第20話:チーム決め。
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駅から学校まで、振り向かずに歩くのは、中々に骨の折れる事だった。
直ぐそこに、ミカが居るのに。
幸運にも、私の姿を見かけたホノカさんが小走りで追い付いて話し掛けて来てくれたので、それからは気が紛れたのだけれど。
……本当に、早く認められてくれないと、私が持ちそうに無いのよ。
ミカたちは教室で揃うと、教科書とノートを広げて、昨日予習しておいた部分の確認を始めた。
未だ周りの目はそんな彼女たちに懐疑的の様に見える。
……頑張っているのだから、素直に応援してあげれば良いのに。
……って云う、私の昨日の言葉は、皆に本当の意味では響いていないんだな。
あの場では皆、その通りにしてくれたのに。
力不足が、歯痒い。
……自分で言うのもなんだけれど人気が有る私が彼女たちに話し掛けると、やっかみがどんな姿に変貌してしまうか分からないから、下手に話し掛けられないのももどかしい。
私がミカたち4人と一緒に勉強を始めて、皆が本心から一緒に勉強を楽しんでくれると良いのだけれど。
未だ私はクラスメートの皆の本心を掴みあぐねているけれども、どうもそうはいかない気がして、二の足を踏む。
ここは慎重に行かなければいけない処だし。
……まあ、それはそれとして、私は私で予習の復習をしておこう。
心配事に気を取られ過ぎて私の成績まで落ちてしまうのでは、本末転倒だ。
私が静かに勉強を始めると直ぐにホノカさんたちは私の周りに集まって、一緒に勉強を始めた。
そしてそれはいつしかクラス全体に伝播して行って、皆は自分の勉強に集中して、ミカたちに変な視線を向ける人は居なくなっていた。
……変に考え過ぎず、これだけで良かったのかも。
尤も、ミカやアヤカ、シオリ、カナコが授業中に答えられて自分が答えられない事で他の人から奇異な視線を向けられる様になる事を恐れての事って云う可能性も有るけれども。
……なんて、これは見方が穿ち過ぎかな。私も大概、嫌な子だ。
キーンコーンカーンコーン。
「それでは、朝のホームルームを、…………何ですか? 何で皆さん勉強しているのです? ……あ、いや、とても良い事ですけれど!」
チャイムと同時に入って来た担任は、戸惑いの声を上げた。
それも仕方の無い事。
昨日迄は、先生が来る迄はグループで其々集まって話をしているのが普通だったのに、誰一人話をしていない教室。
百歩譲って同じ科目を勉強していたら小テストが有るのかもと思えるだろうけれど、グループ毎に大概バラバラなのだから。
「ま、まあ、ホームルームを始めるので、勉強は一度止めて、しまって下さい」
何とか自分を取り戻した先生が落ち着いた声で言うと、皆それに従って顔を上げた。
「昨日の生徒会で、来月のテスト後に有る球技大会の種目が決まったので、クラスの代表のチームを決めてしまいましょう」
「先生! それで、種目は何になったんですか?!」
先生が言い終わるや否や、手を上げて元気に言ったのは、運動系クラブのカエデさん。確か、バスケットクラブだったかな。
「カエデさん、あなたは確か、バスケットクラブでしたよね。活躍を期待していますよ」
「あ、と云う事は!」
「はい、バスケットボールです」
「やった!」
カエデさんと一緒に、何人か居るバスケットクラブの面々がガッツポーズをした。
バスケットボールは、確か1チーム5人。
今ガッツポーズをしたのも5人。
……1チームは決定かな。
「それで、1クラスから3チームを出す事に決まりましたので、……ええと、バスケットクラブの人は?」
「あ、私を入れて丁度5人です。私たちで1チームで良いですか?」
カエデさんがそう言うと、教室中の皆が拍手をした。勿論、私やミカたちも。
「では、1チーム目は決まりと云う事で。2チーム目は、どうします?」
先生が続きを促すと、運動クラブの中でもサッカークラブやソフトボールクラブ、テニスクラブ等の球技のクラブの面々が「私が」と手を上げた。
スキークラブや水泳クラブ、陸上クラブの皆は、必死に先生から目を逸らしている。可愛い。
でもやっぱり、運動クラブと括ってはいるけれど、自分の体一つで戦うのと、ボールを扱うのとでは全然感覚が違って来るんだろうな。
……私は、どちらも苦手なのだけれど。
身体を使うのは、ずっとミカの役割だったし。
ともあれ、球技クラブの面々で、丁度5人。
先生が確認すると、皆が承認の拍手をした。
……あと、1チームか。
皆、私が運動は苦手なのを知っているから推薦もしないだろうし、私はやらなくて済むだろうけれど、後5人、誰になるのだろうか。
「じゃあ3チーム目、やりたい人!」
先生は上手く波に乗る様に、話を続けた。
しかしここでさっきまでとは打って変わって、教室内に静寂が訪れた。
「……誰も居ないんですか。困ったな。時間が掛かると、授業が始まっちゃう……。推薦でも良いですけど、誰か居ませんか?」
そこで漸く、手を上げた人が居た。
「じゃあ、推薦ですけど、ミカさんとアヤカさん、シオリさんとカナコさんとかどうですか? 勉強が出来ない分、運動とか出来るんじゃないですか?」
……確かにミカはバスケットボールは得意な方だけれど、その言い方はどうだろう。
「別に構いませんよ」
思わず立ち上がり掛けた私を目で制しながら自分が立ち上がり、ミカは事も無げに言った。
「ただ、そうすると私たちはおバカ“四”天王ですから、誰か1人に加わって頂かなければなりませんけれど……」
ミカがそう続けると、彼女たちを推薦したサキさんも黙って座ってしまい、教室中に沈黙が訪れた。
「困ったわね。……誰か、入ってくれない? それが出来なければ、また時間を取って決めてしまわなくてはなりませんが……」
先生がそうはしたくないとばかりに不満気に言うも、教室内に動きは無かった。
……ううん、違う。
心配してミカの方を見ていた私と、ミカの視線が合って、ミカは私じゃないと見落とす位に軽く頷いた。
……あ、そうか……。
「じゃあ、他の時間を潰すのも良くないし、他にやりたい人が居ないのなら、仕方が無いから私が入ります。ミカさんとは、知らない間柄では無いし」
私が立ち上がって言うと、教室中がどよめきに包まれた。
中には、「ユカリさんがやる事有りませんよ!」と言う人まで居る。
しかし私がニッコリと「じゃあ、あなたが入る?」と返すと、視線を落として黙ってしまった。……何よ。
……と言うか、先生、早くしてよ。
「皆さん、落ち着いて。……じゃあ、ユカリさん、お願い出来る?」
「はい、4人が良ければ」
「……ああ、そうね。ミカさん、アヤカさん、シオリさん、カナコさん。チームメイトは、ユカリさんで良いですか?」
「……ユカリさんは運動が苦手なので、明日明後日のどちらかとか、何回か練習の時間を取って貰えるのなら良いですよ」
「ん? そうなの? じゃあ、その代わりに勉強を教えて貰う事とか出来ない?」
先生の問いにミカが答え、それにアヤカさんが続いた。
「バスケは、チームプレイだからね」
「息を合わせる練習は必要かな? 勉強も、その一環?」
そして、シオリさん、カナコさんも続く。
……凄いチームプレイ。
「ユカリさんはそれで良いかしら?」
「はい。確かに私は運動が苦手ですが、やるからには足を引っ張りたくは有りませんので。それに、この4人の成績が上がれば、クラスの平均点も上がりますよね?」
私が答えると、先生は優しく頷いた。
「ああ、そうね。お互いの苦手な部分を教え合って伸ばして行ければ良いわね。じゃあ皆さん、このクラスからの3チーム目は、今のユカリさん、ミカさん、アヤカさん、シオリさん、カナコさんの5人で良いですか?」
先生が最終的な質問を投げ掛けると、教室中に不承不承と言った感じの鈍い音の拍手が起こった。
「じゃあ、今の3チームで出しておきますので。……あ、済みません、今退きます」
そう言って纏めようとした先生は廊下に1限の現国の先生の姿を認めると、荷物を持ってヒョコヒョコと教室から出て行った。
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