中でタクトらと接触。【
舌打ち、一つ。
「──プロテインちゃんはドノカ村で接敵。【
自分の吐いた嘘がバレないか──マッドは二つ目の舌打ちと、自分が語った内容を簡潔にまとめるイヴィルヘルムの報告に冷や汗を流しながら耳を傾け続ける。
「──エロースちゃんはドノカ村からグランセントラルまでの道のりで、タクトらが立てた野営地を奇襲。カムダールちゃんと接敵したらしいですが、マッドくんの視界の外で起こった出来事なので戦闘の詳細はわからず──まあ負けたことには変わりないようで、彼女は寝返ったというよりかは捕縛されたようです」
舌打ち、三つ。ここでは嘘は言っていない。だが、王の精神衛生を考えるならば『彼女がカムダールには心を開きつつある』という余計な情報は付け足さず、ただ『捕縛された』と言っておいたほうが多少はマシだろう。
「──問題のディレクくんですが……まず、自分にとって一番の障害になるであろうプロテインちゃんを『役』に押し込め、魔術を封じます。続いてカムダールちゃんを石に変え、無力化。そこまでは良かったが、適当に『役』をあてはめたり、『降板』させたりなど相手を舐め腐った行動をした挙句それが原因で追い詰められ、欲氷石を破壊されます」
ディレクの報告の時だけ、イヴィルヘルムの言葉に若干のトゲが含まれる。そういえば二人はあまり仲が良くなかったな、とマッドは思い出す。ソリが合わない、というよりかは同族嫌悪のようないがみ合い方だったが。
「そのせいでワタクシたちが与えた縛りから解放され、久々に自分の実力を試すかのようにプロテインちゃんをカエルの姿に変化させ、踏み潰し殺害」
真実を言うなら、プロテインはドノカ村で今も平穏にやり直しの生活をしている。だが、死んだことにしておけば探されることもない。もっともらしい死因を騙る材料としては【
マッドがなぜそのような嘘を吐いたのか……それは一緒に旅をした彼らの気質が
あとは──。
「そこから再度戦闘が始まりますが……戦いの余波で【
こういうことにしておけばいい。【装女王】が服だということが幸いした。戦いの最中に破れたとして、何の不思議もない。
「どちらにせよ、彼も──」
「やられたんだろ?」
舌打ち、四つ。『楽屋』の制圧から戻ったばかりのアイスキャロルは気が立っていた。『会議室』と銘打たれた洞窟の一室で、岩を削って出来た椅子に腰掛けている。
彼の傍らに立つのは、三人。報告を行なっているイヴィルヘルム。その隣で顔を若干うつむかせながらたたずむマッド。そして、少女のようなあどけない顔立ちと頭身でありながらプロテインよりも巨大な体を持った女性。
「ムカつく……クソッ!」
「忌まわしいですねぇ……タクトとやら。七人いたはずのミニスターズが三人になってしまうなんて……」
「それもあるが……そうじゃねぇよ」
「はい?」
「プロテインのヤツ……ディレクなんぞに殺されやがって! お前の【大筋圏内】ならどうにかできただろ、ボケッ! 不意打ちでも喰らったのか……? 気づけよ、アホがッ……!」
涙は流していない。しかし、椅子と同じく荒削りの長机に拳を叩きつけて怒りを露わにする。血が飛び散ることも構わずに。
「わわっ、アイスくん。落ち着いて」
「王……」
マッドの心は罪悪感に苛まれる。こうなることは薄々わかっていたが。
「やはりワタクシが行きましょう」
アイスキャロルの傷を治しながらイヴィルヘルムが提案する。しかし、純粋に相手を思いやる申し出ではないことは、その顔のニヤつき具合に現れていた。
「タクトとディレクくんの首で良ければ、二分もあれば……」
「何度も言わせんな。アンタ一人にゃ行かせらんねぇ」
「そうですかぁ……しかし、そうなると」
イヴィルヘルムは真顔になってアイスキャロルに問いかける。
「ワタクシたちも考えなければなりませんね。このままタクトらを狙い続けるか、否か」
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