第25話:明治村入村。
♦
「「「着いたー!!!」」」
バスから最後に降り立ったアヤカとシオリとカナコの3人は、楽しそうに声を揃えた。
本当にこの3人はどこに居ても楽しげで、
……ただ矢張り別グループに所属している身としては、あの学校で異物扱いされてしまうのも分かってしまうし、中間テストの件が無かったとしても、遅かれ早かれだったのではないだろうかと思う。
それは勿論、ミカも含めて。
運動系のクラブの子たちも、元気な人は居るけれど、皆どこか節度を保っている感じがする。
でも、だからこそ、それぞれが尊重し合えれば良いなと思うのだけれど、それは贅沢な願いなのだろうか。
少なくとも、今ここにいるメンバーがクラスメイトの悪口を言ったのは聞いた事が無いのだけれども。
……それにしても。
「明治村、何かもう懐かしいね、ミカ」
「うん! レンガ造りとか、今の建物では余り見ないしね。うちの学校の門とかそうだけど」
心地よい風に吹かれながらミカに声を掛けると、見当違いの答えが返って来た。
「もうミカ、そうじゃなくて……」
「……あ! ……うん、そうだね。何年振りだっけ。謎解き振りだね」
「うん。……謎解き、楽しかった。私が行き詰まったら、ミカが閃いてくれるの」
「ええ? ……えへへへ。そこまでユカリが解いてくれたからだよ!」
「そんな事……」
「あのー、お2人さん……」
空気を懐かしんでいる私たちを遮ったのは、アヤカだった。
……良い処なのに。
「何? アヤカ」
「開村まで時間が無いから、チケット買っちゃおうよ」
……それもそうだ。
バスが着いたのは、開村のたった6分前。
「あ、ごめんなさい。並びましょうか」
それから私たちがチケットブースの列に並んで買い終わった頃、開村の時間を迎えた。
「それじゃあ、何処から行こうか!」
ミカがチケットと共に受け取った村内マップを広げながら、如何にもワクワクが抑え切れないと云う声で言った。
この明治村は村内が他のテーマパークと同様に幾つかのエリアに分かれていて、それぞれ『1丁目』『2丁目』『3丁目』『4丁目』『5丁目』になっている。
……まあ、村だからそうだろうと言われればそうなんだけれど。
因みに、今いる正門付近から暫くは1丁目になっている。
駐車場は一番奥の5丁目側の北口を出た所に有るので、前に親に車で連れて来て貰った時は、そっちから入っていた。
「今日明治村って言ったのはカナコだったよね? どこか行きたい所が有ったの?」
私が訊くとカナコは、
「まあまあ、順番に行こうよ! きっと似合うと思うんだ!」
と言ってしまい、アヤカとシオリに、
「バカナコ!」「何で言っちゃうの!」
と口を塞がれた。
……ああ、うん、分かった、2丁目か。
念の為に赤いリボンを持って来ていて良かったな。
でも、前は謎解きに夢中でそんな余裕が無かったから、素直に楽しみ。
順番にと云う事で、1丁目の平地部、白壁に瓦屋根の文明開化の頃の洋風建築物を一つ一つ見て行き、1丁目の山部に行く。
……これが結構本気で山登りをしている感覚になって、地味にきつい。
と言うか、やっぱりミカにパンツを貸して貰わなきゃいけなかったな。
ひらひらのスカートが少しずつ汗を吸って足に纏わり付いて来る。
それでも子供の時は気にならなかったんだけど……。足が伸びた分かな……。
そう思った時、
「私が気付いていればなぁ。気付かなくてごめんね」
とミカの声が耳元で聞こえた。
振り返るとミカと目が合ったので、
「前はスカートでも気にならなかったんだけどね。疲れるのは兎も角」
私も耳元で囁き返すと、ミカは「そうだったよね」と嬉しそうに笑った。
「「「お2人さーん」」」
そんな私たちをニヤニヤと見ながら追い越していく、アヤカとシオリとカナコの3人。
「ミカ! 手伝っちゃダメだよ? ユカリの体力作りも兼ねているんだから!」
少し先に行った所で振り返ったアヤカが、ミカに釘を刺す。
……そう云う事か。
「分かっているって! ……って云うか皆、『お2人さん』とか止めてってば。折角前みたいに話せる様になったのに、変に意識しちゃって変な感じになるから!」
ミカが真っ赤になってアヤカに返す。
それは同意だけれど、そう言われると余計に変な意識しちゃうじゃない……。
「あれ? じゃ、私たちがユカリともっと仲良くなっても良いの?」
「……っ元々、5人の親睦会でしょ!」
……ダメよミカ、躊躇しちゃあ。……ああ、ほら、皆意地悪な顔をしている。
途中の池で鯉に餌を上げつつ坂を登り切ると、一気に見晴らしが良くなり、
私は見ていなかったのだけれど、前に朝ドラのロケ地にもなっていたらしい。
眼下には、
周囲が16kmも有る農業用の人工ため池で、農水省の“ため池百選”に選ばれたり、国際かんがい排水委員会による“世界かんがい施設遺産”にも登録されたりしているらしいのだけれども、それがどれ程の事なのかは私には分からない。
息を整える為に深呼吸をすると、木々や土、水など様々な香りが私の中に入って来た。
少なくとも1丁目に関しては後は基本的には下るだけだから、山は越した感じ。
……感じって云うか、そのままね。
ヨハネ教会堂を見てから坂の途中に在る幾つかの建物を見て行くと、と或る思い出の有る住宅に着いた。
「ねえ、ミカ。ここは覚えている?」
そこは、前に私が年間パスである住民登録をしていた木造の住居。
縁側では、猫の置物がにゃーんと鳴いている。
「勿論だよ! ユカリが登録していた所でしょ?」
良かった。憶えてくれていた。
「森……さんと、夏目……さんのお家!」
……。
……。
……。
…………まさかミカ、森鴎外と夏目漱石を憶えていないの?!
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