第29話:お土産。
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正直な話、もう目が覚めてはいるのだけれど。
まだ私が眠っていると思っているミカは、頬をプニプニと突いて来る。
『いい加減にしてよ!』って怒る事も出来るけれど、困った事に頬を突かれるのは嫌じゃない。
目を覚ましたのは、ミカのスマホが鳴った時。
直ぐに音を消したみたいだけど、手に持っていたのかな?だとしたら、何故?
多分、時間にしたら寝ていたのはほんの数分位なんだろうけれど、目はもうスッキリとしていたし、起きてしまうのは吝かでは無い。
ならどうして起きないのかと言えば、ミカのヒンヤリとした指の感触が気持ち良いからだ。
時折聞こえるチュウチュウとアイスカフェラテを吸う音。
その冷気が私の頬に移動する。
ポカポカと温かい陽溜まりの中の、清涼剤。
何か、ずっとこのままでも良いかな。……なんて。
「ミカー?」
アヤカの声が聞こえて来た。
その声が興奮気味な処を思うと、無事に汽車の方向転換が見れたのかな。
あれは結構なダイナミズムが有るし、私たちも見た当時は興奮したものだった。
……でもここ、喫茶店だよね? 他のお客さんは大丈夫なのかな?
そう思っていたら、ミカの「しーっ!」と言う声が耳に届く。
「……あ、ユカリまだ寝てるんだ。じゃ、私ら下に居るから、起きたら来てね」
カナコがミカにそう耳打ちする声が聞こえ、3つの足音が遠ざかって行く。
余り待たせる訳にもいかないし、そろそろ起きないといけないかな。
ミカも、起こそうかどうしようか悩ませてしまうし。
ボーナスぷにぷにタイムは終了ね。お互いに。
「ん……」
私が声を上げると、ゆっくりと近付いていた気配が慌てて私の向かいに戻った。
目を擦りながら起き上がると、ニッコリと笑うミカと目が合ったので、笑顔を返した。
「あ、ユカリ起きた? 皆、下まで来ているって。それ飲み終わったら行こうか」
「うん。そうしようか」
カップを持ち上げ、もうすっかり冷めたブレンド珈琲を啜りながら、窓の外の景色を眺める。
私の視線に釣られ、ミカも外を見た。
「懐かしいね」
「うん、懐かしい」
たった一言の応酬で分かり合える関係。
取り敢えずは、この関係が無かった事にはならなかった事に感謝。
まさかカナコたち、こうなる事を見越して今日、明治村に誘ってくれたのかな。
……まさか、ねぇ。
「あ、ユカリ起きた?」
「もう大丈夫?」
「バスに乗る?」
会計を済ませて階段を降りると、アヤカとカナコとシオリの3人は、口々に声を掛けて来てくれた。
「大丈夫よ、待たせてごめんね。それも良いけど、今日は歩いて戻りたい気分」
私がそう言って笑い掛けると、3人は「「「わかった!!!」」」と声を揃えた。
やっぱり、可愛い。
帰り道は私が先導して、出来る限りの最短距離で戻る事にした。
4丁目に有る汽車の駅の『なごや駅』の脇を入ると、そこは2丁目に続く逍遥の小道だ。
勾配はなだらかだけれど、舗装はされていない山の道。
ここが実際に山の中だとい云う事を思い出させられる。
「へぇー、こんな道も有るんだね! 知らなかった!」
「うん、日差しも柔らかくなって、風が気持ち良い!」
「良く知っていたね、ユカリ!」
「ミカのお陰よ」
アヤカとシオリとカナコの言葉に、端的に返す。
……以前の私も、途中までこの道の存在なんて全然知らなかった。
謎解きの途中でこっちの方を指しているのかなという事が有って、その時にマップと睨めっこしていたミカが見付けてくれたのだ。
あの謎解きは謎が謎だけで完結せずに、結局、この明治村を深く知る為の道標になっていたと、今も思う。
……もう一度やってくれないかな。そうすればまた皆で、ああでも無いこうでも無いと盛り上がりながらこの博物館を楽しめるのに。
隣を歩くミカを横目で見ると、目が合ったミカは「えへへ」と笑った。
意外な事に、3人は最初に1丁目の山道を歩いていた時とは違って、冷やかして来る事は無かった。
どうしたのかなとも思ったけれど、これは素直にありがたい。
変に冷やかされると、どうにも意識してしまって、ギクシャクしてしまう可能性も有るのだから。
……とすると、やっぱりそうなのかな。
「今日はありがとうね、アヤカ、シオリ、カナコ」
「「「えええ??? 何がー???」」」
向き直ってお礼を言うと、3人は分かり易く視線を逸らして吹けない口笛をプスプスと吹き始めた。
それを見て、思わず笑ってしまう。
「……ううん、何でもない!」
ミカはキョトンとしながら、私と皆の顔を見比べた。
逍遥の小道は2丁目の赤レンガ通りと垂直に交わり、更に1丁目の三重県庁舎前でメインの道路と合流する。
三重県庁舎の前を通り過ぎて階段を上れば、正門は直ぐそこ。……頑張れ、私。
❤
ユカリの先導で1丁目まで戻って来た私たち。
逍遥の小道を知っていたのを、ちゃんと私のお陰ってユカリが言ってくれたのは嬉しかったな。
そんなユカリは今、三重県庁舎前の階段を
ここを上れば、正門は直ぐそこだよ。頑張れ、ユカリ!
「あ、そうそうアヤカ、お土産屋さんは正門の横に有るからね」
「サンキュ!」
教えてあげると、アヤカは階段を駆け上がって行った。
カナコとシオリもそれに続く。
凄いなあ。
「……ミカは良いの?」
自分が
「うん。こんなに足がプルプルしているユカリを置いて行ける訳無いじゃん。一緒に行こ?」
「……ありがと」
ユカリに素直にお礼を言われて、私は何だか照れ臭くなってしまい、その後ろに回って背中を支えた。
……アヤカたち、ひょっとして意図的に2人切りにしてくれたのかな?
そうだとすると、逍遥の小道でのユカリと皆の遣り取りも、そう云う意味だったんだね!
「ちょっとミカ、余り押さないで!」
「アハハ、ごめんごめん!」
階段をどうにか上り切った私とユカリはアヤカたちのいるミュージアムショップに行って、私はお母さんに頼まれていたバタークッキーを、ユカリは抹茶カステーラをそれぞれ購入した。
ユカリのお家は、昔からこの抹茶カステーラ。
何でもユカリのお母さんが言うには、県内の西尾茶が使われていて、美味しいんだそう。
アヤカたちは3人共、『明治でぽてと』って云う、お昼に食べたカレーを使ったポテトスティックの箱を手に取っていた。
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