第5章 さよなら、ボンヘイ国

第53話 再会と顔合わせ

「……どうしましょう、ビット」


「少し様子を見よう。罠かも知れない」


 ボンヘイ国・王宮が構える巨大な門から少し離れた位置で、ルナとビットは門に表示された『光る文字』を見つめていた。






『タクト・レンドー一行およびギフト・サンフレアはこの中にいる。どちらも戦闘不能状態』






「事実なら救出に行くべきですが……」


「慎重にならざるを得ないよねぇ。僕たち一回ヘマしちゃってるし」


 ビットの言うヘマとは、一度アイスキャロルに洗脳されてしまったことを指す。その窮地を上司でありながらも、いつもいじられ役のギフトに助けられてしまったのだから、なんとも格好つかない。


 その上、二度も失敗してしまえばギフトにも他の仲間にも合わせる顔がない。


「──うん。そういう反応が正解だ。だが、貴君らの注意をひきつけることはできた。ゆえに当方の魔術は充分に役割を果たしたと言えるだろう」


「「!」」


 王宮の扉が内側から開けられ、奇妙な帽子とコートを身につけた黒髪の幼女が姿を現した。尋常ではない魔力を帯びている。


 この世界において惜しみない魔力の放出は、殺意とそう変わらない。ルナとビットは警戒を強め、身構えた。だが、それもつかの間──。


「る、ルナさーん! ビットさーん!」


 と、黒髪の幼女の後ろから拓人の金髪と顔がひょっこり覗くのを見て、いくぶんか緊張は緩和された。


 相変わらず魔力がダダ漏れになっている以外は、拓人も黒髪の幼女からも敵意のようなものは感じられない。先ほど自分たちに植えつけられていた魔力の『淀み』らしきものもないとわかると、2人はやっと一息ついた。






 それから拓人とエレンは二人に事情を説明し、城内に招き入れる。


 二人は城に入るや否や、敵の不意打ちなどを警戒して、またしても慎重になっていたが、そのような心配は無用だった。城の内部にいたものたちは、みな気絶しているか身動きできない状態にあったからだ。


「こ、これは……」


 死屍累々ししるいるい、といった表現がふさわしい謁見の間の様子見たときにはビットも驚き、目を見開いていた。


「さて……当方たちの体格だと意識を失った貴君らのボスを運ぶのは、ずいぶん難儀なことでね。アンなら片手どころか指一本でやってみせるだろうが、あいにく彼女も気を失ってしまっている」


 呆然としながらもルナとビットは、流暢りゅうちょうに喋り出すエレンに視線を移す。


 敵かもしれない、という誤解はとっくに解けていた。だが、それでも──たとえ精霊であっても──自分たちよりずっと年下に見える幼女が一番落ち着いている光景はなんとも奇異に映る。


「アンとレジーも……そうだな、できればここに倒れている他の者たちを運ぶのも手伝ってくれないだろうか? これほど多くの証人を無視する手はないのでね」


 エレンの言葉は、アイスキャロルの『逃走』に巻き込まれず……否、連れていってもらえずに倒れている人物たちのことを指しているのだろう。その中には、あのレオ・ドライプライドもいた。


「あなたは……?」


「?」


 ルナに声をかけられて、今まで半分独り言のように呟いていたエレンは、やっと彼女とビットのほうを見た。


「ああ、自己紹介がまだだったね」


 向こうの意図を理解して、エレンは口元で弧を描き、胸を張った。


「当方の名はエレガンス・ホーティネス。何を隠そう、名探偵だ」

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