第53話:そして決勝へ…。
♦
準決勝も、終了まで残り30秒を切った。
カナコとシオリの速攻から始まったこの試合は、これまでで一番の点差になっていた。
相手チームも、誰一人として諦めずに向かって来ているのだけれども……。
見物人は、派手な応援こそしないものの、今やミカとアヤカとカナコとシオリの一挙手一投足を息を呑んで見守っているのを感じる。
“プレイで魅せる”
今までスポーツとは距離を置いていた私には、この考え方が抜けていたのかも知れない。
……次の球技大会の時には、出ずっぱりにならなくて済む様に、交代要員もチームに組み込む様に提言しておこう。
あ、またドリブルの速攻でゴール下に潜り込んだミカがシュートを決めた。
相手が間髪を入れずにスローインをして攻めて来る。
ミカはボールを追い掛ける形で、全力で戻って来る。
ボールを持っている相手を私が足止めしている内に、ミカはハーフラインを越えて、ディフェンスに加わった。
……もう、直ぐに終わるのに……。
相手のパスコースを遮ってボールを奪ったアヤカがドリブルで戻って相手を引き付けると、山なりのパスで私にボールを回した。
……ここまで、ボールを受け取った私がパスしかして来なかったからか、相手チームのメンバーは、直ぐに相手コートに走り込んだミカ、シオリ、カナコのマークに入った。
……うん。
データだけなら、その判断は間違ってないんだけどね。
「そのまま行けえ!」
「分かってる!」
ミカの咆哮に応えると、足の先から手の指の先まで繊細に意識を行き渡らせて、ボールを押し出した。
トンッ、ガラガラガラカ……ラ……、……スポッ。
…………タンッ、……タンッ、タンッ、タッタッタタ…………。
最後にダメ押しの3点を追加して、私たちの準決勝戦は静かに幕を下ろした。
❤
準決勝が終わってから決勝まで、10分のインターバル。
いっその事、直ぐにやってくれた方が楽な気もするんだけどな。
「ずっと練習していたとは言え、最後のシュート、良く決めたよね」
アヤカは興奮し切りでユカリに声を掛けた。
取り敢えず、また体育館の
「皆が凄いプレイをしていたからね。私だって負ける訳にはいかないもの」
そう言うユカリは、クラスメート前用のツンツンモード。
「ずっと練習させたからね。流石にあそこは決めてくれなきゃ」
見学のクラスメートたちに背を向けて、見えない様に親指を立てて“いいね”しながらツンケン言うと、皆、声を押し殺して笑った。
「……まあ、これまでの点差は忘れる事ね。トーナメントの山で、実力が分かれ過ぎていたから。相手は同じクラスのバスケットボールクラブのメンバーで構成されたチームよ。あっちの方が1回試合が多かったからって、それがアドバンスになるとは思わない方が良い」
「分かっているってば」
「皆、足の調子はどう?」
「……今の処は大丈夫だけど。ギリギリ1試合くらいは持ちそうかな」
ユカリが話を切り替えて尋ねると、アヤカかが苦笑いをしながら答えた。
「私もギリギリかなぁ」
「私もー!」
カナコとシオリも、それに続く。
「私は、……行けるよ?」
私の答えは、ユカリへの合図。ああは言っても、きっとユカリは躊躇してしまうから。そう云う人だから。
「……分かったわ。そう言うのなら、試合中は限界感を出さないでね。指示する私が、鬼の様に見えてしまうから」
「分かってるって」
「では、決勝戦を始めます! 両チーム集まって下さい」
先生の声が聞こえたので、私たちはユカリを先頭に、決勝のコートへと向かった。
♦
ジャンプボールは、流石に相手のアンナさんが取った。
カエデさんがそれを拾って、ドリブルで突進して来る。
……うん、新海池公園での練習で、本気でぶつかりに来ていた皆よりは怖くない。
とは言え、怖くないのと取れるかとはまた別問題で、あっさりと抜かれてしまった。
振り向いた時にはカエデさんは既にシュートモーションに入っていて、その手から離れた瞬間のボールを、どうにかアヤカが
「へえ、やっぱりやるねえ」
そう言ったカエデさんは、とても楽しそうに笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます