第98話 崩壊の二『冷機再動』
「全然ソフトじゃないんじゃが!」
『原始回帰』の説明を聞いた後、拓人は思わず魔力を漏らしながら叫んだ。
「ま〜、ま〜〜、落ち着いてください〜〜」
彼のほっぺたをむにむにと手でこねるようにしながら、カムダールがなだめる。
「『原始回帰』の証明は限りなく不可能に近いというのが通説です〜〜。発生確率も他の三説と比べてもダントツに低いと言われてますからね〜〜。まあ、起こったら一番どうしようもない、と言えばそうなんですけど〜〜」
「不穏!」
今さらだけど、とレジーが言う。
「ボクたちにこんなこと教えて何か意味あるの? 今までの魔力うんぬんの授業とは違うみたいだけど」
「特に深い意味は〜〜、緩急つけるためにこういうのもいいかな〜〜と。ま、教養として頭の片隅にでも置いていただければ〜〜」
それでは二つ目にいきましょう、カムダールが拓人の頬から手を離し、再び授業を開始した。
「冷機イノセント。その昔、サイキ帝国がボンヘイ国を打倒するために作り出した秘密兵器……ライデンちゃんは、もちろん知っていますよね?」
「……ええ」
ライデンはアンガーの顔で静かに頷く。拓人たちは、驚いた。なぜ、崩壊四節などという物騒な話題でボンヘイ国、そしてライデンが関わってくるのか。
「でも、アンガー様もアレだけは使おうとしなかったわ。むしろ、どうやったら粉々に壊せるのか研究してたぐらい」
「なるほど。破壊まで計画していたとは……アンガー・サンダーボルトは、やはり名君ですね。平和な世に……生まれてくれば良かったのに」
「それはどうかしら? あの人はあの人で戦いを楽しんでたフシがあったから」
故人を
「しんみりしてるとこ悪いけど、ボクたちにもわかるように説明してくれる?」
苛立っているというよりかは、純粋に話を促すようにレジーが発言した。
「イノセントとは、ボンヘイ国の王家……ドライプライド一族が代々『心』に干渉する魔術使っていることに着目して作り出された機械です。『機械には心が無いから、その手の魔術は効かない』という論理ですね。その昔、サイキ帝国が保持していたことは記録としてありますが、具体的にいつ、誰が作ったのかはわかりません」
「そのサイキ帝国ってのはアンガー様の一族が治めてた国よ。もちろん、あんな馬鹿げた兵器が作られたのは、あの人が生まれるよりずっと前のことだけど」
「タクトにもわかりやすく言うなら『巨大ロボ』のようなものだ。この家の本で読んだ知識から推測するなら、その表現が一番適当だろう」
ライデンだけでなくエレンまでもが補足してくれる。彼女は先日の一件から、ちゃんと許可をもらってカムダールの本を拝借しているようだった。
「全長およそ五メートル。小銃やら光線といった様々なお飾りが付いているそうだが、一番厄介なのはその外殻の硬さだろう。『ボンヘイ国とサイキ帝国、さらに周辺諸国を加えた魔術師連合五百人が総攻撃を行なったが傷一つ付かなかった』……という文を目にした時には、流石の当方も
「ちょ、ちょっと待ってください。えーと、イノセントを作ったのはサイキ帝国で、ボンヘイ国は攻撃されてる側で、でも協力して総攻撃を……」
漫画なら煙が出ていそうな表情でアンが考えながら唸る。戦闘中には頭脳明晰に見える彼女も、それ以外のことで頭を動かすのは苦手なのかもしれない。
「おそらく、イノセントとやらはサイキ帝国にも手に余るシロモノだったのじゃろう。暴走か何かの予定外のことが起こり、敵も味方も無くなってしまったのかもしれない。じゃが、それでもその防御力の高さゆえに破壊することはできず、甚大な被害を出したために崩壊四節の一角として数えられるほどの脅威となった……と言うことですかの?」
「その通り……」
「見事だな、我が弟子を名乗るにふさわしい推理だ!」
カムダールの言葉を遮りながら、エレンが褒め言葉とともにまたしても魔力を漏らしたので、彼女は軽くデコピンされ「にゃっ……」という声を上げた。
「そのトンデモ機械って、それからどうなったわけ? まさか今も元気に動いているとか言わないよね?」
レジーの顔色は心なしか悪いように見える。さすがにそのようなモノとは戦いたくないし、巡り会いたくもないのだろう。
「もちろん、今は停止されています。その分犠牲も大きいものでしたが」
「だが、崩壊四節として数えられている以上は再起動する可能性もある……ということだろう?」
エレンが探偵らしく鋭い指摘をする。しかし、先ほどデコピンされた額をさすりながらなのでイマイチ決まらない。
「エレンちゃんの言う通り、イノセントは現在『封印』されています。再起動方法も今のところ不明です。しかし、目立った傷は見られないため、また動き出すようなことがあれば……今度こそ世界は滅ぶでしょう。それが第二の爆弾──」
──崩壊の二、『冷機再動』
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