第127話 預言者プレディ
「あのぉー、すいません」
拓人たちが新たな気持ちで一歩を踏み出そうとした瞬間、彼らは後ろから声をかけられた。振り返ると、申し訳なさそうな顔で馬にまたがっている一人の老人の姿が見えた。えらくゆったりとした民族衣装のような服装で、頭にはインドのターバンにも似た布を巻いている。
「えっと……そのどちら様でしょうか?」
拓人がおそるおそる返事をした。
「『ワタシはプレディ。ほうぼうを旅している預言者です。』ペンキンという街を探しているのですが……どうも道に迷ってしまったようで。あなたがたに尋ねようと機会をうかがっていたのです」
出鼻をくじかれた気分になってしまっていた拓人だったが、そういう事情ならむしろこっちが申し訳ない。感傷に浸って、彼のことに気づいてあげられなかった自分を恥じた。
「や、それは失礼を致しました。『おい、この中に道を知っている者はおらんか?』」
旅の一行を順繰りに見る拓人の視線に対し、エロースがしずしずと手を挙げる。
「き、ペンキンならアタシが最後に出た街ですけどぉ……」
「おお、それは丁度良かった。『道順を教えて差し上げなさい』」
「は、はいぃ。ここから南東に行って十分ほどで……プレディさんは馬に乗っていらっしゃるので5分もかからないでしょうけど……着くはずです。結構大きい麦畑があるので近くまで行けばすぐに見つかると思いますぅ」
「どうもありがとうございます」
プレディが軽く頭を下げるのと同時に、アンが拓人に耳打ちした。
「タクトどの……何か変ではないですか?」
「……変? あの人はどうも普通の旅人に見えるぞ。もちろん警戒はしとるが……」
「い、いえ、私が言いたいのはそういうことではなく……」
「ハッキリ言ってあげなよ」
アンの隣からレジーが助け舟を出した。
「口調がおかしいって。あのプレディって人じゃなく、タクトの」
「口調……? どこがじゃ? 『私はおかしくなどないッ! おかしいのは貴様らのほうだッ!』……なっ!」
拓人は思わず口を押さえた。喋らされている。突然、現れた激情もまた自分のものではない。
「──では、お礼に預言者らしく」
プレディが再び口を開く。先ほどまでの人の良さそうな表情は消え失せていて、薄ら寒い黒い瞳で拓人たちを見つめていた。
「『占って差し上げましょう。あなたがたの行く末を。』おおっとぉ、これはひどいなァ〜。実に惨憺たる有り様だぁ。他の方々はそうでもないが、まとめ役の……そうっ! 金髪のあなたが特にひどいィ! 仲間たちはあなたとともにある限り、ロクな目にあわないでしょう!」
プレディは額に手を当てながら、もう片方の手で拓人を指差した。死刑を宣告するかのように、突き放すがごとく突きつける。
「『あなたは才能に溢れているが、嫉妬にかられすぎている! おお! 決して望んではなりません! あの弟の上に立つことだけは!』」
──『なんなのだ、こいつは一体』。
拓人は妙な怒りが湧き上がってくるのを感じた。自分のものではないと知りつつも、その他人事のような
「──何をされているのかは知りませんが、できるだけ早くやめたほうが身のためですよ」
拓人の前にカムダールが動く。一瞬のうちに、プレディの馬の上に乗り、背後から彼の首に刀をあてがっていた。その目はすでに見開かれている。
「カムダール・スロウスロウス……もったいない人よ。せっかく可愛らしい顔立ちをしているのだ。キミに剣は似合わない。そうだな……年相応の少女らしく、無垢な町娘のようにパンでも抱えているほうがよろしかろう」
「……アナタ、一体何を……?」
「カムダールちゃんッ! 刀がッ!」
ライデンの叫びに応じてカムダールは自分の得物に視線を向ける。
「これは……!」
変わっていた。剣が、フランスパンほどの長さのパンに。
「こちらのほうがキミが持つ小道具にふさわしい。だが、キミへの対処としてはまだ不十分だろう。さて、どうするかな」
プレディの声はいつの間にか、しゃがれた老人のそれから張りのある男のものに変わっていた。
カムダールは困惑しながらも判断する。
──素手でやるしかない! すぐにでもこの人を気絶させて……!
プレディの首がぐるりと振り向く。彼の目はカムダールの瞳を捉えた。
「──ふむ。キミの配役が決定した」
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