第35話:美味しいカレー。



「お喋りしている内にカレー冷めちゃったね。チンして来ようか? スライスチーズでも乗せて」


 そう言ったお母さんの所に、残り3人のお皿が集まった。

 お母さんは「オッケー。ちょっと待っててね」と言って自分の分も一緒にトレイに乗せ、カウンターの向こうに回って行った。


 ユカリのお母さんのミカゲさんは、さっきからにこやかに私に笑い掛けてくれている。

 お母さんたちもあの高校出身だって云う事は知っていたけれど、まさか、私と同じ状況になっていたなんて。

 スポーツデー位から打ち解けられた様な事を言っていたけれど、どうやったんだろうか。

 私も、その頃にはクラスの皆と仲良くなれるのかな。

 ……って、『なれるか』じゃなくて、『なる』じゃないといけないのも分かっているけれども。


 サラダの輪切りのキュウリを齧りながらミカゲさんをちらっと見ると、満面の笑みと言って差し支えの無さそうな笑顔で口を開いた。


「なあに、ミカちゃん」


 その優しい声色に、思わずドキッとしてしまう。

 さっき、何を言い掛けていたんだろう。

 でもきっと、今その話を蒸し返すのは違うと思うし、どちらにしろ私には、今出来る事をする位しか選択肢が無い。

 ……けれど、質問されているからには何か返さなきゃ。


「あっ……と、お母さんって、お父さんと何処で出会ったのかなって」

「トモミたちが?」

「うん、お母さんたち。この間、高校の頃には知り合いだった感じで話していたから気になったんだけど、訊いたら誤魔化されちゃって」


 お母さんの高校は女子校なのだから、お父さんと同じ学校で有る筈が無いし。


「んー、トモミたちが話していないなら、私から話すのもねぇ」

「もう、未だ気にしていたの? しょうがないなあ」


 話が聞こえていたのか、お母さんがカウンターに顔を出した。


「ミカゲも含めて私たち3人、小学校からの知り合いだったのよ」

「へえ、そうなんだ!」

「正式に付き合い出したのは、高校を卒業してからだけどね」


 その時キッチンの奥から『チン』と聞こえて来て、お母さんは「はいはいはい、待っててねー」と言って姿を消した。

 ……そうだったんだ。


「そゆこと。だから、高校の時のトモミのおりは私1人の役目だったんだよ」


 そう言って笑ったミカゲさんの顔は、とても誇らし気だった。

 ユカリと目を合わせて、笑い合う。


 お母さんたちにも、そうやって悩んで来た時期が有ったんだ。

 きっと今のお母さんたちやお父さんたち、他の大人たちから見たら、私たちの悩みなんて取るに足らない事だと思えるのかも知れない。

 皆、それぞれの色々な歴史を乗り越えて来ているのだから。

 でも、それが初体験の私たちには見えていない事が色々と有るから、つい思い詰めてしまうのかな。

 

 さっき、お母さんたちは余り思い詰めない様にって、途中迄だけれど自分たちの話をしてくれた。

 それだけで、何だか入り過ぎていた肩の力が少し抜けて、ちょっと楽になった気がする。


「ねえ、ミカちゃん」

「何、ミカゲさん」

「本当に辛くなったら、うちに来てね。いつでも抱き締めてあげるから」


 ミカゲさんはそう言って、私の方に向いて両手を広げた。

 ……その隣に座っているユカリは、少し呆れた様な顔をしている。


「うん、ありがとうございます! ……本当に辛くなった時しかダメ?」

「そんな事無いけど、ユカリが妬いちゃうんじゃない?」


 そう言って横を見たミカゲさんと目が合うと、ユカリは顔を真っ赤にして視線を逸らせた。


「バ、バカじゃないの」

「はいはーい! 出来たわよー!」


 そう言ってお母さんが持って来たチーズinカレーは、程よく溶け出したチーズがカレーと相まって、とっても美味しかった。

 もしかしたら、それだけが原因じゃないのかも知れないけれども。


 ……それにしても私たち、昨日のお昼もカレーだったよね?

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