第30話:仲良くなれたかな。



 お土産も買って満足した私たちは明治村を出て、暫くしてやって来た名鉄バスに乗って犬山駅へと帰って来た。

 ここから名鉄に戻って名古屋駅でアヤカたちと別れる事になるのだけれど、私たち5人はスマートフォンで検索して見付けた、地元のスーパーとかのフードコートには大抵有って、安い事も有って子供の頃からよく食べに行っているラーメンチェーンに寄っている。

 少し早いけれど、晩御飯と云う事で。

 ……素直に言うと、楽しかった1日が名残惜しいから。


 もう皆注文は終え、呼び出しブザーを受け取っている。

 このブザーの扱い一つでも、それぞれ個性が出て面白い。

 ユカリはテーブルに置いて、気にもしていない。

 アヤカはテーブルに置いて、頬杖を突いてチラチラと見ている。

 シオリはテーブルに置いて凝視、カナコは握り締めたまま。


 その違いを楽しんでいる内に私のブザーが鳴り震えたので、パンツのポケットからそれを取り出してカウンターに持って行った。




 5つのラーメンが並ぶ。皆、普通のラーメン。

 子供の頃からずっと食べて来ているから、偶に食べたくなるんだよね。

 所謂、ソウルフードってやつ。


「手を合わせて下さい」

「「「「はい!!!!」」」」

「「「「「いただきまーす」」」」」


 声を揃えて言うと、皆、待ち切れなかったとばかりに麵を啜り始めた。

 いつもは落ち着いているユカリも、ここぞとばかりにがっついている。

 私だって、負けないんだから!

 ……あは。

 楽しくてか胡椒が効き過ぎてかは分からないけれど、涙が出て来た。

 目尻を指で拭いながら皆を見てみると、皆の瞳もいつもより潤んでいる様に見える。




「あ、ねえねえ」


 食べ終えてコップから水を飲んだ私は、皆に声を掛けた。


「どうしたの、ミカ」

「明日って、牧野ヶ池か猪高緑地だよね? 何時にする?」


 お母さんに送り迎えをお願いする都合上、忘れずに決めておかなければならない。

 それに、頼むのも早ければ早い方が良いだろうし。


「あー、それな。先ず、どっちにするか決めなきゃね」

「因みに、明日も1日中晴れ予報みたいだよー」


 アヤカが言うと、シオリがスマートフォンを見ながら教えてくれた。

 じゃあ、降られる心配はなさそうかな。

 ……中々雨が降らなくて困っている人も居るんだろうけれども。


「……あ、そう言えば猪高緑地の名東スポーツセンター、バスケコート有ったっけ」

「うん。でも、有料だし」

「そうそう、時間も指定されちゃうしね」


 ジモティ3人の言葉を元に検索してみると、成る程確かにバスケットコートは借りられるけれど、例えば12時から15時までで3000円とか、時間は決まっていそうだ。細かい事は、ちゃんと全部読んでみないと分からないけれども。

 それが高いかどうかの判断は個人ひとと人数にると思うけれど、今日も遊んだ私たちみたいな高校生には、5人で割ったとしても結構手痛い。

 隣のユカリが画面を気にしていたので、見せてあげた。


「ああ、確かにその様ね。そもそも私は未だコートでプレイできるレベルじゃ無いから、そんな立派な所じゃなくて良いんじゃない?」

「あー、そっか。……ミカ、ユカリのレベルって実際どうなの?」


 ……目の前でそれを訊いちゃうか。

 どう答えれば良いんだろう……。

 …………ユカリを傷付けない為には。

 皆の視線が私に集まる。

 私が口籠っていると、ユカリはフッと笑って口を開いた。


「ミカに訊かないであげて。ハッキリ言って私は運動音痴よ。パスは兎も角、ドリブルはままならないわね」


 そう断言したユカリは、いつに無く凛として見えた。

 普通に考えたら情けない事を言っている筈なのに、何故だかカッコ良く見える。

 それはアヤカたちも同じ様で、ユカリを見る目を輝かせている。


「遠慮してミカに訊いたりせずに、直接訊いてね。私たち、友達じゃない」


 ユカリが笑い掛けると、3人は餌を求める水面の金魚の様に、口を「友達……」とパクパクさせた。


「あれ? 私はすっかりその心算だったんだけれど、……違った?」

「「「違くない! 友達!!!」」」


 上目遣いに言ったユカリに、3人は声を揃えた。

 やっぱり、可愛い。


 それに何より、本当に仲良くなってくれている感じが、凄く、幸せ。





 ……良かった……。

 誰にも聞かれない様に独り言ちた。

 平然を装っていたけれど、内心はバクバク。

 勉強会の事も有って、アヤカ、カナコ、シオリの3人と普通に話せるようにはなっていたけれど、結局明治村でも余りお話し出来なかったし、友達認定されていなかったらどうしようかとは思っていたから。

 皆、……取り分けミカが至福の笑顔を見せてくれているから、私も同じ様に返す。


 ……と、明日の事だっけ。


「うちの方から近いのは牧野ヶ池緑地だよね?」

「うん」


 確認の為に訊いてみると、カナコが首を縦に振った。

 記憶は確かだったみたい。


「ねえミカ、送って貰うんだから少しでも近い方が良いんじゃない?」


 続けて、隣のミカに話を振る。


「ああ、……そうなのかな?」

「そうよ。それに明日は、午前中は勉強しない? 今日遊んで明日もって言うと怒られそうだから、ワンクッション挟んだ方が良いかなって」


 これは方便で、勉強してからでないと、私が練習に没頭出来ない気がするからだ。

 きっと今日は疲れも有って早めに寝てしまうだろうし、明日もたっぷり運動した後に勉強出来るかって訊かれると、ハッキリと言って自信は無い。


「それならお昼ご飯の片付けまで終わって、移動時間も考えて、……午後の2時ごろから夕方まで?」

「うん、良いと思う」


 ミカの考えに賛同する。

 アヤカたち3人も首を縦に振っている。


「じゃあ、明日は牧野ヶ池で午後2時から5時頃? に決定!」


 アヤカが手を上げて話を纏めた。

 そして、思い出した様に続ける。


「……あ、そうそう、私たちは自転車ケッタで行く移動の問題も有るから、高針側じゃなくて日進市を通って梅森坂側から来てね。中は車で通れない……気がしたし、移動に時間掛かっちゃうから」

「うん、分かった、お母さんに行っておく!」


 話が決まって、皆で笑い合う。

 うん、明日も楽しみ。


 ホッとした私は器を両手で持ち上げ、もう皆は飲み干してしまったスープを飲み干した。

 慣れ親しんだ和風とんこつスープが、全身の疲れを取り除いてくれた気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る