第141話「やったねっ!!!」

悲惨な経験をした過去も含め、いろいろな事情はあるにせよ……

ステファニー達は生死を共にした、大切な仲間だ。


そう思ったディーノはミルヴァとブランシュへ懇願し、

深々と頭を下げていた。


ミルヴァ達から『反応』があるまでに、一瞬の間があった。

ちょっとというか、微妙な間である。

 

あのステファニーが、相当に無礼な振る舞いをしたのだろうと、

ディーノには容易に想像がつく。


しかし……

ミルヴァ達はディーノの願いを受け入れてくれた。


「うふふ、良いわよ。ねぇ、ブランシュ」

「はい、ディーノ君たってのお願いですから」


「助かります」


「ステファニーさんとロクサーヌさん以下、クラン鋼鉄の処女団アイアンメイデンのメンバー達には、貴方ほどとはいかないまでも、ランクアップポイントを考慮してあげるわ」

「ですねっ!」


「ありがとうございます! もろもろ感謝します」


ディーノは再び頭を下げた。

 

そもそも楓村の戦いは、ギルド案件ではない。

自分も含め、ギルドのランクアップには関係ない。

 

ギルドに依頼が出来なかったオレリアから、助けを求められ、

個人的に応じた形である。

つまり、「義を見て為さざるは勇なきなり」という事だ。

 

しかし……

人道的な国家貢献として、

王都騎士隊隊長のクリストフ・シャレット伯爵がプッシュし、

ミルヴァが配慮してくれた賜物たまものなのである。


「それと、ディーノ君」


「はい?」


「シャレット伯爵から聞いたけど……ステファニーさんは、実家のルサージュ家を継ぐんでしょ? 女性辺境伯として」


「ええ。詳しくは知りませんが……そうみたいです」


「あの子の私達に対する言動は大問題だけど……その部分だけは、彼女を応援してあげるわ。同じ女性としてね、頑張って欲しいと思ってる」

「私もマスターと同意です」


ミルヴァとブランシュの言葉を聞きながら……

ディーノは余計、

ステファニーがシルヴァン・ベルリオーズ公爵へ、

申し入れたお願いが、通ったかが、気になった。


後継者容認の申し入れが通り、ステファニーが自分などさっさと見切って……

誰か相性の良い男性と結婚する事をディーノは再び願ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


めでたくランクAとなったディーノが、結果報告をすべき人が何人か居る。


まずは……


ディーノは笑顔のミルヴァに見送られ、

ブランシュと共に魔導昇降機で1階へ降りた。


礼を言い、ブランシュと別れたディーノが向かった先が、

ネリーの居る業務カウンターである。


時間はもうお昼過ぎだ。


『ラッシュ』が完全に終わり……

1階フロアは閑散としていた。


ネリーは笑顔で、自分の席に座っている。

多分、認定試験を終えるのを待っていてくれたのであろう。

すぐにディーノを見つけ、手を振って来た。


同じく手を振って応えたディーノも急いで、業務カウンターへ。


当然ネリーは、ディーノが昇格試験を受ける事を知っていた。

カウンター越しに、ディーノは合格の可否を尋ねられる。


「やっほ~、ディーノ君! で、どうだった?」


「バッチリです!」


ディーノは作りたてのギルド登録証を掲げてみせた。

ランクAの文字が、ネリーの目に飛びこんで来る。


「ほ、本当!? ああっ! ランクA!!」


「はい! 合格しました」


「わあ! やったねっ!!!」


思わず大声を出したネリーへ、周囲の視線が一斉に注がれる。


ディーノは必要以上に注目されるのは避けたかった。

しかし、今回は仕方がない。

ギルドの『姉』ともいえるネリーには、必ず報告しなければ!

そう考えていたからだ。


「ディーノ君って、凄いねぇ……伝え聞いた話でも、私の記憶でも、これだけ短期間でランクAヘ駆け上がった人は居ないもの」


「ここまで来れたのは、ネリーさんが、いろいろ教えてくれたからこそです」


「あは! そう言って貰えると、凄く嬉しいわっ!」


ふたりで盛り上がっていると……

いつの間にか、周囲に人だかりが出来ている。

20人以上ともいえる数だ。

あまり冒険者が居なかった1階フロアの大部分といえよう。


「うわ! 何だ?」


「貴方達は? 何? 何の用?」


ふたりの問いかけに対し、一瞬の沈黙。

その直後に、


「貴方、ディーノ・ジェラルディでしょ?」

「ウチのクランの助っ人に!」

「ぜひ我がクランのメンバーにっ!」

「なら、いっそ、ウチのクランリーダーにっ!」

「お願いっ!」

「頼むっ!」 


様々な依頼を完遂し……

ソロであるディーノの名は冒険者達の間に知られて来ていた。


当然、今回のゴブリン討伐の話をしない者はないくらい、

巷では、大が付くくらいの評判になっていたのだ。


「ええっと……参ったな……」


オファーが殺到し、困惑していたディーノを見て、またも!

ネリーが助け舟を出してくれた。


「皆さ~ん! ディーノさんは直接のオファーを受け付けておりませ~ん! 窓口は私、報酬金額も含め、要望や依頼受諾の可否はマスターとサブマスターの判断によりま~っす!」


「え~!」

「そんなあ!」

「頼むよ~!」

「お願いっ!」


「駄目でっす! 全て却下! ちゃんと正当な手続きを踏んでくださ~い!」


こうして……

ネリーのとっさのフォローにより……

ディーノは、何とかこの場を切り抜ける事が出来たのであった。

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