第21話:土曜日の予定を。



「上手い事やったわね」


 画面に映るユカリが、感心した様に言ってくれた。

 昨日に続き、今日もリモート勉強会を開く事になり、私が作った部屋に入って来たユカリの最初の一言がそれだった。

 アヤカたちは少し遅れるとの事で、今は私とユカリの2人切りだ。


「へへへ、でしょっ! これで私たちが話すのも、そんなに変な事じゃ無くなったよね?」

「ええ、そうね。とは言えまあ飛び道具の様な物で、未だ皆の理解を得る所まではいかないから、そんなにずっと話すとか言う訳にもいかないとは思うけれど、ね」

「それは分かっているって! 油断せずに頑張るよ!」


 私が力瘤を作って見せるとユカリが笑顔になったので、私の口からも自然に笑いが漏れた。

 私たちが笑い合っていると、画面が動き、アヤカとシオリとカナコが入って来た。


「あれ? 何か楽しそうじゃん。どうしたの?」

「え? ……ふふふ」

「勉強も球技大会も、一緒に頑張ろうねって」


 若気にやけてアヤカの質問に答えられない私の代わりに、あっさりと答えたユカリ。

 こんな私たちの様子に、今来た3人はお腹を抱えて笑った。

 私も、浮かれている場合じゃ無いって云うのは分かっているのよ?


「ねえねえ、ところでさ」


 一頻り笑ったカナコは、コロッと切り替えて話を切り出した。

 こう云う処も好き。


「明日は折角の土曜だし、親睦も兼ねて、この5人で遊びに行かない?」

「あー、良いね! 行きたい! ……あっ、でも……」


 カナコのその提案にコロッと食い付いた私は、思い直してユカリの顔を見た。

 皆も静かにユカリの動向を伺う。


「……どうやら、私待ちみたいね。良いわよ?」

「え?! 本当に?!」


 ユカリの返答に、私よりも先に、真っ先に驚きの声を上げたのはカナコ。

 ……誘っておいて?


「やった! 言ってみるもんだね!」

「楽しみ!」


 カナコに続いて、アヤカもシオリも喜びの声を上げた。

 3人共、本当にユカリと仲良くなりたいと思ってくれているんだと、私も嬉しくなる。


「……それで、何処に行きたいの? 決まっている?」


 ユカリは頬を赤く染め、咳払いをしてから落ち着いた声で訊いた。

 確かに、それは気になる。

 カラオケだと、ユカリは余り唄ってくれない。

 ……私の唄を聴いているだけで満足って言ってくれるのは嬉しいのだけれども。

 でも、私だってユカリの唄を聴いて満足したい。ずっと前に唄ってくれたの、上手だったのに……。

 ……。


「……カラオケは?」

「唄わないわよ?」


 さり気無く訊いた心算だけど、ユカリは当然の様に言い切った。


「えー? ユカリちゃんの唄聴いてみたい!」

「うん、上手そうだし、格好良いバラードとか、さまになりそうだよね!」

「唄ってよ!」

「え? ……そ、そう? ……そんなに言ってくれるのなら、ちょっと位は……」


 ……何その態度。妬けるんですけど。


「ってまあ、カラオケも良いんだけど、明日行きたいのは違うんだよね」

「あれ? そうなの?」


 カナコが切り替えると、ユカリは少しホッとした様な、残念な様な声で言った。


「うん、天気予報でも晴れって言っていたし、どうせなら外の方が良くない?」

「まあ、そうだよね。この後梅雨に入る事を考えると、晴れている内に出掛けたいかな? カラオケは雨でも関係無いし」

「じゃあ、何処に行くの?」


「うん、明治村とかどうかな」


 カナコが言った『明治村』とは、岐阜との県境の犬山市に在る、明治時代の建物とか資料とかを展示している、屋外型の博物館の事。

 明治時代をモチーフにしているアニメとかゲームとかとのコラボイベントなんかもやっている事も有り、明治時代をコンセプトとしたテーマパークと言う事も出来る。

 学校の遠足なんかで行った事も何回も有るけれど、何年か前に謎解きイベントをやっていた時には、ユカリと二人で親に送って貰って何回か通っていた事も有る。

 勿論、頭脳担当はユカリで、私は体力担当。

 ……一緒に考えてはいたんだけどね? 偶に閃いた事も有ったし。

 その時は何種類もある謎を解くのに何回行く事になるか分からなかったから、明治村の住民登録、……年間パスポートを買って行っていたっけ。懐かしいな。


「……最近行っていなかったし、私も行きたい、かな」


 そう言ったユカリの顔は、私に向かって微笑んでいる様に見えた。

 ……いや、カメラを見ているんだから、私をって言うかこっちを見てはいるんだけれど、そう云う事じゃなくて。


 因みに住民登録する際に建物を選ぶ事が出来るのだけれど、明治村を象徴する帝国ホテルの中央玄関を選んだ私に対して、ユカリは森……、森……、……森なんとかさんと夏目なんとかさんのお家を選んでいた。

 縁側に猫が居る、木造のお家。

 ……何となく、高校生になった今となってはこのお2人の名前は覚えなくてはいけない気がする。


「あ、ユカリちゃん、ひょっとして前はミカと行ってたとか?」


 アヤカが訊くと、ユカリはそっと頷いた。

 途端にシオリとカナコがヒューヒューと冷やかして来る。

 いや、小学生か。


「じゃ、じゃあ、明日は明治村ね! はい決定! 勉強しよ、勉強!」

「あ、ミカ、誤魔化したー」

「顔真っ赤だよー?」


 ……五月蠅いってば。

 自分でも顔がちんちこちんなのは分かっているから。


「そうね。明日の夜は疲労えらくて勉強なんて出来ないだろうから、今日は明日の分もやらなきゃいけないしね」


 私はユカリがそう言うよりも早く、今日やる事に皆で決めていた英語の教科書を開いていた。

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