第24話:明治って…。



「そう言やさ、何かめっちゃ流行った鬼を退治するアニメって、明治時代だっけ?」


 明治村に向かって走り続けるバスの中で、カナコが大声で訊いた。

 さっきの電車と違って、このバスにはそこそこ他のお客さんも乗っているから、少し恥ずかしい。


「あれは、大正時代ね。明治の次の」

「あ、そうだっけ! 間違えちゃった!」

「ちょっとカナコ、声大きい」

「全くぅ」


 私の訂正にお道化て見せて、両隣のアヤカとシオリにたしなめられるカナコ。


「……ねえねえ、明治と言えば、こっちだよね」

と私の耳元で囁いたミカは、身体を捻って腰の刀を抜いた振りをして見せた。


「うん、そうだね。抜刀斎の方は明治」


 子供の頃にDVDを借りて、ミカと一緒に観たアニメ。

 ミカは暫くその主人公の真似にハマって、一緒に公園に遊びに行くと落ちていた木の棒を刀に見立てて、チャンバラごっこをしたものだった。……させられたものだった。

 実際に当てていた訳では無いから怪我をしたりとかは無かったけど、ミカと違って鈍臭とろくっさい私は、本音を言うとちょっと怖かったな。

 それでも、その怖さを物ともしない位に楽しかったけれども。


「……今から行くのは明治村だけど、大正の村は無いの?」


 そう訊いて来たのは、一番向こう側に座るシオリ。

 実は、大正村にも、子供の頃にミカの家族とうちの家族で一緒に行った事が有る。


「有るわよ。岐阜県の恵那市に」

「あ、行った事有るね! その時はお父さんの車で行ったから、電車だとどうやって行けば良いのか分からないけど……」


 ミカもその時の事を思い出したのか、嬉しそうに言ってくれた。


「あ、名駅から電車乗り継いで行けるって!」


 スマホを見ながら、アヤカが声を上げた。

 「ほら!」と見せてくれた画面には、日本大正村のサイトのアクセスの画面が表示されていて、大正村に電車で着く場合とバスで着く場合の所要時間も書かれている。

 名駅から中央本線で恵那駅に行って電車を乗り継いで明智駅に行くのと、瑞浪駅でバスに乗り換えて行くのとでは、電車を乗り継ぐ方が30分余計に掛かるらしい。


「へえ! あの鬼を退治するアニメ好きだから、行ってみたい!」

「良いね! 電車代掛かるだろうし、今度お金貯めて行こっか!」

「あれ? 3人共東山線なら、名駅まで出なくても、千種駅で中央本線に乗り換えられなかったかしら? それなら、少しは安くならない?」

「「「それだ!!!」」」


 私が路線図を思い出しながら言うと、3人は声を揃えて言った。

 アヤカとシオリも、最初はカナコの大声を窘めていたのに……。


 他のお客さんの顔を伺うと、楽しそうにしている私たちを微笑んで見てくれていた。

 目が有ったので申し訳無く頭を下げると、向こうも同じ様にして下さった。


「ほら、皆。他のお客さんも居るんだから。降りるまでは静かにね」


 そう言うと、アヤカとカナコとシオリは口許に人差し指を立てて、「しーっ」と音を出した。

 ……私は引率の先生じゃないのだけれど。

 でも本当に、素直に楽しいし、皆でまたお出掛けする約束が出来るのは嬉しい。

 期末テストと球技大会が終わるまではそんなに遊んでいる余裕も無いし、行くとしたら夏休みかな。

 ……私もミカも通学定期の区間に千種駅が含まれるから、期間内だとなお良いのだけれど。


「また、落ち着いたら行きましょうね」

「「「「うん!!!!」」」」


 今度は、4人の声が揃った。

 私もこうなるのが分かっていて振っているから、大概悪い子だ。


 もう一度頭を下げると、小さな子連れのお母さんが「良いよ良いよ」と手を振って下さった。


「ね、大正村の住所、恵那市明智町ってなっているけど、あの光秀に関係有るのかな」

「ああ、本能寺の?」

「『明智光秀ゆかりの地』って書いてあるよ」


 自分でも検索してみたらしく、ミカも話に加わる。

 土岐明智城が近くに在るんだったかな。


「明治大正が有るなら、ひょっとして昭和村も有る?!」


 とは、アヤカ。


「岐阜に有った昭和村は、リニューアルして“ぎふ清流里山公園”になったってニュースで聞いたかな」

「検索しても、実際の村とそこしか出て来ないや……」

「あ、じゃあ平成は……」

「読みは違うけど、岐阜県の関市の平成へなり地区が改元の時に…………」


 それからも私と4人で一問一答をしていると、その内にバスは明治村正門前に在るバス停に停まった。

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