第18話:盛夏服と、朝の空。
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金色のボタンの付いた白いブラウスの盛夏服を身に纏った私は、ドアの横に立ててある姿見の前で、色々なポーズをしてみた。
……何だか今一つ、私には似合っていない気がする。
こう云うのが似合うのは、……そう、ミカみたいな活発なタイプだ。
それに、あの3人も。
アヤカ、カナコ、シオリ。
いつか仲良くなりたいと思ってはいたけれど、まさか、こんなに早くその時が来るなんて思わなかった。
期末テストで皆に赤点を取らせない為に混ぜて貰った、リモート勉強会。
邪魔者扱いされる心配は余りしていなかったけれど、まさかあそこまで歓迎されるなんて云うのは、完全に想定外だった。
それに皆、理解力が無い訳では無かった。
ただ、数字と記号の羅列に慄き、そこから入り込めていないだけなのが、教えていて良く分かった。
一つ一つ丁寧に進めて行くに連れ、段々その苦手意識も払拭されて行っていた様に思う。
それは、ミカも同じ。……尤も、ミカは勉強全般に苦手意識が有るのだけれども。
……ああ、国語は違うか。国語は、あの子にとっては完全にゲームだもの。
ミカには取り敢えず暗記の為のルーチンを作らないといけないかな。
メソッドじゃダメ。ミカは飽きちゃうもの。
「……ふう」
どれだけ角度を変えても大人し目の夏服の方が似合っていた様にしか思えなくて嘆息を漏らした私は、荷物を持って部屋を出た。
「あ、ユカリ、おはよう!」
家を出た所で、ミカが元気良く声を掛けて来た。
……うん、やっぱり、ミカには盛夏服が良く似合う。
「おはよう、ミカ。良く似合っているね、盛夏服」
「あ、ありがとう! そう言うユカリも……」
そこでミカは口を噤んでしまった。
全く、隠し事が出来ないんだから。
「大丈夫、さっき鏡の前で数分間睨めっこして、似合わないのは分かっているから……」
「……うう、ごめん……」
ミカは申し訳なさそうな目で私を見た。
……全く、私がミカのその目に弱い事を知らないのかしら。
「良いってば。それより私は、あなたとお揃いで気分が良いんだから、そんな顔をしないで?」
「ユカリ……ユカリィィィ!!!」
肩に手を置いて宥める様に言うと、ミカは涙を浮かべて抱き付いて来た。
「えっ?! ちょ、ちょっと、ミカ?!」
「ごめん! やっぱり、普通に話せる様になったのが嬉しくて!」
「それは、……私も、そう……」
「今だけ、もうちょっとだけだから……」
「…………うん………………………………」
「……あらあらあら……」
やにわに声が聞こえたのでそちらを見てみると、ミカのお父さんとお母さんが私たちを微笑ましく眺めていた。
「……おはようございます、小父さん、小母さん……」
「おはよう、ユカリちゃん」
「ユカリちゃん、ミカはどうしたんだ?」
「えーっと、その……」
私が答えあぐねていると、小母さんは小父さんの手を引っ張って歩き出した。
ミカは未だ泣きじゃくっていて、私から身体を離そうとしない。
「あ、おい……」
「もう。あの年頃は色々と有るのよ。私たちもそうだったでしょ?」
「あ、ああ。でも、昨日は何も……」
「じゃあユカリちゃん、遅刻だけはしない様に、気を付けてね!」
小母さんはそのままこっちに手を振りながら小父さんと一緒に駅へと歩いて行った。
……うん。電車の時間も有るし、いつまでもこのままでと云う訳には行かない。
……許されるのならば、このままが良いのだけれども。
「……ほら、ミカ。そろそろ行かないと……」
「う、……うん……」
そこでミカは漸く、私から離れてしまった。
…………………………漸く、私から離れた。
少しだけ距離を保ったまま、並んで駅までの道を歩くミカと私。
「でも今朝はどうしたの。昨日は、普通だったのに」
「……いやあ、まあ、昨日は未だ緊張していたから……」
私の問いに、ミカは頭を掻きながら答えた。
その苦笑いも、いっそ愛おしい。
やっぱり、……いずれお互いが他の誰かと結婚して別々になるまでは、出来る限り一緒の時間を過ごしたいと思う。
それも、お互いにとっての最高の場所で。
その為には、今のままで一緒に居て良い訳では無いのは明白だ。
ミカのグループが、クラスの皆に認められないと。
だから、ミカ。一緒に頑張ろう。
今の2人を取り巻くセカイを変える為に。
……それにしても、『お互いが他の誰かと結婚して別々になるまでは』、か。
……ミカが相手として選ぶのが男性じゃなくて女性だと言うのなら、その時は絶対に譲る気は無いのだけれども。
…………なんて。
視線を上げると、今日も吸い込まれる様な晴れ渡った空がどこまでも広がっている。
……本当に、今年の梅雨はどこに行ってしまったのやら。
「ミカ、ちょっと時間取っちゃったから、駅まで急ごうか!乗り遅れちゃうかも!」
「ちょっとユカリ! 急に走り出さないで! ……きゃっ!」
ミカの手を取って駆け出すと、ミカは転びそうになりながらも、何とか体勢を整えながらついて来た。
……流石はミカ。私が同じ事をされたら、絶対に転んでいる。
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