第2話 老人と全知全能ではない神 後編
「あのー、この【
拓人は目の前に表示される情報の海と向き合っていた。彼の前には光の
言語理解、といった
「ああ、それは新メニューだ。僕の自信作さ」
「どういった能力なのでしょうか?」
「七人の精霊がキミとともに旅をしてくれるんだ。彼女たちはそれぞれ能力と人格があるが、それは会ってからのお楽しみ。だけど、その強さは神の名にかけて保障しよう。女神という肩書きだけれど、どの子も見た目は幼い女の子だからロリコンの拓人くんにも安心だ」
「ワシはロリコンではありません……ちなみに、その精霊たちはワシが転生者だという事情については……」
「もちろん把握しているよ。ちょっとお高いめだけど、どうかな?」
拓人はしばらく目をつむって、想像した。
異世界というからには、文化や常識も違うのだろう。そこに転生者という自分の境遇を理解してくれる強力な精霊がいてくれるのは、二重の意味で心強い。しかも七人! 拓人の心は決まった。
「では、こちらを購入させていただいて……ふむ、これでお願いします」
「じゃあ、購入内容を確認させてもらうね。なるほど、なるほど……【七人の女神】を買った上に、飛行、必中、絶対防御、その他もろもろ……君も欲ばりだねえ」
「いやはや、お恥ずかしい限りで……」
「そんなことはないさ。つらい人生を真っ当に歩んだ者なんだ。これぐらいの報酬は受け取ってもいい。もちろん、偶然トラックに跳ねられたり、通り魔に襲われたりした不運な人々もね」
冗談か本気かわからないようなことを言って神は立ち上がった。そして、何かを合図するように宙をなぞる。
拓人は急に風が吹くのを感じた。後ろを向くと、星空のような空間がぽっかり口を開けて、渦巻いている。
「そこをくぐれば新しい人生のはじまり。短い間だったけど、楽しかったよ……せっかくの機会だし、もうちょっとゆっくり僕の体を
「い、いえ、
確かに神の容姿は拓人の好みだったが、いくらなんでも幼すぎる。応じれば、自分の中の大切なものを色々失う気がした。
「念のためにもう一度申し上げておきますが、ワシはロリコンではありませんので」
「そう……そうかな? まあいいけど」
そこまで言うと神は、何か思い出したような顔をして再び口を開いた。
「……ああ、そうだ。キミには未遂ながら前科があるから一応言っておくけど、異世界転生目的も含めて自殺はダメだからね。あんな無茶は二度としないように」
不意に黒歴史の一ページを覗き見られたような気がして、拓人はビクリと体を震わせた。やはり、神は何でもお見通しなのだ。
「あっ、あれは
「まったく、頼むよー……」
そう言いながら神は頰をふくらます。しかしすぐに目を細めて、
「それじゃあ
と手を振った。
こうして誰かに見送られるのは、いつぶりだろう。拓人は神の目を見ながら、頷いた。
「はい。いってきます」
一息に夜空の渦に飛び込む。恐怖は無かった。ただ
再び1人になり、神は背伸びをして息を
「よしっ、一仕事終わりっ! ……あれ? 拓人くんのデータにエラーが出てる。なんでだ?
えーと、なになに、拓人くんが購入したスキルを全て使えるとすると逆算した魔力量は……え、これだと周囲に影響が出て最悪の場合、世界が滅ぶじゃないか!」
神は大急ぎで光の膜を出し、拓人のスキルを見直した。
「弱ったなあ、だから僕って全知全能じゃないんだよね。拓人くんが向こうに着く前にどうにかしないと!
えとえと、とりあえず【七人の女神】と言語理解があれば問題ないと思うから、飛行、必中、絶対防御は削除して……まだ足りない? 毒、麻痺耐性、その他もろもろも削除だ……よッし! 世界の危機は去った!
え、【七人の女神】だけでも拓人くんの命が危ない? というか爆発する? じゃあ、拓人くんの種族を魔力の許容量が大きい『
……んーと、まだダメぇ? じゃあ、精霊たちを程よく弱体化、最初に出せるメンバーも制限。あとはテキトーにそれぞれの七つの大罪属性が強まる呪いを付与しとこう。名案だね。彼女たちにとっていい試練になるし、あの世界の問題を理解するには、むしろそのほうが良い。スキル名とか一部の精霊の性格が大なり小なり変質したけど、問題ないよね。
あれ? あれれ? 今度は弱くし過ぎた? じゃあ、弱体化を解除っ……する前に拓人くんが向こうの世界に着いちゃった……」
向こうの世界に着いてしまえば、下手な介入はできない。神は大きくため息を吐いた。
「──
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