第100話 崩壊の四『邪神復活』
「最後の四節目なんですが〜、これはいわゆるオチみたいなもので〜」
『勇者凱旋』を語り終わった後のカムダールは、努めて明るく話し出す。崩壊四節の講義も、いよいよ終盤に差し掛かっていた。
「『イヴィルヘルムが目覚めると世界が終わる』──そんな漠然とした伝説だけが残っています。それが第四の爆弾──」
──崩壊の四、『邪神復活』
「……」
「……」
「……えっ、それだけ、ですか?」
「ええ〜、それだけです〜」
拓人は思わず拍子抜けした。今までの三節とは、あまりに毛色が違いすぎる。
「ですから『オチ』とか『オマケ』って言われているんです〜。イヴィルヘルムって言うのは、その昔ジールに封印されたとか、今もどこかにいるとか、邪神なんて肩書きですがその正体は犬だとか、猫だとか、ドラゴンだとか、実はただの人間だとか──色んな話がありますけど、どれもちゃんとした根拠ナシなんですよね〜。まぁ、あとは『早く寝ないとイヴィルヘルムがくるぞ〜』なんて言って、お子さまを寝かしつける時に持ち出されるぐらいですかね〜」
「……」
──何か、変じゃないか?
拓人は、なんとも言いようのない気持ち悪さに駆られる。
とやかく言われている割には、あまりにもぼんやりしていて実体がなさすぎる。他の節には細部がはっきりしないところがあるものの、ある程度の具体性があった。『オチ』や『オマケ』として付されるにしても、ユーモアに欠けている。この世界に来て、まだ日が浅いから断言まではできなかったが、もっと面白い話なら他にもあるだろうと彼は思った。
──もっと、このことについては深く考えるべきではないじゃろうか。何か意味がある。わざわざ崩壊四節として語られている意味が……
「お〜、もうこんな時間ですか〜」
カムダールは思い出したように窓に目を向ける。そこからは、すでに夕陽が差し込み彼女の顔と拓人たちを照らし出している。
「今日は、ここまでにしましょ〜。あ、今晩のおかずはですね〜……」
「貴君」
授業を締めようとするカムダールの言葉をエレンが遮った。
「……? どうしました〜? エレンちゃん」
「語尾が、伸びきっていないぞ」
そう言われて、拓人も気づいた。彼女が完全にリラックスしている時には、もっとのんびりと、倍ぐらい間伸びするはずなのだ。ドノカ村に滞在して、一週間が経つ。拓人たちは、すでにカムダールの喋り方の特徴に気づいていた。
「どうしてだろうな。当方には、虚勢を張っているように見えるのだが」
カムダールは、えふん、えふんと咳払いする。その仕草は、なんだかわざとらしい。
「ま、まー〜、こういうこともありますってー〜。別に何も……」
「そういえば、罰ゲームはいいのか?」
「え?」
「当方は、先ほどからわざと魔力を放出しているのだが」
まだ拓人に魔力を観測する技術は無い。しかし、カムダールのハッとしたような顔を見てエレンの言葉はハッタリではないのだとわかった。
「も、もう、授業は終わったので〜……」
「『先ほど』から、だ。貴君が四節目を語り始めてすぐ、語尾の件に気づいた時から当方は魔力を漏らしていた。おそらく語っている間は、気が気では無かったのだろう。だから、他の三節の時とは違って反応することができなかった」
「あ、あは〜、ウチ、なんか引っ掛けられちゃったんですね〜」
気まずそうな表情をしたまま、カムダールは人差し指で頰をかく。
「おそらく『暴露したい秘密』があるのだろう?」
「うひ〜、そこまでわかっちゃってるんですね〜。さすが名探偵……」
「どういうことです?」
アンが首をかしげる。レジーもまた、解説を求めるようにエレンのほうを見た。
「つまりだな……」
「言いにくいけど、言いたいことがあるってことね」
なぜがライデンがウンウンと深く頷いている。
「わかるわぁ。知られたくないけど、本当は知ってほしい……。乙女ならば誰しもが抱くセンチメンタル……」
「まぁ、少し違うが……そういうことだ」
邪魔されたためかエレンの眉根がピクピクと動いた。この名探偵の推理ショーは、なぜか格好つかない。
「だいたい崩壊四節なんて話を持ち出したのも、その『秘密』を打ち明ける足がかりとしたかったからだ。『オチ』やら『オマケ』だなんて、とんでもない。この四節目こそが貴君の本命だ」
「……う」
「ここまで言っておいて今さらだが『秘密』を打ち明けるかどうかは自由だ。だが、当方の誠に勝手な意見を述べるならば──わざわざ
エレンは、まっすぐにカムダールを見据えた。打ち明けたほうが楽になる、と言いたいのだろう。
カムダールは視線をしばらくの間ちらちらとさ迷わせていたが、やがて弱々しく不安そうながらもエレンのほうを見返し、続けて拓人たちの顔に向けて順繰りに視線を向ける。
「ウチの昔話、聞いてくれますか……?」
か細い声をしっかりと受け止めて、拓人たちは力強く頷く。カムダールは一種の諦めと決心を抱いた。
「
彼女は、どこか自虐的な卑屈さを携えた笑みで涙をにじませながら、にへらと笑った。
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