第16話:リモート勉強会?



 ユカリからのメッセージには、

『お昼に聞こえて来たのだけれど、あなたたち、リモートで勉強会をするんですって?』

『良かったら、私も入れて貰えないかな。勿論、誰かが嫌だと言ったら仕方が無いのだけれど』

と書かれていた。


 ……わっ、わっ。

 正直な話、私としては迷うまでも無くウェルカムだ。

 でも……。


「ミカーァ? 誰ーぇ?」

「ねえねえ、ひょっとしてユカリちゃん?!」

「あ、だったらさ、この勉強会に誘えないかな?!」

「あー、だねぇ。私たちだけだとどうしても……ねぇ」

「ユカリちゃーん! 数学教えてー!」


 …………あれ?


「でもそれ、ユカリちゃんにとってプラスにならなくない? 私たちが一方的に教わるだけになるしぃ」

「あははは、それ言えてる! 私たちバカだから!」

「でもさぁ、ミカのプラスにはなるよね!」

「えっ?! 何を?!」

「あ、ミカ。メッセージ、ユカリちゃんでしょ?」

「そ、そうだけど……」

「じゃあさ、早く返事して誘ってみてよ!」

「そうそう。迷惑掛けるだけになっちゃうかもだけどって!」


 ……何でこんなにフルオープンでウェルカムなのよ。


「皆が良いなら誘うけど、これで皆仲良くなったとしても、学校ではあんまり話し掛けない方が良いかも……」


 今朝、私からユカリに提案した事。

 ユカリがこっち側だと思われてしまうと、それで全部水の泡になってしまいそうで……。


「分かってるって! あの子の周りに居るの、私たちの事毛嫌いしているからね!」

「私たち、そこまでバカじゃないよ?!」


 ……そうだよね。ごめん。


「じゃあ、今送るからちょっと待っていてね」


 私はそう言うと、今の遣り取りを纏めたメッセージをユカリに送った。

 そして、部屋の名前と、……パスワードも。


『ありがとう、今入るわ。……にしても。…………何でパスワードが私の名前なのよ』


 ……ですよね。

 もう、恥ずかしいったら。

 浮かれるのも程々にしないと。


 後悔の念に駆られていると、ユカリの顔が画面に映し出された。

 ……ユカリの部屋だ。

 行かなくなって1か月位なのに、何だかとっても懐かしくて涙が出そう。


「あ!ユカリちゃーん!」

「わ、ユカリちゃん!こうして話すのは初めてかも!」

「本当に来てくれるとは!」


 一斉に声を掛ける3人に少し面食らった様子だったユカリは、軽く咳払いをして自分を落ち着けると、

「よろしくお願いします、アヤカさん、シオリさん、カナコさん」

と、3人に頭を下げた。


「…あれ、ミカには?」

「ってかさ、私たちに“さん”とか要らないから!シオリで良いよ!」

「私もカナコで良いよ!」

「えっ?えっ?…じゃ、じゃあ、シオリ、カナコ、アヤカ、…ミカ?」

「「「いえーい!」」」


 ユカリに呼び捨てにされた3人は、一斉に勝ち鬨の声を上げた。

 ……本当に、何の時間よ、これ。


「……ごめんなさい、今の私の周りの皆、さん付けで呼び合っているから……」


 ユカリは元々大人しい子だし、やっぱりこの勢いには飲まれちゃうか。


「それにしても。勉強会と言いつつ脱線するんじゃないかと思って連絡してみたら…。予想通りだったみたいね」


 ……と思ったらやっぱり強くなっていたユカリは、私たちの手元を見て呆れた声を上げた。

 そう言えば私たち、誰一人として机の上に勉強道具を出していない。


「えへへへ、未だ繋いだばっかだしさ!これからやるの!!」


 カナコはそう言って、鞄に入っていた教科書やノートをごっそりと机の上に出した。

 ……何からやる心算なんだろう。


「じゃあユカリが来てくれたし、取り敢えず、私たち全員が赤点を取った数学からやる?」

「「「はーい!!!」」」


 私が提案すると、3人とも元気に手を上げて応えた。


「ユカリも、それで良い?」

「うん。数学以外は4人で教え合っているのを見ていたから、一番ネックになるのは数学だろうと思っていたし、その心算だったよ」


 訊くと、ユカリは優しく笑ってくれた。

 ……あれ、それって……。


「え、ユカリちゃん、ずっと私たちを見ていてくれたの?!」

「バーカ、私たちじゃ無くて、だろ」

「あ、そりゃ間違いない。何だかんだでユカリちゃんはずっとミカを見てたんだよね!」

「…………ええっと、退室ボタンは…………」

「「「ああ、ごめん、ユカリちゃん!真面目にやるから!!!」」」


 ……案外と言うか。

 思っていた以上に、この3人とユカリは相性が良いのかも知れない。

 

 いつか、学校でも皆で楽しく笑い合える日が来ると良いな。

 そんな未来を想像して、思わず頬が緩む。


「ほら、ミカ。始めるわよ」

「あ、は、はい!」


 笑い交じりのユカリに促されて、私も数学の教科書を開いた。

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