第148話 対タクト・レンドー戦況報告会②
「ワタクシたちも考えなければなりませんね。このままタクトらを狙い続けるか、否か」
いつに無いイヴィルヘルムの真剣な調子に、アイスキャロルも珍しく考え込むように頭の角度を少し下げた。
「あたちたちに──」
「──とぉむらい合戦にぃぃ〜、行かせるって
口を開いたのはアイスキャロルの側で立つ巨大な少女と長机に足を投げ出すようにして座っている男だった。
二人は先ほどまで『楽屋』の鎮圧にあたっていた者たち。保険としてアイスキャロルは他にも何人か臣下を連れていたが、それは杞憂だった。実際、百人以上の人間が詰め込まれていた『楽屋』をこの二人だけで誰も殺さず、かつ自身にも傷一つ無く治めてしまったのだから。
「あたちたちは命じていただければ、いちゅでも」
舌足らずな少女がボンヘイ国国土交通担当大臣(地下)であり、残った七服臣の一人でもある──ソイルイーター・アンダーロード。
「
バリトンボイスでふざけたように歌う男が環境保全担当大臣であり、ソイルと同じく七服臣の──メメント・エンヴァイロ。
「今まではぁぁ〜、一人ずつぅ、行ってたんだろぉ〜? 戦力のぉ、逐次投入はぁ下策ぅ〜。初手の判断をぉ、見誤ったんだなぁ〜」
「でちゅが、あたちたちが二人で向かえば……」
「やめておいたほうがいいですよぉ」
今にも飛び出していきそうな勢いの二人をイヴィルヘルムが制する。
「マッドくんの話によれば、ディレクくんがタクトらと接敵したのはグランセントラル近くの丘だという話じゃないですか。だとすると、彼らはすでに都市の中に入っている可能性が高い。もしそうなっていたなら、対峙する相手に彼らだけでなくガーディアンも含まれる。それでもタクトらの身柄を奪い、二人とも帰還できる自信があるというなら、行けばよろしい」
「……」
「……」
ソイルとメメントは押し黙った。タクトの暗殺ぐらいなら一人でも何とかやれる自信はある。ただ殺さずに誘拐しなければいけない上に、ガーディアンの目をかいくぐらなければいけないとなると──。
「むぅりだなぁぁ〜、おれ一抜けぇぇ〜」
下手に取り繕う様子も無くメメントが降参するように手をあげる。
「申ちわけありませんが、王。あたちも……」
「謝んじゃねぇ。無理なモンは無理だ」
「アイスくん。だとすると道は二つしか残りませんよ」
傍から聞いていたマッドにもわかった。七服臣の二人にも任せられないとなると……。
「ワタクシが行くか」
それとも。
「タクトらを臣下として取り込む作戦を凍結するか」
──決まりきっている。イヴィルヘルムを行かせる選択肢を王はずっと否定してきた。
「作戦凍結……」
その言葉がアイスキャロルの口から聞こえた瞬間、マッドは心の中でため息を吐いた。臣下という立場からすれば少しばかり悔しいが、これで拓人たちは……。
「っつーのが、賢いヤツのやり方なんだろうな。本当は」
アイスキャロルの一転した言葉にイヴィルヘルムと臣下たちが一斉に彼のほうを向く。他の三人は熱っぽい視線を浴びせていたが、マッドだけは一気に肝が冷えた。
「絶対にいったんここで諦め、切り替えていくのが正しいはずだ」
でもなぁ、けどよッ! しかしなぁッ!──アイスキャロルは何度も何度もノコギリのようにギザギザとした机の表面に拳を振り下ろす。
「こんなクソだせぇ状況のまま黙ってられるかってんだよおおおおぉぉぉぉぉ!!」
「アイスくん、では……!」
「グランセントラルに乗り込む! タクトをさらい、ライデン、エロース、そしてディレクの野郎も首根っこ引っ掴んで連れ戻す!」
「つまり、ワタクシも……!」
「──ああ、頼りにしてるぜ。イヴィルヘルム」
「ううっ! 出撃許可が出た上に、久々に名前で呼んでもらえた……! ワタクシ感激……!」
──んな、バカな。
マッドはただ一人だけ信じられないものを見るような目で王の姿を見る。
──グランセントラルを滅ぼす気か……⁉︎
「よぅし! 頑張っちゃいますよぅ! せっかく作った石をバキバキ壊されて、ワタクシもオツムにきてたんです! あれ一個作るのに三日……あ、しかし、あれだけワタクシを前線に出すのを渋っていたのになぜ……」
「俺サマ言ったよな。『一人じゃ』行かせらんねぇって。メメント、ソイル──そして、俺サマも出る。あとコモンもだ。アイツがいると持ち運びが格段に楽になる」
「お、王みじゅから
「めぇぇ〜ずらすぃぃコトもあぁるモンだなぁ〜」
「なら、もしコイツが暴走したとして……お前らとコモンだけで御せると思うか?」
おずおずとしたソイルと驚いた様子のメメントに、アイスキャロルは血だらけの親指を邪神に向けつつ答える。二人は千切れんばかりに首をブンブンと振った。
「決まりだ。ソイル、お前はコモンを呼んでこい。五人で作戦を練り、まとまり次第──全てを俺サマの手中に収めにいく」
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