幼女7人と異世界で無双するはずだったワシ(元79歳オタク)、神の手違いで弱体化されてしまう。じゃが、色んな意味でもう遅い〜ワシも幼女になっとるし何コレ〜

第52話 ひとまずの終わり

「わかるかぁ？ ギフト・サンフレア。なぜ俺サマが負けると理解しているのに臣下どもをお前と戦わせているのか、が！」

　洗脳状態を持続させる装置の『黒い石』──それを破壊するといった形で、ギフトは襲いかかってくる臣下たちを冷静に倒し続ける。

　拓人たちとレオから、ギフトとアイスたちへと引き継がれる形になったこの戦いも、ひとまずの終わりを迎えようとしていた。

「つーか、アンタも一人称『オレサマ』かよ！ キャラ被り起こしてんじゃねーかチクショウ！」

「いやギフトさん、今はどうでもええじゃろそんなこと！」

　微妙に的外れなことを言っているギフトに、拓人はすかさず口を挟んだ。

「どうでもええこたぁねぇよ！ オレ様のアイデンティティに関わる極めて重要な問題だ！」

　そんなことより、とエレンが改めて一刀両断してから言う。

「アイスキャロルはここで倒しておくべきだ、ギフト君。ヤツが消耗している今決着をつけておかないと、あとあと面倒なことになる」

「わかってるッつーの！ だが、襲ってくる臣下を倒しておかねぇことには始まらねぇぜ！」

「……あん？ 聞こえてなかったのか、てめぇら。俺サマはさっき『遅え』って言ったんだぜぇ！ 俺サマを倒すことは、もはや不可能だ！ 俺サマはよぉ、時間を稼いでいたんだぜ。ヤツのダンスが終わるまでの時間を！」

　アイスが後ろ手に視線を向け、拓人もエレンもギフトも同じ方向を見た。

　そこには──サングラスをかけ「イエァ！」という奇声を上げながら腰をリズミカルに振る不審人物がいた。

　拓人たちは一瞬、何とも言えない気持ちに襲われ顔をしかめる。

「呆れ返っちまうよなぁ。だが、今この状況において一番重要なのは、他でもないヤツのダンスなんだぜ！」

　ギフトがいち早く我に返り、ことの重大さに気づいた時には、すでに不審人物は拳を高く突き上げる決めポーズを取っていた。

「しまった！ アイツは……あの野郎は国際指名手配犯！ 【踊る踊る革命児（フリースタイル・コマンダー）】のコサック・フラメンコスじゃねぇか！」

　反射的にギフトは彼……コサックに向けて発砲する。狙いはもちろん黒い石──彼はイヤリングの装飾として身につけているようだ──だった。

「無駄だイエァ……オイラの舞踏（ダンス）はもう終わっちまったのだから……」

　だがしかし、ギフトの放った炎が石を射抜くことは無かった。

　石も、コサックも、アイスキャロルも、一部の臣下たちも半透明になってこの場から消えようとしている。

「これだよこれッ！ 俺サマが待っていたのはこれなんだぜェェェーッ！」

　その勝ち誇ったようなアイスの声を聞き、ギフトは思わず苦虫を噛み潰したような顔になった。

「まさか、あのコサックまで洗脳されてたのかよ……」

「ギフトさん、こ、この状況は……」

　相変わらず目の前の出来事についていけない拓人に対し、ギフトは悔しさを顔に貼り付けたまま説明する。

「コサック……ヤツの魔術【踊る踊る革命児（フリースタイルコマンダー）】はダンスを踊って不可能を可能にする能力だ。まず『願い』をあらかじめ決めておいて、その達成難易度に応じたダンスを踊る。ダンスが成功に終われば、かけた『願い』は必ず叶う。それがいかに無茶なことでも必ず、な。ヤツは、ずっと踊ってやがったんだ。オレ様たちが小競り合いをしている間、ずっと」

「ええっと……つまり……」

「この場合の『願い』はアイスキャロルとその臣下の『逃走』で、彼はそのためのダンスをすでに終えている、ということか……」

「その通りだよォォォーッ！」

　アイスがエレンの言葉を肯定した。彼の姿はもはや輪郭さえも曖昧になっていたが、そのしたり顔だけは未だにくっきりと浮かんでいる。

「いいか！ 俺サマがいったん身を隠すのはてめぇらを確実に手に入れるためだ！ 安心できる時間も、場所も、もはや無いと思え！ これからは俺サマの臣下どもが刺客となって、てめぇらを襲う！ 震えて待ってるがいいぜ！ ひゃーッはっはっはっ！」

　その言葉を残して、アイスキャロル・ドライプライドと臣下たちは姿を消した。

「……まずいことになったな」

　数秒の沈黙の後、エレンが呟く。

「ヤツには何十人もの臣下、という戦力がある。それらが我々を狙うとなればヤツの言う通り、安心はできないぞ……さて、どうしたものかな、タクト、ギフト君」

　そう呼びかけながら、エレンは先ほどまで二人がいた場所を見たが、その姿は見えなかった。

「おや……？」

「アン！ レジー！」

　拓人は叫ぶように呼びかけながら、倒れている2人に向かって心配そうに駆け寄っていた。

「すまん、オレ様ココ」

　エレンが足元を見下ろすとギフトは、ぶっ倒れていた。

「や、やべー、タクトさんたち探すときに『六つ』もつけたからな……きっちぃぃぃ〜」

　ギフトの魔術は武具をつければつけるほど強くなる。拓人たちの捜索にそれほど力を注いでくれたということだろう。ただし、その分消耗も激しくなるようだ。

「つか、オレ様昨日の昼はタクトさんたちと戦ったし、夜から朝にかけて女将さんに捕まってたし、さっきは臣下のヤツらめっちゃ倒したし……しょ、消耗がマジやべぇ……オレ様とうとう死……ガクリ」

　その言葉を最後にギフトは白目をむいた。特に慌てる様子もなくエレンは脈を確認する。とりあえず生きていた。

　すっかりダウンしている二人の精霊（どうりょう）と、オロオロしながらその二人を交互に見て戸惑う拓人（あるじ）、そして死にかけの中年（ギフト）を改めて順繰りに観察しつつ、先ほど召喚されたばかりの自称名探偵（エレン）は思う。

　──もうダメかもしれない。色々と。