第64話 真面目な話、ボクたちって
「ふー、美味しかった」
二つ目の実を食べ終えると、レジーは満足げに一息ついた。
拓人たちは結局、謎の実を二種類ずつ食べた。
もう一つのリンゴに似た実からは、マグロの赤身の味がし、拓人とレジーは相変わらず美味そうに平らげた。
アンにとっては可もなく不可もなく。エレンにはやはり合わなかったようで、少しのあいだ気分悪そうにし、口直しとばかりに例のパイプを吸っていた。
「意外と満腹感があるのう」
体が小さくなったせいだろうか。食べた量は少なかったが、思いのほかすぐに腹は満ちた。
「……ビンジにも食べさせてあげたかったです」
腹をさすりながらアンは独りごちる。
「ビンジ?」
「精霊の名さ。ビンジ・アパタイト。胸部以外は当方たちと大して変わらない体型だったが、誰よりもよく食べた。……まあ、現在行方がわからないという点においても、かつての当方と共通していると言えるだろう」
──行方が分からない──エレンの言葉に、アンの表情は陰りを見せる。そのビンジという精霊の身を案じているのだということは、すぐに見て取れた。
「そもそもさ、た……タクトに呼ばれるまでエレンはどこにいたわけ?」
レジーが言葉に詰まりながら問うた。
「貴君らと同じだよ。あの世界で気を失い、再び意識を得たのはタクトに呼び出されてからだ。つまり……わからない」
あの世界、というのはアンたちが暮らしていたという『七人だけの世界』を指すのだろう、と拓人は理解した。
「わかりません……か」
「エレンって、最近そればっかじゃない? ボクたちのスキル名が変わってたことも、わからないって」
拓人が神から聞いていたスキルの正式名称は、確か【
「仕方がないだろう。推理の材料が少なすぎる」
「でも、以前はどんな問題もすぐに解決してましたよね。失くし物をすぐに見つけ出したり、つまみ食いの犯人を突き止めたり。『貴君たちは、そんなこともわからないのか?』なんて言って」
「そういうこととは次元が違うだろう。つまみ食いは大抵ビンジが犯人だったしな。今回の謎は今までのそれとは比べ物にならないぐらい大きな……」
「ねえ、エレン」
レジーが真顔でエレンの言葉を
「何だね?」
「間違ってたらゴメン。もしかしたら、なんだけどさ……」
拓人の名前を呼ぶときとは、別種の『言いにくそうな顔』をしながらレジーは口を開く。
「……エレン、頭悪くなってない?」
それを聞いた三人は一瞬口をポカンと開けたが、まず最初にエレンが顔を真っ赤にして怒り出した。
「な、何をう! 失敬な!」
「いきなり何を言い出すんですか!」
「普通に悪口じゃぞ、それ!」
「いや真面目な話、ボクたちって弱体化してるよね」
抗議の声が一旦止んだ。
「エレンの【当方見聞録】が一番わかりやすいよね。アイスキャロルやボクたちの記録の一部が見れない状態になってる。前にいた世界じゃ、そんなこと絶対になかった」
そういえば、エレン本人もそういう
「アンもそう。ギフトとの模擬戦で、かなり苦戦してた。前のアンならすぐに素手で土俵の外に投げ飛ばしてたでしょ?」
アンは少し迷いながらも、ゆっくりうなずいた。
「そう……ですね。ギフトどの……いえ、ギフトの魔術は底知れぬものがありますから、簡単に勝てるとは言いづらいところではありますが……あの時手合わせした程度の力量なら大した脅威にはならないと判断していたでしょう……以前の私であれば」
「だよね。そして最後にボク。シャボンの射程距離は三メートルなんてみみっちいもんじゃなくてキロ単位だったし、回復ももっと回数こなせた」
なんだか拓人には想像もつかない世界の話になってきた。それでも、かつての彼女たちが今とは比べ物にならないくらいの実力を持っていたことは、なんとか理解する。
「だから、ボクたちが弱体化してるのは確か。だけど、それって魔術に関することだけなのかな?」
「ま、まさか……」
声を出したのはエレンだった。だが、レジーの言いたいことは、その時にはすでに拓人にもアンにもわかっていた。
「身体能力や知力も下がっているということですか!」
思わず叫んだアンには心あたりがあった。盗賊を倒し、奪った斧を投げて木を切り倒した時のこと……倒せた木の本数は自分が想定していたよりもずっと少なかった。得物の切れ味が悪いせいだと考えていたが、レジーの説を採用するならアン自身の腕力自体に問題があったということになる。
「ボクは元々、肉体派でも頭脳派でもないから身体や頭が弱くなってる自覚あんまないんだよね。だから確証は無いんだけど……」
「当方の【当方見聞録】がしっかり機能すればの話だが……白黒ハッキリさせる方法なら、ある。」
何かを決心したようにエレンはレジーの瞳を見返した。
「ステータスを見るんだ」
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