第54話:God bless you.
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決勝戦では、点を取っては取られ、守られては守っての一進一退の攻防が続いた。
もう何度目の攻撃だろうか。
ゴール下まで迫って来た相手のボールを
ドリブルのコースを遮ったヨシノさんを外側から避けようと右に向いたミカと、それに反応してボールに手を伸ばしたヨシノさん。
一旦戻してと指示を出そうとしたその瞬間、ミカは右回りに360°体を翻してヨシノさんの横を通り過ぎると、1度ついたボールを捕えて、あっさりとランニングシュートを決めた。
「ナイスミカ、マルセイユからの庶民シュート!」
「へへへ、バスケはマルセイユルーレットじゃなくてロールターンだって!」
ミカは駆け寄ったアヤカと、照れ隠しをしながらハイタッチをした。
……今のターン、ボールはミカの手に吸い付いていた様に見えたけれど、遠心力は何処に行ったの?
ううん、それよりもミカ、いつの間にそんな技を……。
そう思い掛けた私の頭には、小学校の放課の光景が思い出されていた。
放課にはよくグラウンドに出て、男子たちと一緒にバスケをしていたミカ。
私は近くの花壇の
長い距離のシュートも直ぐに入る様になって、彼女は色々な動きを試していた様に見えた。
……その中の1つ。どうしてだかミカが横にクルっと回ろうとして、私の足元にボールがテンテンテンと転がって来た事が何度か有った。
「小学校の時にやろうとしていた……」
ボソッと呟く私に、ミカは通り過ぎ様にサムズアップをした。
そのウィンクに、私の胸はドキドキと高鳴り始める。
……これだから、ミカは。
後半も半分を過ぎる頃には私も2度シュートを決めたけれど、3回目からはシュートのモーションに入ると手を出して止められる様になった。
……『もう、何でよ』と思っていると、ミズキさんが「ユカリさん、あなたドリブル出来ないんでしょ」と耳打ちして来た。………矢張り、このチーム相手ではバレてしまうか。
❤
……不味いな、ユカリのシュートが打つ前に止められる様になっちゃった。
弾かれたボールを拾った私は、その場でボールをつきながら、素早くコート上の全員の顔を見た。
今日5戦目になる相手チームの子たちは勿論、同じチームのアヤカもカナコもシオリもユカリも、大分疲れた顔をしている。
多分ユカリには、自分の動きが封じられたって云う焦りも有るのだけれど。
点数は、僅差ではあるけれど、1点差で負けている。
だから、攻めない訳にもいかないのだけれども……。
正直、私の足ももうガタガタ。
カエデさんとアンナさんとミズキさんとヨシノさんとシヨウカさんって云う、同じクラスのバスケクラブメンバーのチーム相手に大健闘しているから、当初の目的は果たしたと言えば果たしたと言えるけれど…………。
ダムダムダム。
ダムダムダム。
……よし、行ってみよう。
♦
ドリブルで切り込んだミカは、今度は2人に阻まれてシュートを打つ事は叶わなかった。
ミカからのパスで戻って来たボールをアヤカに渡そうとしたけれど、その途中でアンナさんに手を入れられて取られてしまう。
どちらにしろシュートを打たせて貰えない私も、3ポイントラインは割らせまいとディフェンスに加わった。
皆笑顔で居る心算だろうけれど、限界が来ているのは明らかだし、私自身も指示を出している余裕が無い。
「打たせない!」
……出来る事と言ったら、相手を威嚇する事位。
24秒ルールの為に仕方無く3ポイントラインの外から放ったアンナさんのボールはリングに弾かれ、戻って来ていたミカがしっかりとリバウンドでキープした。
残り試合時間、20秒。
次ボールを取られてしまったら、パス回しで終わられてしまう。
「ユカリィィィィィ!!!」
私の名前を叫んでパスを出すなり床に膝をついたミカのボールの軌道は、私よりも相手ゴールの方に向かっていて……。
『ゼロステップ?』
『うん、何年か前にトラベリングのルールが変わっていてね』
……これは、2人で練習していた日、休憩中に話していた事。
『前はボールをキャッチして最初に着いた足が1歩目だったんだけど、今は着いた足はカウントされないんだよ』
……そうか!
私へのマークは手を出すだけでどうにでもなったので甘いままだった。
走り込んでそのボールをジャンプでキャッチして、1歩、2歩、この距離なら!
「しまった!」
後ろの方から、カエデさんの焦った声が聞こえた。
時間的にも、恐らくこれが最後のシュート。
……力が入ってしまった私のシュートは、一度リングの上で跳ねて、その上を丸く転がった。
体勢を崩して転んでしまった私は、上体だけを起こして、その様子を見上げる。
少しずつ勢いを弱めながらも、ボールはリングの上を回り続けている。
……外れちゃうかな……。
でも、これが外れたとしても、カエデさんたちのチームと良い試合が出来たし、皆の凄い所も見て貰えたし、目的は果たしたよね……。
…………うん…………。
❤ ♦
「「入れぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!! バカやろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」
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