世界最強として生まれ変わったけど欠陥だらけの最強でした

氷水とうふ

第1話 最強への転生

「君は世界最強の人間として誕生してもらう事になる」

「は?」


 

 俺はジン=オクタルト、とある王国の騎士だった。

 10年間王国に仕えても昇級するわけでもなく官職に就くわけでもなくただの一般騎士を務めるのが関の山だった才能の欠片もない騎士の一人。

 そんな自分だったが我が国が隣国への強襲を仕掛けその際の強襲先発隊に選ばれその際の戦いで敢えなく死亡した。

 息絶える瞬間は「なんて自分は運がないのだろうか」と思ったが大した実力もないのにある程度の実践を経験しつつ10年も騎士として生きられただけでも運が良かったのかもしれない。

 だが俺は今俺が思っているそれ以上に運が良いのかもしれないとこの後すぐ思った。



「やあ」

 戦場で意識が薄れて次に意識がはっきりしたら、辺りはまるで空の上みたいで目の前に爺さんが浮いていた。

「あんたは誰だ?爺さん」

「爺さんじゃない。神だよ」

「神?……なるほど俺は死んで今は天の上と?」

「そうだ」

 如何にも神様って感じのローブを着ていて白くてふさふさな髭を生やした爺さんだ。

 で、この事態は別に不思議な事態ではない。元よりこういう概念や事象は存在すると信じられていたしなんなら想像通りなくらいだ。だが……

「そしてあっちで死んでこの世界に来てもらって唐突だが君には転生してもらう」

 ……は?

「でもって君は世界最強の人間として下界で誕生してもらう事になる」

「は?」

 そう、これは完全に不思議な事態だった。俺という存在は一つとして特別じゃないし俺は死ぬ前に徳を積んだ訳でもない。なんなら来世は鳥になりたいとか思っていて人として転生できるとすら思ってなかった。

「何か質問ある?」

 何かとかじゃなくて現状の全てに対して質問が湧き出てくる。

「えっと、何故俺は最強の人間として転生しなければならないので?」

「簡単な話だ。輪廻転生において最も大事な事はその者の魂に成長を与える事だからだ」

「成長…」

「そうだ。成長というのは人それぞれ違う形で齎されるが大概は前世と違う何かしらの変化をつける事で魂に経験を蓄積させ成長を図るのだ」

 なるほど。

「君は覚えていないだろうが君の魂には過去の全ての前世が経験として蓄積されている。犬であった頃、虫であった頃、農民であった頃、魚であった頃等々その回数は100にも達しようかといった所。だが!過去のどの経験を遡ってもまるで普通!平凡!」

「は、はい?」

「先も言ったように大概は前世やそれ以前の前世から変化をつけて転生させるのだが君はその変化が非常にか細い!か細すぎる!犬だった頃は野良犬として生きそのまま衰弱死、虫だった頃は食虫植物に食べられ普通に食物連鎖に加わり、農民だった頃は出掛け先ですっ転び頭を打ちそのまま亡くなり魚の頃は熊に食べられて終了!」

 なんでこんなに熱くなっているのだろうこの神様。

「本来なら何かを成し遂げたり何かの業を背負った上でこの天界に来てその魂に見合った転生をさせるのだが君は過去96回そういったことも特になくここに来てなんとも言えない存在として転生していった。そう記録されている」

 話を聞いていてなんて自分らしいと思い清々しさすら感じた。

「そして今回97回目の転生。他の魂であればむしろ経験を積み過ぎて魂が昇華していてもおかしくないのだが君にはその兆しすらない。だからここで君の魂に大きな変化を与えてあげよう!という事なのだよ」

「り、理解した」

 俺はとんでもなく運が良いのかもしれない。

「んじゃ問題なければ今すぐにでも転生できるがどうする?」

「ああ、問題ない。そんな人生が送れるなら1秒でも早く転生したい」

「承知した。では良き人生を」

 神様が俺に手をかざすと俺はそのまま意識が遠のいていった。そしてそれと同時に自身がバラバラになっていく感覚と何か大きなものが自分の中に流れ込んでくる感覚を強烈に感じた。



 目が覚めるとそこは誰かの家の中だった。

 暖炉が灯っている部屋は暖かい空気で満ちていていつまでも寝れそうだった。

 夢心地な中そろそろ起きようかと思い起きあがろうとしたら体を起こせない事に気がついた。

 そもそも体が自由に動かない。辛うじて動く手を伸ばしてどうにかしようとしたら見慣れないものが視界に入った。

(この手は……)

 手を伸ばし視界に入った自分の手がパンの如くまん丸だった。そして肌がぷるぷるつやつやだ。

(あ、そういえば俺、転生したんだっけな)

「おっ起きたな!エレナー!レイバルトが起きたぞー」

 おそらく俺の親父だな。真面目そうだがどこか頼りない顔をしている。

(あーなんか起きたばっかなのにもう眠くなってきたな……)

「あ、また眠っちまった。よく寝る子は良い子だ、可愛い子だ」



 転生してから1年の月日が経った。

 1年も経てば普通の子どもでも声を出す様になるだろうしよちよち歩きでもし始める頃だろう。

 でも自分は違った。転生して前世の記憶があるからなのか言葉は生まれた時からほぼ全て理解できて思考もしっかりでき、1歳を迎えた今となっては普通に歩いて走り回っていた。

「うちの子は成長が早いなー!」

「でもちょっと元気すぎないかしら?成長が早いのは嬉しいけれど体がまだ追い付いていないかも――」

 どかっ!

「あっ」

 (いってえええ)

 走り回っていたら足を滑らせておでこから床にごっつんこさせてしまった。

「だ、大丈夫かしら」

「んー?多少赤くなってるけど聞こえた音の割にはコブができたり腫れたりとかは無いな。こりゃ成長も早くて体も強いと来たかな?」

「もーそんな事言ってないでちゃんとそばに居て見守ってて!氷とタオルを持ってきて冷やさないと」

「悪い悪いちゃんと見てるよ、つい嬉しくてな」

 ……確かに結構な勢いで頭を打ったが少し痺れるくらいで痛みはそこまで感じない。どうやら丈夫な体で生まれられたらしい。



 それから更に1年と半年も経つと発声できる喉になり、次第に言葉を喋れる様になっていった。

「お父さん!肩車してよ!」

「おう!肩車なんて体重の軽い今だけだからな!好きなだけやってやろう!」

 思い返してみるとなんて久しぶりなあったかい時間だろうか。家族と一緒に、しかも俺は子どもで。人生とは不思議なものだ。


 それから数日後の夜。幼児用ベットで寝ているが実は起きている俺の耳に両親の話し声が聞こえてきた。

「ねえあなた。2歳半の子どもってあれが普通なのかしら」

「ん?どういう事だい」

「なんだか成長が早すぎるというか、赤ん坊とも言える年齢であの雰囲気はどうにも大人びているというか……なんだか少し怖いわ」

「んー確かに成長が早いなとは思うけれどそれに越したことは無いだろう?それに才能を感じるんだ、僕は」

「才能?」

「ああ、成長が早いって事は学ぶスピードもタイミングも人より早いって事だろう?言葉も2歳にしてあれほど理解できてるんだ。凄い子だよ」

「そうね……」

「僕の遺伝子を濃く受け継がずに君の遺伝子が濃く受け継がれて良かったよ。はっは!」

「もうそんな悲しい事言わないで。頭の良さは私譲りかもしれないけどきっとあの子にはあなたの底抜けた優しさと狩りの才能が受け継がれてるはずよ」

「ふふ。僕には優しさと狩りの上手さだけが取り柄だからね、そこは遺伝してもらわなきゃ困る」

「私はそこに惚れたのだからきっとそうよ」

「エレナ……」

「レパルド……」


 ……親同士の愛の育みってこんなに聞くに堪え難かっただろうか。いや、まあ仲が良い事は微笑ましい事だが息子としてはなんとも堪え難い。

 そして俺の才能か。そういえば今日まですっかり忘れていたが俺は最強の人間として転生したんだった。

 今のところ最強の可能性としては体が丈夫なくらいだが本当に自分は最強の人間なのだろうか。



 生まれてから3年が経ち3歳と数ヶ月という歳になった頃。

 言葉が話せる様になってからはとにかく親に勉強の為の本をせびって積極的に文字を読む様にした。正直言語は前世と同じ母国語な為勉強するまでもなく大体覚えているが転生したと知らない両親はそんなこと知る由もないので勉強してる振りだけでもしておかないといけない。

 ある日、俺が生まれる前に両親が最初から用意していた育児書の内の一冊を盗み読みしていると魔法についての記述を発見した。相当後ろの方(7歳以降のページ)に記述してあった為今の自分にはまだ無縁かもしれないがやはりこの体だとどうしても気になった。

(前世の俺は魔法適性が欠けらもなく騎士になるしか道はなかったが今の俺ならもしかすると……)

 だが両親が魔法を使ってるところを生まれて3年間見た事がない為遺伝的にはまずあり得ないだろう。

(しかし俺は最強の人間として生まれた……突然変異と考えれば理論的には有り得なくはない……)

 母は一階で編み物をしていて父は狩りに出かけている事を再確認し誰もいない2階の物置部屋で実験を始めた。

 まず魔法適性については魔力を自身でコントロールできる事が条件となる。魔力は誰でも持っている生命エネルギーだが適性のない人間は魔力を垂れ流しているだけで操る事ができない。

 コントロールの第一歩はまず魔力をそのまま放出する事。これができれば後は魔力の出力調整、魔法への変換、属性変化等々を時間をかけて習得できる。

 (前世の俺は自身の魔力を知覚する事すら出来なかったが果たして……)

 俺は目を閉じて開いている窓に向かって腕を伸ばした。

「全身に流れる流動体のエネルギーを手のひらに……」

 そう意識するとすぐに全身から手のひらへと温かい何かが流れていき手のひらに熱が帯びられていく。

 (これが……魔力)

 初めての感覚だったが違和感はあまりなかった。まるでこの感覚が馴染み深い感覚かの様に。

「で、この手のひらから魔力を噴射するイメージ……」

 銃の引き金を引いて弾が飛んでいくのを思い出しながら腕から手のひらに力を入れてみた──



 ……気がつくと俺はベッドの上だった。

 どうやら魔力を噴出した瞬間噴出の勢いに踏ん張りが効かず後ろに吹き飛ばされた様だ。頭をすごい勢いでぶつけた様でとても痛い。転生してから初めて感じる強い痛みだ。

「目が覚めた?よかったわ……大きな音が聞こえて物置部屋に行ったらレイオが気を失っているんだもの。心配したわ」

 そして母に看病されていたらしい。

「ごめんよ、母さん」

「何があったの?覚えてる?」

 どこまで話すべきか。

「母さん、実は、俺魔法の適性があるみたいなんだ」

「え!?本当に?」

「その練習をしてて気を失ってしまったんだ。手のひらから魔力の球を飛ばして、ぴかって光ったと思ったら後ろに吹き飛んじゃって」

「そう……その歳でそんな……」

 言うとまずい事は避けたつもりだけどこれだけでも少し言いすぎたか……?この歳でこれだけやってれば異常に思われても確かにおかしくはない。

「……嬉しいわ」

「え、な、なんで泣いてるのさ」

「だって、私がかつて目指したものを私の子がこの歳でこんなに簡単に……とっても嬉しくて……」

「ただいま──どうした!?」

 面倒なタイミングで帰ってきてしまった真面目親父。


「そうか〜レイオに魔法の適性がな〜っておいいいいいい!そんな事あるのか!?まだ3歳半だぞ!?」

「でも少し勉強したら普通にできたから……」

「ちょっと待て、仮にそうだとしても6、いや5歳まで禁止だ。魔力を扱うのは」

「な、なんで?父さん」

 と言いつつ親父の言う事は十全に分かっていた。何故なら本来魔法は5歳の頃から学校に通い始めて1年後の6歳ごろに学校で適性があるか確認され、どれだけ才能があっても魔法学を修められるのは13歳の頃でありしかも先生、或いは師匠の指導と承諾付きである事が条件。

 魔法というものはそれだけ扱いが難しく危険であり、幼児が扱うなんて常識的に考えられないからだ。

「今までお前は優れた部分をその歳で沢山見せてくれた。成長は他の子より倍近く早いし頭も物覚えも凄く良くて体はすこぶる丈夫。おまけに魔法の適性もあるかもしれない。お前が凄い子なのは分かっている。だが魔法だけは早すぎる。本来なら師匠か先生を見つけて指導を受けて学んで最速でも13歳から履修する学問だ」

 抜けてる所もある癖にちゃんとしっかりしているな、この新たな親父も。

「でも……」

「でも、ではない。実際それが原因で頭を打った。今回は頭を打っただけで済んだが何かが間違ってたら一大事になっていてもおかしくなかっただろ?」

 紛れもない正論だ。何も間違ってない、けど……

「分かったよ」

「よーし、分かってくれたのなら──」

「先生が居れば良いんでしょ。ちゃんと指導を受けながら学ぶよ」

「お前な~……」

 正直最初俺は唐突な事ばかりで、転生したのに「記憶を引き継いで生まれ変わっただけ」くらいに思ってなんだか流れに身を任せた3年間を過ごした(自分が最強として転生した事も途中まで忘れてたしその片鱗も無かったしな)。

 それこそ前世やそれ以前の前世も同じだった気がする。流れに身を任せて生きる上振れも下振れも少ないつまらない生き方だ。

 けれど、そんなこれまでを何回も、いやそれどころか何回死んで生まれ変わっても繰り返したからこそ今このチャンスがある。

 それなのに足踏みをするなんて我慢がならない。それに加えて、確証はないが急がないといけない気がしてならない。自分自身がそう告げている。スタートダッシュの重要性を知っているからだろうか。

「んー。やっぱり5歳になるまではダメだ。なんなら本来は6歳から学び始めるんだからこれですら早すぎるくらいだ」

 くっ、この頑固親父。

「だが1年大人しくしていれるなら5歳になる前に数ヶ月短縮して学ぶのを許可してやらんでもない。才能があるなら早く学ばせるに越した事はないしな」

「本当!?大人しくするよ!」

 意外と甘いな。ありがたいぜ、親父。

「ちゃんと他の勉強とお手伝いもできるか?」

「もちろん!」

「よし!じゃあ早速お母さんのお手伝いだ!」

「はい!」

 ふっふっふっ。よーし!これから1年間派手な魔力の出力は自粛してこっそりと魔法学の勉強と精密なコントロールに努めるとするか!




「んーありゃーやっちまったの」

「やってしまった?」

「うーん、あまりに魂が不憫な者がおったんでの。世界最高レベルの力と資質を与えて転生させたんだがの……」

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